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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
131/192

5-19 サンサンシュ

 竜暦6561年7月31日


 朝、四人で宿の食堂に集まる。

 昨日は完全に二組とも別行動をしていたので、四人で顔を合わせるのは一昨日ぶりだった。


 サリスとアミが宿の食堂を借りて朝食を作りにいったので、俺はオルに昨日のことを聞いてみた。


 一日中、それなりに雰囲気よく過ごせたらしい。

 まだ清い関係らしいが、進展したのは確かだ。

 そのうち徐々に触れ合う機会が増えれば、さらに進展するだろうし俺は暖かく見守ることにした。


 しばらくすると食堂のテーブルにサリスとアミが食事を運んできた。


「どうぞ。野菜と白身魚の焼きブンよ」


 昨日早速食材を購入したので、試しに作ってみたそうだが非常に美味しい。

 魚醤と塩コショウのバランスが良く、素材の味を引き出している。

 手軽に作れる上に美味しいとみんなに好評だった。


「この街ではライスを粉に加工してこんな紐状にするんですね。初めて知りましたよ。しかも美味しいです」

「確かにオルの故郷のパラノスでは、ライスは炊くのが主流だったよな」

「はい」


 オルがうなずく。


「この街では料理にライスの粉が多く使われてるそうよ」

「そうなんですね」

「食材屋で、他にもライスの粉を買っておいたけど、ガレットみたいに水で溶いて薄く延ばして焼くと美味しいらしいのよね。今度作ってあげるわね」

「ガレット?」

「ああ、オルはまだ食べたことないのか。小麦やそばなどの穀物の粉を水で溶いて焼く料理だよ」

「美味しいですー」

「ガレットならアミでも作れるよな」

「うーん、今度挑戦してみるです」

「アミさん、楽しみにしてますね」

「任せるです」


 アミがサリスを見つめて胸をはる。

 どうやらガレットの作り方を教わるつもりらしい。

 以前はあまり調理に興味がなかったアミだが、やはり恋する乙女というのは相手のことを思い変わっていくものなんだなと俺は思った。


 食事を食べ終わり、みんなで薬草茶を飲み始めたところで、昨日の成果をお互いに確認しあった。

 まずはオルが口を開く。


「井戸用水魔石は、なんとか20個追加で購入できました。ただこれ以上購入する場合はEランク以上の水魔石を持ってきて欲しいそうです」

「20個じゃきついな…」

「そうですね。魔獣討伐をする必要がありそうです」


 次にアミが話をする。


「レインコートや清浄送風棒の交換魔石は問題なく買えたです!」

「そっちは平気そうだね」

「はいです」


 アミに続いてサリスが食材の状況を話す。


「ノハで、それなりに食材を買うことが出来たので、当分持つわよ。長い船旅でも平気よ」

「今朝の料理もそうですけど、変わった食材も多く買ったみたいですね」

「ええ、フィッシュソースとライスの粉とブンは、料理に幅広く使えそうなのよね」

「美味しい料理たのしみです!」


 最後に俺がクエストと周辺の情報を話しはじめる。


「密林都市ノハというだけあって、街の周辺は鬱蒼と樹々が生い茂る密林がほとんどらしい」

「なるほど」

「見るべき場所も少ないという話だから、ノハでは魔獣討伐を中心にしたいと思ってる」

「水魔石を出すのはいるです?」


 サリスがアミの問いに答える。


「この付近の密林にはサンサンシュというEランク魔獣が多いらしいのよ」


 俺はサリスの言葉にあわせて、ヒノクスの魔獣図鑑のサンサンシュのページを開いてオルとアミに見せる。

 そこには巨大な蛭の挿絵が書かれている。


「スライムのようですね」

「スライムより厄介らしいわ。複数の牙がある口があって、それをつかって血を吸ってくるって話よ」

「そんな魔獣が多いというのは、街としては危険ですよね?」


 俺はページに書いてある補足を指差す。


「ほら、ここに書いてるけど塩に弱いんだ。だから海沿いのこの街にはこないって話なんだよ」

「そうでしたか」

「あとは住民も常に家に塩を常備してるから、それほど脅威ではないらしいんだ」

「それなら安心ですー」

「でも、準備を怠って密林に入ると襲われるから、常時冒険者に討伐依頼を出してるそうなんだ」

「注意点はありますか?」


 サリスがオルの問いに答える。


「樹上で待ち構えてて、人が下を通ると落ちてきて首元を狙ってくるらしいわ」

「なかなか狡猾ですね」

「でも基本的にそこまで強いわけではないし、俺達では特に問題ないと思ってるんだけどね。しかも頑張れば数も倒せる」

「報酬はいくらなんですか?」

「昨日みた時は4匹討伐で銀貨2枚だったよ」

「報酬が低いのは、危険度が低いからですかね」

「そうだと思う。数を倒せば追加報酬もあるらしいから、とにかく数多く倒したいな。そこでサンサンシュの討伐だけど俺とサリス、オルとアミの二組分かれて密林を捜索しようと思ってるけどどうかな?」


 三人が大きくうなずく。


「二組で競争ですー。サリスたちには負けないです!」

「あら、こっちのほうが勝つわよ。ね、ベック」

「そんなこと二人とも言ってると、魔獣に反撃をくらうぞ。ほら、まずは冒険者ギルドに行くよ」


 俺達四人は冒険者ギルドでクエストを受けると、そのまま北部にある密林に向かう。

 密林のそばに来たところで、俺達四人は蒸し暑さと吸血の対策として、全天候型レインコートを羽織る。


「いま10時だから16時にここに集合することにしようか」

「それでいいよ。じゃアミさん行きましょう」

「はいです!」


 オルとアミが密林の東側に向かうので、俺とサリスは西側に向かう。

 サリスが盾を構えて慎重に進む。


「二人だけで魔獣討伐にくるのは、4年ぶりかしら…」

「そうだな…」


 二人ともこの4年の出来事を振り返る。


「いろいろあったわね」

「これからも先もいろいろあるよ」


 俺が笑いながら答えるとサリスも微笑んだ。

 そこでサリスが立ち止まり樹上を指差す。


(【分析】【情報】!)


 <<サンサンシュ>>→魔獣:アクティブ:水属

 Eランク

 HP 54/54

 筋力 1

 耐久 1

 知性 2

 精神 2

 敏捷 1

 器用 1


(Eランクでも、かなり弱い魔獣だな)


 俺は頭上の木の枝に貼り付いているサンサンシュをチェーンハンドボウで慎重に狙いスパイクを撃つ。

 サンサンシュの胴体にあたり地面に落下してきた。

 サリスが駆け寄り、フレイムストームソードで牙の生えている口のある頭部を斬りおとす。

 頭を切り落とされたサンサンシュがまだ牙をカチカチ動かしているので、冒険者ギルドで支給された塩を俺が切断面にかけるとようやく息絶えた。


「気持ち悪い敵よね。塩じゃないと止めをさせないとか…」

「職員が言ってたけど、胴体部分は時間をかければ再生するらしいしね」


 俺はそういってから、採取用の大型ナイフで頭部を切り裂いて小さめのEランクの水魔石を回収し、さらに採取証明として円形になった口の部分を切り取って採取箱に入れる。


「よし次のサンサンシュを探そう」

「そうね」


 それから俺とサリスは6時間密林を彷徨い、計13匹のサンサンシュを討伐して集合地点に戻る。

 程なくしてオルとアミも戻ってきた。


「アミ、そっちは何匹たおしたのかしら」

「えっと…オル、何匹倒したです?」

「全部で27匹だね」

「「え?」」


 俺とサリスは驚く。

 俺達の2倍以上の数を倒していたからだ。

 そこでサリスが気付く。


「あー、加護のことをすっかり忘れてたわ…」

「なるほど、たしかにそうだな」

「サリスたちは、何匹だったです?」

「こっちは13匹だよ」

「わーい」


 アミが両手をあげて喜こぶと、オルがアミを諌める。


「アミさん、暗視の加護がある僕達とサリスさん達を比較しては駄目だよ」

「いいのよ、オル。それにしても、さすがよね。森での猫人族の狩猟は素晴らしいわ」


 俺もサリスに同意する。


「うん、そうだね」

「加護もないのに13匹も討伐したのも、さすがですよ」

「さてと、じゃあ俺とサリスで冒険者ギルドに報告してくるから、オルとアミは魔石工房に水魔石を持っていってくれるかな」

「はいですー」

「時間も遅いし、急ぎましょ」


 俺達四人は密林都市ノハに戻ると二手に分かれて、それぞれの用事を済ませる。

 この日の成果は俺達に、銀貨20枚と井戸用水魔石21個をもたらすことになった。


2014/05/11 句点修正

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