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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
130/192

5-18 箸

 竜暦6561年7月30日


 ふかふかのベッドで寝ていると優しい声が聞こえてくる。

 かぐわしい香りもする。


 その刺激に機能してなかった脳の回路の一部が反応したが、ぼんやりとした空間をふわふわと漂っている気持ちよさに動き始めた脳の回路がまた眠りにつきそうになる。


 また優しい声が聞こえてくる。

 さきほどよりハッキリした声だ。


(…サリスか…)


 声の主がだれなのかを認識する。

 再度眠りにつきそうになっていた脳の回路が再び目覚める。


(朝か…)


 ようやく脳が覚醒しはじめると、元気な息子がいる下半身に意識がいく。


(トイレにいかないとな…。夕べは水分をとりすぎたかな…)


 俺はベッドから起き上がるとサリスに朝の軽いキスと挨拶をしてから、眠い目をこすってトイレに向かう。

 トイレには据付型の蓋付きの箱が置かれていて、俺はその蓋を開けて、そこで用をたす。


 箱は陶器製で中には、おが屑が入っている。

 ある程度の糞尿が溜まると宿の従業員が回収して、農家に売って堆肥に利用するというエコな仕組みだ。


 もっと良い宿だと分解壷があるのだが、今回泊まった宿では、このタイプのトイレが部屋についていた。


 なぜおが屑なのかというのは、マジックアイテムである分解壷に使用している高価な分解土の代わりに、安価なおが屑を使用したという話であった。

 また代用であれば普通の土でも良かったのだが重いという理由で、おが屑になったらしい。


 トイレから出るとサリスが冒険者装備に着替え終わっていた。

 俺も冒険者装備に着替え始める。


「熟睡してたわね」

「うん、疲れが溜まってたのかもな」

「遅くまで旅行記の記事を書いてるからじゃない?」

「それもあるのかな…」


 サリスが窓の外を見ながら眉をひそめる。

 俺も外をみると、厚い雲が空を覆っていた。


「出かけるときには、雨が降ってそうだな」

「レインコートがあって良かったわ」

「そうだな。あと今日の予定は雨だけど変更なしでいこうか」


 サリスがうなずいて、話題を変える。


「二人は大丈夫だったかしらね」

「どうだろうな。いきなり襲うなんてことはオルには出来そうにないから、添い寝程度じゃないか?」

「それでも十分よ」

「まあな」

「朝食は別々にとるって話をしたし、そろそろ出かけましょうか」


 俺はサリスと一緒に宿の外に出ると、大きな雨粒が空から落ちてきた。

 レインコートを取り出し羽織ると、足早に冒険者ギルドに向かう。


 思いのほか雨脚が強い。

 バケツをひっくり返したような雨が街を包み込む。

 大通りに面したカフェに、俺とサリスは雨をさけるために立ち寄る。


「随分と激しいわね」

「とりあえず朝食を食べて雨脚が弱まるのまとう」


 俺は店員にテーブルに案内されると、おすすめの朝食を頼む。


 10分ほどして店員が料理をテーブルに運んできた。


「野菜と鳥肉の焼きブンです。どうぞ」


 店員は調理と箸を持ってきた。


(え、箸!ここじゃ箸を使うのか!)


 料理を見て、さらに俺は驚いた。


(白い麺ってことは、もしかして、ビーフン!箸に麺ってやはりスタード大陸の東は、転生前のアジアに近い文化があるみたいだな…)


「この二本の棒はなにかしら?スプーンとかフォークは使わないみたいね」


 サリスが箸を見て首をかしげる。

 俺は店員にスプーンとフォークがあるかどうか確認すると、すぐにもって来てくれた。

 その際に箸の名前を聞いてみると"スティック"という名前だと教えてくれた。


「この辺りの人はスティックで食べるのね」


 俺はサリスの話を聞き逃して、普通に箸をつかって焼きブンを味わっていた。

 やはりブンとは米粉で作ったビーフンのことであった。


「え?、な、なんでベックはスティックを使えるのよ!」


(あ!そうか、この世界じゃ俺ドルドス生まれだよな…)


 俺は内心焦ったが、落ち着いてサリスに思いついた言い訳を口にする。


「えっと、小さいころ東端の国では、こういった棒きれで食事を食べるって読んだことがあってね。面白そうだから幼い頃に家で試したことがあったんだよ」

「でも、扱い方が上手よ」

「うん、かなり練習したからね。将来、東端の国に旅行しても困らないようにと思ってさ」

「ほんとにベックは旅行バカなんだから」


 俺は笑って誤魔化す。

 しかしこの料理は美味しい。

 懐かしい味がかすかに感じられる。


 サリスもスプーンとフォークで焼きブンを味わったが、その独特の甘みが気になったらしい。


「これって以前食べたパテとは違うわね」

「あれは麦の粉を使ってたと思うけど、これはライスの粉を使ってるみたいだな」

「なるほどね」


 サリスがメモを取る。


「あとはこの独特の香りと味よね」


 俺は店員に、作り方を聞いてみると、ブンという米を使った麺を鳥肉と野菜を塩コショウとフィッシュソースで炒めてるらしい。


 フィッシュソースというのが気になったので尋ねてみると、店員がフィッシュソースを少し注いだ小皿を持ってきた。

 俺とサリスが味見をする。


「変わった味だけど、深い味わいと甘みがあるわね」


(ああ、これ魚醤だ!!!)


「これは魚を発酵させた調味料かな?」

「はい、このあたりでは良く使いますよ」


 俺の予想は当たっていた。

 これは非常に嬉しい。

 大豆をつかった醤油がある可能性が高くなったのだ。


「シンプルな料理だけど、奥深いわね。フィッシュソースをあとで買いにいきましょ」

「そうだな」


 俺は返事をしながら、焼きブンを存分に堪能した。


 食事を食べおわり、二人で薬草茶を飲んでいると、あれだけ激しく降っていた雨がもうやんでいた。

 晴れ間も見えている。

 店員に話を聞くと、この時期にはああいった激しい通り雨が多いらしい。


 俺は転生前の世界でいうところの、熱帯地方に多く見られるスコールを想い描いた。


 大通りに出ると、雨が降った影響で少し温度が下がったみたいて快適である。


 俺とサリスは涼しい大通りを歩いて目当ての冒険者ギルドに向かうことにした。


2015/05/11 誤字修正

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