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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
135/192

5-23 西部都市タハカ

 竜暦6561年8月6日


 船室で5時に起きた俺はサリスを起こし、操船室に向かう。


「オル、異常なかったかな?」

「浮遊物がないか注意してたけど、特に異常なかったよ」


 操舵輪を持ってるオルが答える。

 デッキに出ていたアミが操船室に入ってきた。


「船の後方の沖のほうを見てたけど、何もいなかったですー」


 東の空が徐々に白んでくる。

 そろそろ水平線に陽が顔を出しそうになってきた。


「陽が昇ったら操船を交代するわ」

「うん」

「じゃあ、それまでは俺とアミでデッキで後方の見張りをしてるよ」

「はいです」


 俺とアミはデッキに出て後方の沖合いのほうを確認する。


「もうすぐヒノクスだってのに、落ち着かない航海になったな…」

「しょうがないです」


 しばらく見張りを続けていると東の水平線から陽が顔を出し、海上を赤く染めていく。


「朝だな…」

「まぶしいです…」


 俺は薄目で遠方の沖合いを見ていく。

 かなり離れているのだろうか、波間のすき間から小さい影が見えたような気がした。


(なんだろう、島?いや魔獣か?【分析】【情報】)


 <<ジュエンウー>>→魔獣:アクティブ:不明

 Sランク

 HP 不明/不明

 筋力 不明

 耐久 不明

 知性 不明

 精神 不明

 敏捷 不明

 器用 不明


(はっ?え?はぁ?な、なに!えーーーーーーーーーーーー!!!)


 魔獣を警戒して分析したら、とんでもない表示が出てしまってビックリしてしまった。

 何かの間違いかと疑ったが、マーカーの表示がそのまま出ている。

 詳しく確認しようと、遠方に目をこらすがマーカーが消えてしまった。

 海中に潜ったのかもしれない。


 挙動不審な俺にアミが気付き、声をかけてくる。


「どうしたです?なにか見えたです?」

「い、いや。波の隙間になにか黒い影が見えたような気がしたんだけど…」


 俺がジュエンウーの居た方向を指差すと、アミはその方向を確認する。


「なにも見えないです。いたとしてもかなり離れてるかもです」

「そうだな…」


 スキルのことは言えないので、俺はジュエンウーが、また見えないか見張りを続ける。


(たしかにアミの言うとおり、かなり離れている場所だろうとは思うから、すぐにここまで移動してくるとは思えないが…)


 どの程度離れているかを把握するには、ジュエンウーの大きさをまず特定する必要があるだろう。


 Sランクとは災害級であり、大型のさらに上の魔獣だ。

 文献では、大陸内陸部に生息しているドラゴンが該当するといわれている。


 となると大きさを仮に全長100mとしよう。

 100mの大きさの魔獣が、あんなに小さく見えるとすると確かに距離はかなり離れていることになる。

 10kmは確実に離れているだろう。


 船もかなりの速度で移動しているので、このまま1時間も進めば、さらに距離が離れることになる。

 とりあえず災害級魔獣と近くで遭遇しなかったのは良かったなと俺は思った。


(大陸内陸部にいくと、あんなのがたくさんいるんだな…)


 俺は初めてSランク魔獣を分析したことで、背中に変な汗をかいていた。


 そこで大型帆船の目撃情報を思い出す。


(たしか浮遊物っていう情報だったよな…)


 浮遊物と、俺の発見したジュエンウーとは別物じゃないかと俺は少し気がかりになった。

 ジュエンウーを浮遊物と認識できるような距離の場合、大型帆船は既に海に沈んでいただろう。


(とすると、浮遊物は別の魔獣ってことだな…)


 俺は気を引き締め、海上の見張りに集中することにした。



 しばらく海上を進んだところで、特に異常もないことから交代で食事を取ったあと、オルとアミは船室で休憩することになった。


 操船はサリスが引き継いだので俺はそのままデッキで、後方の見張りを続ける。


 周囲を警戒しながら、ジュエンウーのステータスをふと思い出す。

 まずは不明というの項目があることが気にかかった。


 たしか以前にも同じようなことがあった。


 サリスと10歳の時に遭遇したラビリンス・シードがそうだ。

 海を眺めながら思案する。


(一度も戦ったことがないから不明なのかな…)


 名前があるということは、命名した人物が過去にいた可能性があると思われる。


 ここで俺は少し考えを整理する。


 【分析】は名前や年齢、体力、種族、職業、攻撃性、属性などが表示される。

 【分析】とは魔獣や人や物の存在が、過去も含めて、この世界の人族や亜人族から、どう認識されて扱われているのかを、世界の情報から抽出して表示しているのかもしれないと俺は考えた。

 そうならば当然一度も認識されていない項目は不明となる。


 あとはステータスを表示する【情報】であるが、これは比較対象があって、はじめて表示されるのかもしれないなと思った。

 【情報】とは過去も含めて、この世界の人族や亜人族を物差しにして、世界の情報からステータスを抽出して表示しているのかもしれない。

 過去に一度も人族や亜人族が戦ったことがない相手の場合、その強さがを測定されていないのでステータスが不明となってしまう。


 【分析】も【情報】も、世界の情報から抽出して表示していると考えると、『観測者オブザーバーλ567913』は世界そのものにアクセスできる力があることになる。


 そこまで考えついたが、これ以上は俺の頭では処理できない。

 もしかすると、この推測自体間違っている可能性がある。


(うーん、これ以上考えてもわからん…。とりあえずスキルの件は保留しておこう…)


 とりあえずは上手にこの力と付き合っていくしかないと思い、海上の見張りにまた集中することにした。



 14時を過ぎた頃、デッキで周囲を見回していると、船の進行方向に西部都市タハカが見えてきたが様子がおかしい。

 もくもくと煙が立ちのぼっている。


 俺は操船室に移動する。


「タハカの様子がおかしい!」

「私もちょうど気付いたところよ。オルとアミを起こしてもらえるかしら」

「ああ!」


 俺は船室にいって二人に異常があったことを告げて起こすと、操船室に戻った。


「どうやら火事が発生しているみたいよ」

「あれだけの煙があがるって、かなりの火の勢いですね」


 俺とオルとアミはどういった事態にも対応できるように手早く準備を整える。

 準備がおわると俺はサリスと操船を変わった。

 サリスも手早く準備をすませる。


「もうすこし近づいて様子を見たいです」

「そうね」


 小型船が西部都市タハカに近づくと徐々に状況が見えてきた。

 俺達全員で前方の港に目をやると、港の倉庫街で火の手があがっている。

 かなりの範囲で燃えているようだ。


「あそこになにかいるわ!」


 サリスが倉庫街の一角を指差す。


(【分析】【情報】!)


 <<スキュラ>>→魔獣:パッシブ:水属

 Dランク

 HP 396/451

 筋力 4

 耐久 4

 知性 2

 精神 8

 敏捷 2

 器用 2


(なんでスキュラが!)


 そこには、複数の冒険者がDランク魔獣のスキュラと戦う姿があった。


 スキュラは本来、沿岸部に現れないはずの魔獣である。

 しかもDランクが人の街を襲うこと自体ありえない。


「あれスキュラですよ!なんでここに!」

「あそこにもいるです」


 アミが別の場所にいるスキュラに気付く。


「桟橋の先にもいるわ」


 サリスが桟橋の先の広場にいるスキュラを指し示す。


 西部都市タハカの街が複数のスキュラに襲われているのだ。

 小型船の船上から被害状況を見る限り、襲われて2時間程度たっているのかもしれない。


「スキュラをこのまま放置するわけにはいかない。クシナでも倒してるし俺達も加勢する」

「はい」

「はいです」

「了解」


 三人が返事をする。


「まず桟橋に寄せたら、手早く係留措置をしてから、桟橋の先の広場のスキュラを狙う」

「じゃあ、僕が下りて係留を担当するよ。その間にアミさんはスキュラに向かって気を引いて」

「はいです」


 オルの指示にアミがうなずく。

 俺からはサリスに指示を伝える。


「サリスは負傷者がいた場合避難を優先させてくれ。いなかった場合はアミの援護をして欲しい」

「はい」

「俺はオルの係留の手伝いをしてから、サリスとアミの援護に向かうよ」


 サリスがうなずく。

 それから俺はマジックボックスから破砕粘土を30個ほどオルに手渡す。


「オルには係留が終わったら破砕粘土付きの矢で頭部を狙って欲しい。数は足りそうかな?」

「これだけあれば平気だと思う」


 簡単な作戦の相談が終わったところで、俺は小型船を西部都市タハカの桟橋に接岸した。

 サリスとアミとオルが小型船から飛び降りる。


 オルは手早くロープで船の係留を進め、サリスとアミは駆け出してスキュラのいる広場にむかう。

 俺は船を停止させると、同じく飛び降りてオルの手伝いをする。


 二人がかりで、短時間で係留を終えると俺とオルは、サリスとアミの元へと駆け出した。


 広場につくとアミが暴れているスキュラと正面から殴り合っていた。

 触手の攻撃をパイルシールドガントレッドで受け止めると、受け止めた触手がこげる臭いがする。

 たまらず触手を引っ込めようとする隙を狙って打撃を加える。


 その攻撃に激昂したスキュラがまた触手で襲い掛かるが、アミがリズムよく両手のパイルシールドガントレッドで攻撃を受け止めていく。

 はたから見ると凄い殴り合いである。


 サリスの姿を探すと広場の出口側で負傷した冒険者の避難にあたっている。


 オルは即座に破壊粘土付きの矢を3本、スキュラの頭部にあてるとアミに合図を送る。


「アミさん!」


 その声を聞いて、アミが勢いよく後方にスキュラから離れて距離を取る。

 俺はアミが距離を取ったのを確認してから、マルチロッドで頭部の破砕粘土つきの矢を落ち着いて狙って火の玉を撃ち込む。


「《バースト》!」


 火の玉がスキュラの頭部に命中した瞬間、大きな爆発が起こり胸から上で吹き飛んだ。

 スキュラの肉片が周囲に飛び散り、俺達や避難中の冒険者に降り注いだ。

 ほどなくしてスキュラは力なく倒れこんだ。


 その光景を見ていた避難中の冒険者が騒然となる。


(【分析】【情報】!)


 <<スキュラ>>→魔獣:パッシブ:水属

 Dランク

 HP 0/451

 筋力 4

 耐久 4

 知性 2

 精神 8

 敏捷 2

 器用 2


(よし死んでるな!)


 念のために俺は分析で死亡を確認すると、サリスと合流して次のスキュラ討伐に向かう。


 倉庫街まで走ると、手前の倉庫の中で暴れているスキュラがいた。

 中を覗くと襲われて倒れている人が複数いる。

 状況を見る限り、もう助からないのがひと目でわかった。


「アミ、あいつを倉庫の中から外に引っ張り出してほしい」


 アミが悲壮な顔でうなずくと、スキュラの背後から近寄って打撃を加える。

 右腕にあたる触手で死体を持ち上げて、鋭い牙のある口に運んでいたスキュラが、アミの攻撃に激怒したようで、左腕の触手で頭上から殴りつけてきた。


 ザシュザシュザシュッ


 オルがその腕の触手に間髪をいれずに3本の矢を放ち援護する。

 腕の触手がひるんだ隙に、アミが倉庫の外に駆け出ると、スキュラが複数の脚の触手を動かして、アミを追いかけるように倉庫の外に出てきた。


 頭部を見ると口の周りが血で真っ赤に染まっている。


 それをみた四人全員の中で、激しい怒りが波のように全身に広がる。

 しかし、これまでの修行のおかげか、その怒りに我を忘れず俺達は的確に攻撃を繰り出していく。


 アミが正面で攻撃を受け止めている間に、邪魔な長い腕の触手をサリスがフレイムストームソードを使って切り刻んでいく。

 俺とオルは上半身に攻撃を集中させていき、ある程度ダメージを与えたところで、オルが破砕粘土付きの矢を上半身に3本撃ち込んだ。


 破砕粘土の矢が刺さったところで、タイミングを合わせてサリスとアミがスキュラから距離を取ると、俺はマルチロッドで火の玉を上半身に放つ。

 火の玉がスキュラの腹にあたった瞬間、またしても大爆発が起きて、スキュラの上半身が肉片を撒き散らしながら弾け飛ぶ。

 ドサっと大きな音を立てて、スキュラが倒れて絶命した。


 先に進もうとして足を踏み出すと、牙の生えたスキュラの頭部の破片が飛んできていた。

 先ほどの死体を漁るスキュラの姿を思い出した俺は、しずかにその破片にマルチロッドを向けて《ショット》と呟やき、小さな炎を放って頭部の破片を焼いた。

 亡くなった人を思うと胸が締め付けられるが、まだスキュラが残っている。


 俺達は倉庫街をさらに先に進むと、倒れたスキュラの姿が見えてきた。

 地元の冒険者だろう。

 スキュラを10人前後の冒険者が取り囲んでいた。


「加勢に来てくれたのか!」

「おい、ここに来る途中にもスキュラがいたはずだぞ」

「装備は冒険者だけど、タハカで見たことがないんだが…」


 地元の冒険者達が口々に俺達に話しかけてくるので、収拾がつかない。

 一番年上と思われる男性が、地元の冒険者達を落ち着かせると、俺達に話しかけてきた。


「俺はタハカの冒険者ギルド代表のギウガだ。状況を聞かせてもらえるかな」


 俺がサリスとアミとオルを見ると、三人ともうなずいてくれたので俺が代表でギウガに説明することにした。


「俺達四人はクランの仲間で旅をしています。さきほどタハカに寄港したのですがスキュラの姿が見えたので加勢に来ました」

「ここに来る途中にまだ2体スキュラがいたはずだが、掻い潜ってここまできたのかな?」

「いえ、2体とも倒しました」


 俺の言葉で、その場にいた他の冒険者が騒然となる。


「ふむ、とりあえず状況はあとで聞こう。君達にもこの襲撃の対処を手伝ってもらいたいのだが問題ないかな」

「はい。そのために加勢にきましたので」


 俺がそう答えると、代表のギウガと共に行動するように言われて港の中を走り回って混乱の対処にあたった。


 結局、俺達が西部都市タハカの港湾襲撃騒動から開放されたのは、その日の深夜であった。


2015/05/13 誤字修正

2015/05/13 表現修正



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