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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
133/192

5-21 河川都市シャイハ

 竜暦6561年8月4日


 朝の6時半すぎに俺が目を覚ますと、まだ船室でサリスとオルとアミが寝ていた。

 俺は三人を起こさないように静かに船室を出ると、そのまま下船して河川都市シャイハにあるエワズ海運商会の事務所に向かう。


 昨夜の23時に河川都市シャイハの桟橋に寄港していたので、本来はもっと早く手続きに行きたかったのだが、港にいた人に教えてもらったエワズ海運商会の事務所に行くと誰もいなかった為、昨夜の上陸は諦めて俺達四人は朝まで船で仮眠をとることになったのだった。


 俺がエワズ海運商会の事務所を再度訪ねると、中に職員が居たので早速手続きを済ませて小型船に戻る。


 船に辿りつくと、サリスが顔を出して迎えてくれた。


「おはよう。早く起きて手続きにいったのね」

「うん。もう終わったから上陸できるけど、オルとアミは?」

「二人とも起きてるわよ」

「じゃあ、朝は宿で手続きをしたら四人で食事をしようか。ふたりともゆっくり寝ただろうし」

「いいわね」


 俺達四人は荷物を持って下船すると、宿にいって手続きを済ませて大通りのカフェで食事をとる事にした。


 おすすめの朝食を頼むと、程なくして店員はテーブルに大ぶりの碗を4つ運んできて並べる。


「海老と貝のライスポリッジです。どうぞ」


 店員が持ってきたライスポリッジに見覚えがある。

 まさにお粥だ。

 俺はスプーンで一口、味わってみたが海老と貝の出汁がよく出ている中華粥そのものだった。

 非常に優しい味で、長い船上での疲れがその味わいによってほぐれていく。


「ライスって言っていましたけど、ここまでドロドロにしちゃう料理があるなんて…」


 オルがライスポリッジを食べて驚く。


「パラノスでもライスを食べるけど味わったことのない味かな?」

「そうですね。僕は初めて食べました」


 サリスが唸る。


「ライスって調理法が様々あるのね…」

「こないだ食べたブンなんて食材に加工したりもしてたしな。スタード大陸の東端にいくほど麦よりライスのほうが主流なんだろう」

「アミさんの話では、ドルドスではライスが売ってなくて麦を使った料理が多いという話を聞きましたけど、中間に位置するパラノスは、そうなると麦とライスの文化の中間地点なんですかね」

「ナンや炊いたライスが食べられてるし、オルの言うとおりかもな」

「ライスポリッジ美味しいです!」


 アミが俺達の話をよそにライスポリッジのおかわりを注文していた。

 美味しければ満足のアミにとっては、難しい話は関係ないのである。


 美味しいライスポリッジを食べ終えて薬草茶を飲んでいると、サリスが店員にライスポリッジの水加減について尋ねていた。

 つぎの航海の船内での食事はライスポリッジになりそうだなと、薬草茶を飲みながら俺はサリスの作ったライスポリッジの味を想像してみた。


 美味しそうだなと、想像だけで頬が緩んでしまった俺がいる。


「さて船内で四人とも休息を取ってるし、このまま二手に分かれて、いつものように情報収集と調達にいこうか。集合は18時に宿に集まろう」

「はい」

「井戸用水魔石は任せておいてね」

「はいですー」


 俺達はカフェをあとにすると、別々の方向に歩き始めた。


 俺とサリスは河川都市シャイハの中心部にある冒険者ギルドを目指す。

 しばらく歩くと街の中心を流れる大きな川が見えてきた。

 この川沿いの通りに目当ての冒険者ギルドがあった。


 中に入ると、まずはEランク掲示板を確認する。


 ・オーク討伐      銀貨8枚

 ・ロックバード討伐   銀貨2枚


(オークの集団が近くに住み着いたのか、シャイハも大変だな…)


 サリスを見るとオークの名前を見て眉をひそめた。

 同じように思ったのだろう。


 オークはボアに似た顔を持つ人型魔獣で、知能が高く武器や防具を装備する。

 しかも集団を構成するという厄介さだ。

 依頼票の補足を見ると、やはりEランク以上のクランが必須条件になっていた。

 俺達の場合、討伐をうけることは可能だが、受けるかどうかは四人できちんと話し合う必要があるなと俺は思った。


 サリスがもう一つの名前の魔獣の依頼票を指差す。


「ロックバードは聞いたことがないわね。ヒノクスの魔獣図鑑にのってるかしら」


 俺は魔獣図鑑を取り出すと、ロックバードのページを探す。

 しばらく探してようやく載っているページを見つけた。


「鳥の魔獣で、皮膚が岩のように硬いらしいね」


 俺は開いたページをサリスに見せる。


「空を飛ぶって書いてるから、重さはさほど重くないのね」

「でも飛び立つのに助走が必要って書いてるから、罠なんかで一度地面に下りてくれば討伐が楽そうだね」

「その話だと、報酬が低いのも理解できるわね」


 魔獣の確認は終わったので、河川都市シャイハの冒険者ギルドの職員に冒険者証を提示して、この周辺の情報を確認してみた。


「名所ですか…。となると街の中央を走る川くらいですかね」

「川ですか」

「渡し舟には乗りましたか?」

「いえ、乗ってませんが」

「シャイハには橋がないので、向こう岸に渡る場合は渡し舟が必須なんですよ。渡し舟から見る街の景色は綺麗ですよ」

「え!、でもお金を払うとなると街の皆さんは困りますよね?」

「行政庁が資金を出して運営しているので渡し舟の利用は無料ですよ」

「なるほど…」


 俺は冒険者ギルドの前を流れる大きな川を思い浮かべた。

 たしかに幅が広いので、橋をかけるとなると大変だなと思った。

 当然増水などに対応するとなると、かなり強固なものが必要になるだろうし、そういった意味では渡し舟のほうが格安で済むだろう。


 俺は職員から渡し舟の乗り場を教えてもらうと、次にヒノクスの情報を確認してみたが、ヒノクスからの交易品以外の情報はあまり詳しくはないとのことだった。

 大型帆船で8日程度かかる程度距離が離れているのだ、情報が入ってこないのは、しょうがない。


 ヒノクスより入ってくる交易品を聞いてみると、米、野菜、塩、ラッカーという素材を使った食器、あとは武器や防具などの装備が人気らしい。

 装備に関しては質の良い金属が使われているらしく、河川都市シャイハに人気があるという話だ。

 俺は装備よりもラッカーという素材を使った食器が気になった。

 俺の転生前の知識では、ラッカーは漆を意味する。

 となるとラッカーという素材を使った食器は漆器のことだろう。


 俺はこのあと食器を置いている雑貨屋で確認しようと考えた。

 職員に丁寧に礼をのべると、俺とサリスは装備工房と食器を見にいくことにした。


 まずは冒険者ギルドの職員に教えてもらった装備工房に向かう。

 店内を見渡すが、あまり変わった装備は置いていない。

 サリスが店主に尋ねる。


「すいません。ヒノクス製の武器や防具は売っていないのかしら?」

「ああ、そこの棚にあるよ」


 店主が指差すが、あまり特別な武器に見えない。


(【分析】【情報】)


 <<ファイン・ショートソード>>

 Dランク

 土属

 魔力 20

 耐久 680/680

 敏捷 2

 器用 2


(魔力は低いけど耐久は高いな。いままで見たことの無い接頭語がついてるな…。ファインって素晴らしいって意味だけど…)


 俺は店主に、ヒノクス製の武器や防具について尋ねてみた。


「なるほど旅の冒険者だったのか。ヒノクスから持ち込まれる武器や防具にはスティールという素材の金属が使われてるんだよ。シャイハでは作れない金属なんだけど、とにかく折れにくいし硬いのが魅力なんだよ」

「それじゃあ、冒険者に人気が出ますね」

「高価なマジックアイテムの装備じゃなくても、十分に魔獣と戦えるからな。もちろんスティールを使ったマジックアイテムの装備もあるらしいが、そんな武器はここじゃ扱ってないけどな」

「そうなんですか?」

「周辺に特に強い魔獣が出るわけじゃないしな。しかも高すぎてシャイハでは売れないよ」


 これ以上は、情報も得られそうに無かったので、俺とサリスは店主に礼をいって装備工房をあとにする。

 俺は通りを歩く人に、食器を扱っている雑貨屋の場所を尋ねると、対岸にあるという話を聞くことが出来た。

 サリスと二人で渡し舟の乗り場に向かうと、そこには複数の平底船が並んでいた。

 平底船には帆はついていない。

 どうやら長い竿で川底を突いて移動するらしいタイプらしい。


 俺とサリスが渡し舟に乗り込むと、船頭が竿を巧みに操って川を渡り始める。


「川の上からみるシャイハの街は綺麗ね」

「うん、風情があるな」


 船頭が俺とサリスの話を聞いて、良い話を聞かせてくれた。


「昼間も綺麗ですけど、日没後はもっと綺麗ですよ。両岸にある店々からもれる灯りが穏やかな川面に映されますしね」

「それは見てみたいわね」

「そうだな」


 船上から見るシャイハの夜景を想い描きながら是非記事にしたいなと、俺は思った。


 そんなことを思いながら、しばらくすると対岸に渡し舟が着いたので、俺とサリスは教えてもらった食器を売っている雑貨屋に行ってみた。


 店に入って見渡すと、俺の中で懐かしい記憶のある食器がおかれている棚を見つけた。

 ヒノクスから河川都市シャイハに入ってきている、ラッカーという素材を使った食器とはやはり漆器であった。


 独特の光沢が放つ綺麗な食器の姿にサリスも気に入ったみたいだ。


「素晴らしい食器ね」

「これがヒノクスからの交易品の食器だと思うよ。独特だし、そんなに数が置いてないから」


 サリスが黒い漆器のお碗を手に持つと驚いた。


「え?軽いわよ、これ!」

「木の上にラッカーを塗っているみたいだね、木の器なら軽いだろうし」

「なるほど、本当に珍しいわね」

「いくつか買っていこうか?」

「うーん。ここだと高くついちゃうから、本場のヒノクスまで我慢するわ…」


 しっかり者のサリスを見ながら、転生前の東洋の文化を色濃く感じさせるヒノクスへ、さらに思いを強くしていく俺がいる。


2015/05/12 誤字修正

2015/05/19 誤字修正

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