5-11 ミルキーウェイ
竜暦6561年7月20日
島嶼都市タゴンから渡し舟で1時間ほどの場所にある小さな島に桟橋に俺達はいた。
いまは10時半。
16時に渡し舟に迎えに来てもらうことになってるので5時間ほど、この小さな島を見て回れる。
「その綺麗な入り江ってのは、ここから遠いです?」
「どうかしらね、昨日宿の人に聞いた話だと桟橋から北にまっすぐ森を抜ければすぐだって話をしてたけど」
俺は島に目を向けるとヤシの木が茂る森が広がっている。
「いけば分かるさ」
「そうですね」
「じゃ、いきましょうか」
「はいですー」
いつも通りアミを先頭にしてヤシの森の中を北に進む。
森の中は少し蒸し暑いが、我慢できないほどではない。
小さな島で周囲を海に囲まれているからかもしれない。
30分ほどかけて島の北に到着した。
「ここがそうみたいね」
「ミルクの海ですー」
「アミさんのいうように見る限りミルクだね」
「これは確かに綺麗だな」
俺達4人の目の前に広がっていたのは複雑に地形が入り組んだ入り江で、その入り江の水が乳白色をしていたのだ。
ひとしきり景色を堪能した俺達は水着に着替える準備をする。
俺はアイテムボックスから簡易テントを取り出して設置する。
「先に着替えるから待っててくれ」
俺はオルと一緒にテントの中に入ると装備を脱いで紺色のトランクスタイプの水着に着替える。
水着を着終わりオルに目を向けると、昨日購入した水色に白い縦のストライプのはいったトランクスタイプの水着をオルがはこうとしているところだった。
(器用なもんだな)
青毛の尻尾を後ろを見ずに手探りだけで、水着の穴に通していくオルの姿を見て俺は感心した。
こういった動作は猫人族に生まれたときから行っているから、感覚だけで簡単に出来るものなんだろう。
「そうやって着替えると尻尾を通した穴は最初から開いていたかのようだな」
「うまく縫うコツがあるんだよ」
「なるほど。しかしゆうべ水着の穴を縫うオルとアミの姿を見ていたけど二人とも器用だよな」
「亜人族は人族の服や装備がそのまま買っても使えないからね。裁縫は幼い頃から練習するんだ」
「それで二人とも上手なのか」
「うん。でも僕よりアミさんのほうが上手だよ」
「へぇー」
俺はおもわず納得した。
「さてとサリスとアミを待たせちゃ悪いな」
「そうだね」
俺とオルはテントから出ると、待っていたサリスとアミが着替えのためにテントに入っていった。
待っている間に写真機を取り出した俺は、乳白色の入りをの写真を撮っていく。
しかし本当に白い。
ふと添乗員時代にツアーを計画したときの記憶がよみがえる。
あの時は南国パラオにあるミルキーウェイの資料に目を通したのだが、ここの入り江も同じなんだろうなと俺は思った。
そうするとこの乳白色の正体は海底に沈殿した石灰を多く含んだ泥だろう。
(たしか泥パックをすると肌が綺麗になるとかって話があったよな)
俺はふとあることを思いつきニヤニヤしてしまった。
しばらくするとサリスとアミが水着に着替えてテントから出てきた。
サリスは白地に大きな花柄がデザインされたビキニを着ており、アミも鮮やかなブルーのビキニを着ていた。
「似合ってるです?」
オルがアミの問いに無言でぎこちなく何度もうなずく。
肌の露出が多いアミの姿にオルが、おかしくなってしまっていたのだ。
まあその気持ちはよくわかるぞ!
水着によって胸の谷間が強調されているのだ!
純情なオルがおかしくなるのも当然だろう!
しかしあまりにもアミを凝視しすぎているオルをこのままにしておくわけにいかない。
俺はオルの背中を叩いてから、乳白色の海に向かうことにした。
「オルはアミにまず泳ぎを教わるところからだな。頑張れよ」
「う、うん」
俺とサリスは、アミにオルを預けて海の中に入っていった。
穏やかな入り江で波もほとんどない。
胸元まで水がある場所まで歩いて進んでみたが、海底の泥の感触がなんともいえない。
「これって泥かしら足元がぬるぬるするわ」
「確かめてみようか」
俺はそういうと乳白色の海に潜って足元の海底に沈殿していた泥を両手ですくいあげてみた。
「ふー、これが足元にあった泥だよ」
「真っ白ね!これがこの海が白い理由なのね」
「そうだな」
俺はすくいとった白い泥を腕に塗りつけてみた。
たしかにきめ細かい泥だ。
これは確かに泥パックになりそうだ。
腕に泥を塗りつけた俺を見てサリスが不思議そうに聞いてきた。
「なにしてるの?ベック」
「サリスも腕を出してごらん」
サリスが右腕を出すので泥を塗ってあげる。
きめ細かい泥のぬるぬるした感触にサリスが思わず顔をしかめる。
「なんかちょっと変な感じね」
「前に本で読んだけど、こういった泥は肌にいいらしいんだよ。泥が乾いてきたら海水で洗い流してみるとわかるよ」
「え?そうなの!」
「本で見た情報だから、本当かどうかここで試してみようと思ってるのさ」
俺はそういうと自分の顔と髪にも泥を塗りつけた。
それを見てサリスが楽しそうに笑う。
「ベック、頭が真っ白でおかしいわよ」
「もっといい男になろうと思ってね」
「ほんとに馬鹿ね」
しばらくすると泥が乾いてきたので、サリスと俺は海水で泥を落としてみた。
顔をさわるとスベスベしている。
やはり効果はあるみたいだ。
「ほら、俺の顔をさわってごらん」
サリスが俺の顔を触っておどろいた。
「本当にツルツルだわ!」
慌ててサリスが泥を落とした自分の右腕を触ってみると、その感触にうっとりした表情を見せた。
「これすごいわね!いつも以上に肌がつるつるになってるわ」
「元々サリスの肌は綺麗だけど、この泥でもっと綺麗になれるな」
「そ、そうね」
俺の言葉で少し照れたサリスが可愛い。
「アミにも教えてあげないといけないわね」
俺とサリスは、アミとオルのいる浜辺のほうを見ると、ちょうどオルがアミに手を持ってもらいながらバタ足をしているところだった。
顔も水につけているし、この様子なら泳げるようになるのもすぐだろう。
まあ、この入り江なら足が届く場所が多いから泳がなくても楽しめるし、オルにとっても初めての海水浴としてはいい場所だったなと俺はおもった。
しかし泳ぐのに必死なはずのオルだが、顔を見ると嬉しそうにも見える。
アミが泳ぎを教えてくれるいるし、あの胸の谷間を間近で堪能できているのだ。
喜ばない男はいないだろう。
「もうすこしでオルも泳げそうね」
「小型船にも乗ってるんだし、泳げるとなにかと捗るしな」
サリスがうなずく。
「でもオルとアミの距離も縮まってきたわね、オルが毎日頑張ってるみたいよ」
「そうだな」
「昨日アミがオルに"好き"って言われたって喜んで私に話してくれたわよ。最近そうやって言ってくれるんだって凄く感激してたわ」
(前にいったアドバイスを真に受けて、オルも頑張ってたんだな…。でも進展してるし良かった良かった)
「それじゃあ、またサリスと同じ部屋で過ごせるようになる日も近そうだなー」
「そうね。でも、とりあえずはドルドスに戻るまでは、いまのままアミと一緒でもいいかなと思ってるんだけどね」
「それは困るな、俺が寂しいよ」
「まったくベックは…」
そういってサリスが顔を紅くして俺に抱きついてきた。
「お、おい!アミとオルが見てるだろ」
「夫婦なんだから、このくらいは普通よ」
「ま、まあ、そうだけど」
甘えてくるサリスが可愛いなと思いこの状況に、俺もまんざらでもなかった。
そのあと俺とサリスは、オルとアミのところにいって泥の説明をする。
「なるほど、ここの白い泥は肌が綺麗にもなるんですね」
「さっき試してけど、つるつるになったわ」
アミがサリスの右腕を触り驚く。
「私も塗るです!」
「そうだなー、女の子が綺麗になるのは嬉しいもんだよなー。オルもそう思うだろ」
「そうですね」
「じゃあ、オルと俺で泥を浜にもっていくから、サリスとアミはシートを出して待っていてね」
俺は浜に戻るとアイテムボックスから手桶を取り出してオルと一緒に泥を取りに行く。
「俺が潜って泥を取ってくるよ、オルは手桶をもってて」
「任せてください」
俺はオルの持つ手桶に次々と白い泥を入れていく。
かなりの量の白い泥が集まったので、サリスとアミのいる浜に戻る。
「とってきたよ」
「お疲れ様ですー」
「大変だったわね」
「じゃ、俺はサリスの背中に塗ってあげるから、オルはアミの背中に泥を塗ってあげてね」
「「「…え?」」」
サリスとアミとオルが一瞬なにを言われたのか、わからないようだった。
「背中には手が届かないし、しょうがないじゃないかー」
俺はそういうと、サリスの背中に泥をぬりぬりしてあげる。
「ちょっとベック!」
「ほら、オルもアミの背中に早く塗ってあげないと」
「う、うん」
思考が停止しているオルも言われたようにアミの背中に白い泥をぬりはじめた。
アミが顔と猫耳を紅潮させている。
俺はサリスに小声で、オルとアミのためだからと囁いて、そのまま背中や肩を白い泥をぬりぬりしていく。
ありがとう、オル!アミ!
君達のおかげでサリスに泥をぬりぬりできたよ!!
青い空と乳白色の海が広がる南国の浜辺で、にこやかな笑みを浮かべながら白い泥遊びを堪能する俺がいる。
2015/05/07 誤字修正




