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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
132/192

5-20 予定

 竜暦6561年8月1日


 朝8時に密林都市ノハを出港した俺達は、七番目を寄港地の河川都市シャイハを目指す。


 操舵輪を持っているサリスが俺に寄港地のことを尋ねてくる。


「最終目的地はヒノクスの港湾都市トウキだけど、あともうすこしだったわよね?」

「河川都市シャイハが七番目の寄港地で、次の西部都市タハカが八番目の寄港地、そして最終目的地の港湾都市トウキが九番目の寄港地になるよ」

「最初の予定通り、本当に8月中にヒノクスに着いちゃうわね」

「小型船のおかげさ」


 俺はそういってサリスに笑いかける。


「そういえば以前バイムで話を聞いた時は曖昧な話をしていたけど、ヒノクスに着いてからの具体的な予定は決まったのかしら」

「まだ決まってないんだよね。内陸部に進んでみたい気もするけど…」

「けど?」

「ドルドスに戻る時間を考えると、あまり遠くまでは馬車でいけないと思うんだよ」


 サリスも前方の海上を見ながら思案している。

 あまりに長く思案しているので、俺は妙だなと思いサリスに声をかけてみた。


「ん、サリスはどこか行きたい場所があったのかな?」

「ヒノクスの沿岸部にあるガイシュ迷宮に寄ることが出来たらいいなって思ってたの。でも話ではトウキから内陸にかなり進んだ場所って話よね」


 サリスが珍しく気落ちしている。


「ベックはヒノクスの情報をどこまで掴んでいるのかしら?」

「実はあまり詳しく分かってないんだ。もともと今回はパラノス行きを計画してたから、パムにいた時もパラノスの情報を中心に集めてたし」

「そうなのね」

「それにパラノスもヒノクスも距離が遠いし、行き来するのは基本的に海運商会の人だけだから、わかる情報も断片的なものばかりなんだよ」

「私の中でも知ってるのは、独特な文化を持っているというくらいだわ」

「本になって、きちんと紹介されてないからね。どうしても人々に伝えられる情報の範囲が限られるんだと思うんだよ」


 俺がそういうと、サリスもうなずく。


「たしかにドルドス国内の都市の間でも、知ってる範囲は限られちゃってるわよね」

「うん。本来詳しいであろう交易関係者も情報を秘匿していたほうが儲かることが多いから、おおっぴらにしないしね」

「それじゃあ、ベックが旅行記を書いちゃうと交易関係者が怒るんじゃないの?」

「エワズ海運商会との話し合いで、交易品の金額に関しては記事にしないことになってるから平気だよ。他の交易関係者もそれなら怒らないと思うよ」

「そんな条件まで契約に入れてたの?」

「そうだよ、エワズ海運商会からの要望なんだけどね。金額さえ明記されなければ、旅行記については海外品の良い宣伝になるということで、エワズ海運商会は喜んでたけどさ」

「へぇー」

「俺は旅行を楽しめて本を出版できるし、エワズ海運商会も自分の扱う商品の宣伝になるということで、お互いに利益があるから今回の旅に出る際の乗船契約もすんなりと締結したんだよ」

「よく考えてるのね」


 俺の話にサリスが感心した。


「話がそれたけど、ヒノクスの情報もそろそろ集める必要があると思ってるんだ。迷宮の件も含めてね」

「馬車で2週間かかるとかだと無理よね」

「せめてガイシュ迷宮が馬車で1週間くらいで行ける場所なら平気かな」


 サリスも俺の話にうなずく。


「そうね。往復で2週間なら迷宮に1ヶ月は挑戦することが出来るわ」

「そうだね、そうすれば9月下旬か10月上旬にヒノクスを出発することが出来るから、年内にパムに戻れると思うよ」

「二人が起きたら、相談しておきたいわね」

「そうだな」


 俺が返事をしたところで魔力切れの合図が鳴る。

 船倉から持ってきた新しい井戸用水魔石をセットして、サリスと操船を交代し俺が操舵輪を持つ。

 時間を見ると15時15分だった。


 穏やかな海が目の前に広がる。

 俺は河川都市シャイハを目指して、小型船を順調に進めていく。


 陽が少し傾いてきたところで、オルとアミが船室から出てきた。

 しっかりと睡眠が取れたらしい。


 起きてきたオルとアミに、サリスがヒノクスでの予定の件で話をする。


「僕としては修行中の身ですし、挑戦できるのならガイシュ迷宮に挑戦してみたいですね」

「オルが行くなら、わたしも行くです」

「必ずいけるとは限らないけど、遠い場所じゃなければガイシュ迷宮に挑戦してみるってことでいいかな」


 3人が大きくうなずいた。


「もしガイシュ迷宮が遠いようなら、諦めてトウキ周辺の近場の都市を見てまわるからね。それだけは覚えておいてね」


 ヒノクスでの方針がある程度固まったところで、サリスが夕食の準備をするために船室に移動する。

 サリスのあとを追ってオルとアミも船室に移動した。


 俺は一人になった操船室で、操舵輪を持ちながらヒノクスへの個人的な期待に思いを巡らす。


(とりあえずは味噌と醤油があるかどうかが重要だよな。一番にそれを確かめないとな…)


 俺にとってヒノクスへの旅行は、ガイシュ迷宮も楽しみだが、それ以上に懐かしい味との邂逅を期待している部分が多数を占めている。


 頭の中で卵かけご飯を思い描きながら、俺は夕陽に染まりかけた海上を進んでいく。


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