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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
122/192

5-10 島嶼都市タゴン

 竜暦6561年7月18日


 島嶼都市タゴンに下船できたのは17時を過ぎたところであった。

 途中海上で雨を避けて停泊もしたが34時間かかって着いたことになる。

 俺達はまず荷物を持って宿に向かうことにした。


 20分ほど狭い路地を進んだ先にその宿があった。

 想像していた宿と違い俺達は戸惑った。


「えっとここなのよね?」

「エワズの事務所で教えてもらったのはここだけど…」

「こんな場所で大丈夫なんですか?」

「わーい」


 アミだけがその宿をみてすぐに喜んでいた。

 島嶼都市タゴンで泊まる宿は海の上に存在していたのだった。

 転生前の世界であれば、それはまさに高級リゾートの代名詞である水上コテージだ。


 海の中に木の柱を複数立てて、その柱を足場に床を設置してさらに居住空間を確保していた。

 各コテージの間は陸地から伸びた廊下で数珠繋ぎのように繋がっている。

 水深が浅い場所だから出来る建築方法だが、それでもその景観は圧巻であった。

 アミ以外がおもわず躊躇したのもそのためだった。


 とりあえず俺達は陸地側に建っている事務所らしき建物にいた男性に話をきく。


「ここは宿でいいんでしょうか?」

「はい、そうですよ」

「実はエワズ海運商会の事務所でここを紹介してもらったのですが、部屋は空いてますでしょうか」


 男性が宿泊状況を確かめてから答えてくれた。


「4人部屋が空いてますが、そこで宜しいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「各部屋には厨房も完備しておりますので、お食事はそこで作っていただければと思います」

「食材を買うには、どうすればいいでしょうか?」

「もしお持ちで無ければ、ここの受付でもお買い求めいただけます」

「わかりました。ありがとうございます」


 その後、宿泊の手続きを済ませた俺達は、泊まる部屋まで海上にある廊下を渡って向かう。

 サリスとアミが海の上の廊下を先を歩きながら、はしゃいでいた。


「すごい宿があるもんだね」

「手続きをしてる時に聞いたけど、タゴンは陸地が狭いから海上まで利用してるんだってさ」

「なるほどね」


 俺とオルは会話をしながら、サリスとアミのあとをついて歩いていた。

 陽がかなり西の水平線に近づいていた。


 これから泊まる水上コテージが少しづつ西日で赤く染まっていく。

 まさに最高のサンセットビューである。


「夕陽をこうやって見るなんて贅沢ね」

「赤くて綺麗ですー!」

「こんな景色が見れる宿があるんですね」

「本当にそうだな。ここに来て良かったよ」


 俺達は水上コテージにあるベランダに出て夕陽の沈む光景を存分に堪能していた。

 徐々に陽が西の海に沈んでいく。

 別れを惜しむように、少しづつ少しづつ。

 陽が全て沈んだときには、なぜかちょっと切なくなってしまった。


 サンセットビューを最後まで見たあと、サリスが持っていた食材で簡単な料理を作ってくれることになった。

 サリスとアミは厨房に向かい、俺はテーブルで旅行記の記事の続きを書き、オルは装備の手入れを始める。


 しばらくして辺りが真っ暗になり夜空の星が輝きはじめたころ、サリスとアミがテーブルに食事を運んできた。


「手持ちの食材だけで作ったから、あまり手の込んだ料理は無理だったけどご免なさいね」


 出てきたのは豆とライスと香辛料をそのまま煮込んで作ったサリスのオリジナルカレーだった。

 豆とライスに香辛料が染込んでいて複雑な味わいをかもし出していた。

 俺達4人はおなかもすいていてので、ぺろりと平らげてしまった。


「美味しかったなー」

「サリスさんの料理の腕は本当にすごいですね」

「すごいですー」

「そうでもないわよ、あとはもっと食材があればいいんだけど…、明日は街で食材を買い込みたいわね」

「そういえば明日の行動はどうするです?またオルと調達です?」


 その話で俺は明日からの予定について3人に相談してみた。


「実はエワズの事務所の職員からタゴンの情報をいくつか聞いたんだけど、いまからいくつか話をするよ」

「話って?」

「まず島嶼都市というだけあって、大小さまざまな島が連なって出来てる都市だから陸にはFランクの大人しい魔獣しかいないんだってさ」

「それじゃ、ここにいる襲ってくるような魔獣は海のやつだけなのかしら」

「うん、だけど海の魔獣は漁師を兼ねている地元の冒険者がほとんど倒してるので、あまり依頼が出ることはないらしいんだ」

「この周辺を海を自由に行き来できる船がないと無理だから、地元の冒険者任せなんですね」


 俺はオルの言葉を肯定した。


「うん、その通り。だからタゴンでは冒険者ギルドには寄らないでおこうと思ってる」

「わかったわ、じゃあ4人で食材や井戸用水魔石の調達かしら」

「そのしようと思ってる」

「はいです」


 俺はここで一息ついて水筒から注いだ水を一口のむ。


「ここからが本題かな。この辺りの島の中にはいろいろと変わった場所があるらしいから、よければ数日タゴンに滞在して、そういった島々を見て回りたいんだがどうだろう」

「え!ここにまだ泊まれるです?」

「ああ、そうなるな」

「わーい」


 アミが凄くはしゃいでいる。

 水上コテージがかなり気に入ったようであった。


「私もここに滞在できるんだし、特に問題ないわよ」

「その島への移動には小型船を使うのかな?」

「エワズの職員の話だと各島へ地元の人が渡し舟をだしてるそうなんだ。だから小型船じゃなくて渡し舟を利用するつもりだよ」

「なるほど」

「特に反対がなければ、すこしタゴンでゆっくり過ごそうか」


 三人が笑顔で大きくうなずく。

 俺も含めてだが、この島嶼都市タゴンを全員気に入っていた。


 転生前ならモルディブ、タヒチ、ニューカレドニアといってもおかしくない都市である。

 存分に楽しまないと損だ。


 しかし本当に小型船があってよかったと俺は思った。

 大型帆船なら島嶼都市タゴンに2泊くらいで、ここを離れることになっただろう。

 でも小型船なら好きなだけここで遊べる。

 おっと遊ぶではなく、記事を書く取材だった。

 いけない、本音がついつい漏れていた。


「明日は周辺の島の情報あつめと、この部屋で寝泊りするための食材などを中心に買物をしよう」

「そうね」

「わかったです!」

「井戸用水魔石もだよね」

「ああ、それもだな」


 そこで俺はひとつ気になったことがあってオルに聞いてみた。


「そういえばオルは水着を持っているんだっけ?」

「いや持ってないけど」

「あー、じゃあオルの水着も買わないとな」

「え?」

「私とアミも新しい水着があったら買いたいわね」

「じゃあ、明日はそれも買いに行こうか」

「ちょ、ちょっと水着って、もしかして海で泳ぐのかい?」


 オルが凄く慌てている。


「そうよ」

「海水浴ですー」

「あの、えっと、その…」

「オルどうした?」

「じ、実は、お、泳げないんだ…」


 恥ずかしそうに青毛の猫耳を倒しながらオルが金槌であることを三人に告白する。


「大丈夫です!私が泳ぎ方を教えるです!」

「よかったわね、アミ」

「え?それって…」

「オルよかったな!アミは泳ぎが得意だし、すぐにオルも泳げるようになるよ。あとアミの水着も堂々と間近で見れるな!」


 俺がそういってオルの背中を叩くとオルが真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。

 視線をアミにうつすと、恥ずかしがるオルを見て、さらに顔を赤らめるアミがそこにいた。


 初々しい二人を見ながら、明日からのリゾートライフが楽しみだな思う俺がいる。



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