1-11 裏技
竜暦6557年7月2日
最近はサリスとペアで港湾都市パム郊外に出かけることが多くなった。
サリスのクエストの手伝いである。
冒険者ギルドにいる先輩から、二人は付き合ってるのかと茶化されたりするのにも慣れた。
実際こんな美少女と付き合えるなら大歓迎なんだけどね。
サリスなら大きくなったらイネスと同等の美人になる予感がするなーって歩きながら横顔のぞいていたらサリスがいきなりこちらを見た。
「ベック、なんか変なこと考えてない?」
「へ」
「口元がニヤけてるわよ」
(うわ、やべ、顔に出ちゃってたわ)
「いや、クエスト楽しみだなって」
「あら、いつもイヤそうな顔してるわよ」
「そ、そんなことないよ、あはは」
鋭い指摘をされて思わず挙動不審になっちゃったわ、俺。
しかし毎回クエストに誘ってくるし、サリスって俺に対して本当のところどう思ってるんだろう。
もしかしたら俺に気があるのかな?
いやいや、単に俺の魔獣に対する知識を当てにしてるだけかもしれないしな。
うかつに「付き合ってください!」とかサリスに告白して「ごめんなさい。」なんて言われたら俺立ち直れないかも…
「でも不思議よね、ベックって魔獣見つけるのが異様に早くない?」
「そうかな」
「擬態してる魔獣とか普通かなり近づかないと、きづかないものよ」
「俺って臆病だし、よく周りを見てるからかもしれないね」
スキルを持ってるから発見早いのはさすがにサリスにも言えないよね。
さて今日の目的地、港湾都市パム郊外のザム海岸に到着。
「今日の対象魔獣ってなんだっけ?」
「クラムよ、10匹討伐で剥き身を納品すれば完了よ」
「え?」
「どしたの、ベック」
「うわあ、クラムは砂地に潜ってて見つけるの大変なんだよ… しかも2枚の殻で本体保護してるんだ」
「でもFランク依頼だったわよ」
「たしかに弱いといえば弱いよ、攻撃方法も噛み付きだけだし移動もしてこないしね」
「なら楽勝じゃない」
「いや殻にこもると防御力が高くて本体にダメージあたえるのが厄介なんだよ」
「なるほどね、防御力だけ異常に高い魔獣なのね」
「そそ、で殻を壊して本体を攻撃できればすぐに倒せるんだよ」
「受付じゃ、何もいってなかったわよ」
「まあ、知ってて当たり前って受け取られちゃったのかもね。サリスも普段から魔獣図鑑をちゃんと読んでおかないと」
「ベック知ってるでしょ、私が本よむとすぐ寝ちゃうの」
「うん、たしかにそうだよね…」
残念系美少女である。
「これって報酬いくらだったの?」
「銀貨2枚よ」
(転生前なら2万円程度になるな。)
「でもFランクで銀貨2枚はさすがに条件よすぎなのに、いつまでも依頼が残ってるってことは厄介だからみんな回避してたんじゃないかな」
「なるほどねー」
「次からは事前に対象教えてね、アドバイスできるならするよ」
「さすが頼りになるわね、ベック」
サリスが笑って俺の肩を叩いてくる。
俺ってやっぱり都合よく利用されてるのかな…
「さてっと、簡単に倒す案あるんでしょ、ベックのことだから」
「あ、うん、ないこともないかな。ギルドから支給されたのは剥き身を入れる採取箱と銛だっけ?」
「そうよ」
「じゃ、クラムを探そう。倒すのはサリスが銛で本体を突けばいいよ」
「でも殻にこもるんでしょ?」
「殻をあける裏技があるから、期待しててね」
そういって浜辺でクラムを探す。
(【分析】【情報】!)
砂地にあいた穴がところで表示が出た。
<<クラム>>→魔獣:パッシブ:水属
Fランク
HP 9/9
STR Fランク
VIT Bランク
INT Fランク
MND Fランク
AGI Fランク
DEX Fランク
VITだけ高い、そしてHPは低いしやっぱり図鑑のとおりだな。
「サリス、いいかい」
「なに?」
「ここに穴あいてるよね、この下にクラムいるから」
「え、もう見つけたの!」
「うん」
「…」
(最近こういったジト目で見られることが増えたなー)
「サ、サリス怖いよ、その目」
「あら、ごめんなさい」
「今から俺が海水をコップにいれて、この砂地の穴に注ぎ込むから、中からクラムが顔をだしたら銛で突いてね」
「それだけ?」
「そうだよ」
魔獣図鑑で見たクラムの形状はマテ貝そのものだったし、間違いなくこの方法でいけるはずだと確信している俺は躊躇なく穴に海水を注ぎ込む。
すぐにニュッっと穴から水管が出てきた。
サリスは驚異的な反応速度で水管に銛を差し込みクラムは絶命する。
討伐完了である。
「なにこれ、簡単じゃない!」
「裏技さ」
「…」
その日、指定討伐数の2倍の20匹の剥き身とFランク水魔石20個を提出したサリスは追加報酬金込みで銀貨5枚を翌日手に入れた。
2015/04/22 会話修正




