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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
120/192

5-8 地底湖

 竜暦6561年7月16日


(【分析】【情報】!)


 <<ウッドパペット>>→魔獣:アクティブ:木属

 Eランク

 HP 138/138

 筋力 2

 耐久 2

 知性 1

 精神 4

 敏捷 1

 器用 1


(ここで出会うとはな…確か図鑑では火に弱いって書いてたけど…)


 獣道の歩いて進んでいた俺達は、前方の道の脇で蠢くウッドパペットを見つけたのだ。

 距離はかなり離れているので、ウッドパペットには気付かれてはいない。

 いままでのパペット系の魔獣と同じくずんぐりした胴体に太い腕がついている。

 もちろん足は見えない。

 身長は2mほどある。

 あとは名前の示すとおり表面には樹皮が貼り付いている。

 トレントとは違い、絶えずふるふると体を動かしているので擬態の心配ないだろう。

 しかし深い森の中では発見が遅れる場合もありそうだなと俺は思った。


 今日は東部部市ナムパトの冒険者ギルドで仕入れた情報で、森の奥深くにある洞窟を目指していたのだが、まさか討伐クエストの依頼が出ていた魔獣と遭遇するとは思っていなかった。


 魔獣を最初に見つけたオルが聞いてくる。


「あの魔獣がなにわかるかな?」


 俺は三人にパラノスの魔獣図鑑を取り出し、ウッドパペットのページを開いてみせる。


「あれがウッドパペットなのね、たしか討伐クエストが出てたわよね」

「ああ、そうだな」

「僕も初めて見たけど、あんな魔獣がいるんだな」

「世界は広いってことだよ。俺達も初めてみたからね。さてと見つかってはいないけど討伐クエストの魔獣だし倒しておこうか」

「倒すですー」

「討伐証明の部位がわかんないわよ」

「パペット系だし、いつもと同じく殻の破片だろうな」

「それを持ち帰るしかないわね」

「ああ、それでどうやって倒すかだな。図鑑じゃ火に弱いらしいけど」


 俺の話を聞いた三人が図鑑の説明を読む。


「ここでは火は使えないわね」

「たしかに森に火が広がったら大変だよ」

「殴るです!」

「オルの火矢と、サリスのフレームストームソードの《ヒート》は今回使えないな」

「近接主体になっちゃうわね」

「オルは弓以外は使えるんだっけ?」

「うーん、使えるとすると鉈かな」


 そういってオルは枝を切り落としたり雑草を切り払うために使う鉈をアイテムボックスから取り出す。

 解体用大型ナイフより、さらにひとまわり大きな刃がついている鉈だ。


「俺はチェーンハンドボウじゃなく、解体用のナイフを使うかな」

「私とアミが中心になって攻撃するから平気よ。二人はいつもの武器だけ構えて見ていてくれればいいわよ」

「ですです。見ているです」


 サリスとアミが任せろというので、俺はチェーンハンドボウ、オルは弓を構えてサポートにつくことにした。


 アミが《ライト・スティング》《レフト・スティング》と呟いて背後からウッドパペットに近づく。

 ウッドパペットは地面の振動で気付いたのか、太い腕を振りながら背後を振り向いた。

 アミはその動きを予測しており、身をかがめて腕をかわすと、ウッドパペットの懐に潜り込んで、強烈なボディブローを繰り出した。


 ドスッっという音が聞こえくる。

 ウッドパペットを見ると、巨体がくの字に折れ曲がっていた。

 かなりの威力だったのだろう。

 ボディブローのあたった場所の樹皮が弾け飛んでいた。


 サリスはというと、ウッドパペットの背面に位置取り振り回す腕を狙って飛ぶ斬撃を放っていく。

 アミを避けつつ、うまくウッドパペットの腕だけを攻撃するのはさすがだ。


 サリスとアミの位置取りはさすがで、息が合ってるダンスパートナーのように常に最適な場所に移動していく。


 ウッドパペットは太い腕が削られていくと、それを補うように胴体の一部が移動して腕を再生させるが、徐々移動できる胴体の部位が少なくなってきたのだろう。

 体がひとまわり小さくなり、腕の再生速度が遅くなっていく。


 ウッドパペットの左肩をアミが殴ると、ゴスッいうニブイ音がした。


「サリス!左肩!」


 そういってアミがウッドパペットから距離を取って離れる。


「《ヒート》!」


 サリスはフレームストームソードの刀身を熱して左肩を切り取るように袈裟切りを放つ。

 ザシュッという音と共に左肩が腕ごと地面に滑り落ちた。


 露出した部位に魔石を包んでいる殻が露出していた。

 俺は即座に近づき、至近距離から殻に向かってスパイクを撃ちこむと殻が砕け、中から魔石が転げ落ちた。

 それと同時にウッドパペットが動きを止めた。


 オルを見ると、火が燻っていた左肩の切断面に土を被せて消火をしている。


「二人ともご苦労様」

「久々に体を動かせて、よかったわ」

「いい運動になったですー」

「しかしアミさんもサリスさんも、相変わらず凄いな」

「Dランクに比較すると、やはりEランクは物足りないわよね、アミ」

「ですですー」


 クランの女性陣が非常に好戦的で頼もしい。

 魔石と殻を回収すると、俺達は本来の目的地である洞窟をまた目指して森の中の獣道を歩き始めた。


「予想外の戦闘で時間をくっちゃったな」

「でも、もうすぐなんでしょ?」

「そのはずだけど…」


 戦闘を歩いているアミがなにかに気付いて、前方を指差す。


「あそこの岩肌に隙間があるです」


 指差す方向を見ると、確かに洞窟の入口らしきものがある。


「魔獣がいる可能性もあるから準備をしてから中に入ろう」


 三人は大きくうなずく。

 俺達四人は迷宮灯をセットして武器を構えながら、慎重に洞窟の入口に向かう。

 近づいて様子をみたが、洞窟の入口近くには魔獣はいなかった。


 サリスは巻き糸を入り口付近の木の幹に結びつける。


「準備いいわよ」

「よし、洞窟の中に進もうか」


 中に入ると、結構奥行きのある洞窟であった。

 岩の表面はデコボコしていて、かなり粗い。


「以前みた石灰岩洞窟とは違うです」

「アミはよく覚えてたな」

「光る石を見つけた場所なので覚えてるです」

「ベックの本に書かれていた綺麗な洞窟のことですよね」

「そうだよ」


 俺は岩の様子から、添乗員時代にツアーでいった富士山近くにある風穴を思い出した。

 どうやら溶岩が固まる際にできた洞窟のようである。


「そろそろかな、冒険者ギルドの職員の話しにあった地底湖は」

「話を聞いた時は信じられませんでしたが、たしかになにかありそうな雰囲気はありまよね」

「期待ですー」


 しばらく進むと、広い空間に辿りついた。

 目の前には、大きな湖があった。

 水の中を覗き込むと非常に透明度が高いのがわかるが、その高い透明度もってしても迷宮灯の明かりだけでは底が見えなかった。

 かなり深い。

 もしかしたら、この洞窟は水の中にも続いている可能性がある。


 サリスとアミとオルを見ると、三人ともこの神秘的な光景に言葉を失っていた。


「綺麗ね…」

「すごいな、これは…」

「探すです!」


 アミがハッとした表情で、洞窟の壁面に近寄りおかしな場所がないか探している。

 この景色を見て、また光る石があるのではないかと思ったらしい。


 俺は迷宮灯の光だけで、心許なかったが写真機を取り出して地底湖の写真を撮っていく。


「撮れているといいわね」

「光が足りないから厳しいと思うけどね。一応とってみたよ」


 俺に近寄ってきたサリスに答えた。

 ふとオルを探すとアミと一緒になって壁面を調査していた。

 事前に光る石のことを聞いていたので、アミに協力していたのだ。


 写真を撮り終え、景色を堪能した俺とサリスも壁面におかしな場所がないか調べていく。

 1時間ほど地底湖のある広場で、いろいろ調査したが手がかりになるものはなかった。


「残念だけど、ここには光る石は無かったわね」

「残念です」


 アミが気落ちする。


「アミさん、また他の場所で探せばいいんだし元気だしてね」

「はいです…」

「折角だし、地底湖の水だけでも持ち帰ろうか」

「飲めるのかしら」

「綺麗な水だから平気じゃないかな?」


 俺はアイテムボックスから取り出したコップで地底湖の水を汲んでから問題がないか分析してみた。


(【分析】【情報】)


 <<精霊水>>

 聖属

 魔力 300

 耐久 50/50


(え?はぁぁぁぁぁ!なにこれ!)


 ただの水ではなかった、以前パム迷宮の泉で見た水は闇属だったが、これは聖属である。

 しかも名前に精霊が付いている。

 俺は口をするのを止めて、じっと考える。


「ベック、どうしたの?」


 固まった俺を見てサリスが心配して声をかけてきた。

 俺は少し戸惑ったが、三人に考えていたことを伝えた。


「ちょっと全員の迷宮灯を消してみないか?」

「「「え?」」」


 三人がその言葉にびっくりして変な声をだす。


「いやアミの持ってる光る石と同じものがあるなら、もしかしたら迷宮灯を消せば見つかるんじゃないかと思ってね」

「ようは光る壁を探すってことね」

「ああ」

「消すです!」


 アミの言葉を合図に俺達全員、迷宮灯を消した。

 すると俺の思っていた通り、地底湖がかすかな淡い光を放っていた。


「…すごいです!」

「こ、これってなんですか!水が光るなんて!」

「綺麗だわ。もしかしてこれって…」

「どうやら光る石は無かったけど、この地底湖の水自体になにか力があるみたいだね。飲むのは止めておこうか」

「そうね。でも冒険者ギルドの職員はなにもこんなこといってなかったわよ」

「ここに調査にくる人で、灯りを自分で消す人はいないだろうからね。今まで気付かなかったんじゃないかな」

「なるほど、確かに僕がここに調査にきても消すことはしないですね」

「うん、今回俺達は光る石の情報を事前に知っていたから灯りを消してみたけど、俺達以外じゃトラブルでも起きない限り気付かないだろうな」

「持って帰るです!なにか手がかりがあるかもです!」

「水筒にいれるなら消毒用の聖魔石は外しておいたほうがいいな。出来るだけこの地底湖の水のままにしておいたほうが良いと思うよ」

「はいです!」

「こんな発見があるなんてね…」


 サリスが呟く。


「これ以上は俺達じゃわかんないからな、どこかに精霊を研究している学者でもいればいいんだけど…」

「たしかにそうね…」

「とりあえず俺達に出来るのは地道に精霊に関連する情報を集めることだけだな」


 地底湖の水を水筒に入れていくアミとオルの姿を見ながら、精霊に関して詳しい人が旅先で見つかればいいなと俺は思った。


2015/05/06 表現修正

2015/05/06 誤字修正


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