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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
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5-22 浮遊物

 竜暦6561年8月5日


 宿の厨房を借りて、サリスが俺達四人の朝食を作ってくれた。


「鳥肉と豆のライスポリッジよ。覚えたばかりだし美味しくなかったら御免なさいね」


 そういってサリスがライスポリッジをテーブルに運んできた。


 見た目は完璧である。

 俺はスプーンですくって口に運んでみたが、美味しいお粥だ。

 水加減も悪くない。

 あと粥の上にのっている鳥肉と豆も濃い味付けがされていて、あっさりとした粥の味とのバランスが絶妙だ。


「美味しいですー」

「サリス、この豆ってもしかしてカスレ?」

「うん、味付けを濃くしたカスレを別に作ってから、ライスポリッジの上にのせてみたのよ」

「なるほど、ボリュームも出て美味しいよ」

「サリスさんの発想は凄いですね。他の国の料理と組み合わせるなんて…」

「本当は昨日お店で食べたように魚介の出汁を使えればいいんだけどね。食材も手に入らなかったから、あり合わせで作ってみたのよ」

「あり合わせでこの味ですか…」


 オルが唖然とするのもよく分かる。

 各地でいろいろな料理を味わっているからだろうが、サリスの舌は本当に特別なようだ。


 俺達は朝食で英気を養ったところで今日の予定を再度確認する。


「昨夜みんなに話をしたけど、準備でき次第シャイハを出航しよう」


 三人が大きくうなずく。


「船内で食べるための食事も、朝食を作る際に一緒に作っておいたから、私の準備は終わってるわ」

「僕とアミさんも荷物の整理が終わってるので、もういつでも出発できるよ」

「はいです!」


 オルとアミは、もう宿を出る準備が終わってるようだ。


「じゃあ、オルには俺の荷物を船に運んでもらおうかな。その間にエワズ海運商会の事務所に行って、出港の手続きを済ませてくるよ」

「うん、ベックの荷物は運んでおくよ」


 オルがうなずく。


「じゃあアミと私で、船に積み込む鍋を分担して運びましょうか」

「手伝うです」


 サリスとアミが厨房にむかうのを眺めながら、オルにあとのことを任せると、俺は一足先に宿を出て出港手続きの為にエワズ海運商会の事務所を訪れた。


「出港手続きをお願いします」

「はい、少々お待ちください」


 俺は昨夜作成した書類を職員に渡す。

 30分ほどして職員が出港するための書類を準備してくれた。

 俺は書類を受け取ると、礼をのべて事務所を後にしようとすると、職員に呼び止められた。


「これからヒノクスの西部都市タハカへ向かうんですよね?」

「ええ、その予定ですが」

「二週間ほど前にタハカから来た大型帆船の船員から、シャイハまで来る途中で大きな浮遊物を沖合いの方向に見たという報告がありまして…」

「浮遊物?」

「はい。波間に大きな物体が漂っていたらしいんですよ」

「…」


 俺はその話に嫌な予感がした。

 沿岸の海で大きな魔獣の報告があがることは、めったにないが、その浮遊物が本当に魔獣だった場合は問題だ。


 この世界の海にいる大型の魔獣は、そのほとんどが陸地から、かなり離れた沖合いにいる。

 そしてその大型の魔獣のせいで、この世界ではスタード大陸を取り囲む海の先に他の大陸があるかどうかの調査が進んでない。

 沖合いを船が進むと、まず襲ってくる。

 それほど海にいる大型の魔獣は凶悪なのである。


 職員が俺の真剣な顔を見ながら話を続ける。


「近づいて確認したわけではないので流木などの可能性もありますが、最悪の場合は魔獣でしょう」

「…シャイハでは既に対策をとってるんですか?」

「万が一を考えて冒険者ギルドが港に見張りをおいてます」

「なるほど」

「あなた方も用心するに越した事はありませんので、なるべく沿岸を通ってタハカに向かってください」

「わかりました。気をつけておきます」

「あと、この情報はまだタハカ側に伝わっていないと思いますので、タハカに着いたら向こうの職員に連絡内容を書いた書類を渡していただけないでしょうか。これが書類です」

「はい。渡しておきますね」


 俺は職員から書類を受け取るとアイテムボックスにしまい、職員に頭を下げてから事務所を出て小型船を泊めてある桟橋に向かう。


(二週間前の話だから、もう航路上にいない可能性もあるけど…、まだいる可能性もあるよな…)


 悩みながら歩いていると、俺は小型船で出港作業をしていたオルに出迎えられた。


「早かったですね」

「うん。サリスとアミは船内かな」

「ええ、そうですけど、なにかあったのですか?」


 俺の様子がおかしいことにオルが気付いたようだ。


「ちょっと出港する前に四人で相談したいことが出来てしまったんだ」


 操船室に俺達は集まると、俺の口から大きな浮遊物の件の話をした。

 三人の顔色が変わる。


「最悪のケースは魔獣だった場合よね」

「戦うのは危険です。その話が本当ならDクラス以上の魔獣で、さらに相手にとって有利な海での戦いになるです。なるべく避けて進むです」

「アミさんの言うとおりですね」

「職員にも言われたけど、俺もアミと同じで、なるべく岸に近い場所を進んで戦わずに済むようにしたいと思ってる」


 そこにサリスが口を挟む。


「私も避けるべきだと思うけど、どうしても避けきれない場合は一撃を加えてでも逃げる必要が出てくるかもしれないわね。だから戦う準備は怠らないようにしておきましょ」


 俺とオルとアミが、大きくうなずく。


「ベック、タハカまでは移動時間は、どのくらいを想定してるのかしら」


 俺はアイテムボックスから旅行準備メモを取り出して予想している航海時間を告げる。


「25時間から30時間の間かな。天候にも左右されるけどね」

「順調に進めば明日にはタハカに到着しますね」

「うん、とにかく戦う準備もしっかりしてから出航しよう。アミとオルは出港したら早めに船室で休んでおいてくれ」

「わかったよ」

「はいです」


 俺達は出港準備を入念に済ませて、昼12時に河川都市シャイハを出発した。


 穏やかな海を小型船が進んでいく。


(なにごとも無ければいいな…)


 操舵輪を持ちながら、俺はタハカまでの航海の無事を祈った。


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