5-7 東部部市ナムパト
竜暦6561年7月15日
船室で寝ていた俺をアミが起こす。
アミの慌てた声に俺とサリスは飛び起きた。
眠気を振り払い、アミにどうしたのかと問い質す。
「街が見えてきたです!」
「え?」
時刻を見ると夜中の3時だ。
俺とサリスは、アミと一緒に船室にいったが、星明りの照らす海は暗く周囲の様子を見てとれない。
「起きてきたようだね。あそこに微かに街の灯りが見えるはずだけど」
オルが前方を指差す。
たしかに黒い波間の水平線の彼方に灯りらしきものが見てとれるが、ハッキリとしない。
「ごめん、俺じゃ周りが暗すぎて、よくわかんないや」
「そうか、でも僕もアミさんも確認できてるから、このまま港に向かってもいいよね」
「ああ、上陸の手続きをするのは、もうすこし明るくなってからだと思うけど」
「了解」
オルが頷いて小型船の速度を上げていく。
オルとアミなら暗い夜の操船でも、昼間と変わらず行えるのは本当に助かっている。
俺の横でサリスが目をこすりながら、前を見つめて俺に話しかける。
「ナムパトまで早かったね」
「昨日の朝8時に出港したから、20時間くらいでナムパトに着くことになったな」
「本当に小型船を購入してよかったわね」
「ああ、ほんとにそうだよ。大型帆船だと4日間はかかるだろうしな」
俺はサリスに答えながら上陸の準備をしていく。
昨日南部都市イマンチを出発して、東部部市ナムパトに寄港したのは4時を過ぎた頃だった。
あいていた桟橋にオルが船を寄せると、俺だけ下船して上陸のための手続きに走る。
俺は運よく漁船の準備をしていた漁師に、エワズ海運商会の事務所の場所を教えてもらえたので早速向かう。
港の一角にある建物が事務所だった。
俺が事務所に入ると当直の人がいたので、書類を提出する。
「許可証の確認終わりました。間違いなく本物ですね。あと書面も確認しましたが問題ありませんので、港への手続きと船の管理は、あとで係りのものに伝えて行うようにします」
「本当に助かります」
「しかし個人で船旅とは凄いですね」
「港湾都市バイムで小型船を入手できまして」
「そうでしたか」
俺は書類を作成している男性に、冒険者ギルドの場所と宿の場所がどこか確認してみると、男性は奥の棚から紙をもって戻ってきた。
「船員向けのナムパトの案内図ですけど、」
そういって男性は東部部市ナムパト街の地図に印をつけてくれた。
「ここがギルドで、ここが宿になります」
「助かりました。ありがとうございます!」
俺は男性に頭を下げる。
「いえいえ。初めてナムパトに来た大型帆船の船員にもいつも同じように説明していますから」
そういって男性が笑う。
こういった案内をしなれているようだ。
しばらくすると男性が上陸許可書を手渡してくれたので、俺はそれを受け取り小型船に戻る。
船を係留作業を終えた三人が俺を出迎えてくれたので荷物を持ってから、大通り歩いて四人で宿に向かった。
空を見ると徐々に白んできていた。
もうすぐ真っ赤な朝焼けがあたりをうめ尽くすだろう。
宿についた俺達は宿泊の手続きを済ませて部屋で軽く休むことにした。
今回も俺とオルは同じ部屋である。
「今回も井戸用水魔石の購入を頼んでいいかな」
「ああ、問題ないよ」
「助かるよ。あと夜通し起きてたたしアミにも言ったけど、昼まで寝て十分に休んでくれよ」
「うん、そうさせてもらうね」
オルは服を脱いでベッドで横になる準備をしていく。
ふと俺は昨夜アミと進展があったか気になったので聞いてみた。
「え、えっと手は繋いだよ」
「まだそこかー」
「だ、だってさ、ほら、その、えっと…」
「オルは強引にせまってアミに嫌われたくないんだな…」
「う、うん…」
「アミもオルのことが好きなんだし、よっぽどのことをしないかぎり嫌ったりしないさ」
オルが俺の言葉に反応する。
「よっぽどのこと?」
「うーん、まあ傷つけるようなことかな」
「たとえば?」
「浮気とか?」
「そんなことするわけないじゃないか!」
「そうだよな、それほど好きなら平気だよ。まずは言葉で、その気持ちを毎日言い続けてみたらどうかな」
「え?」
なぜかオルが驚く。
「もしかしてアミに好きとか愛してるとか、毎日言ってないの?」
「えぇぇ、そんなこと言えるわけないじゃないか!」
「いやもう交際してるんだし、別におかしくはないだろ」
「も、もしかして、そんな事をみんな毎日言ってるのかい…」
「全員かどうかは分からないけど、普通は言ってると思うけどな」
「…」
顔を真っ赤にさせて腕を組んでオルが悩みはじめた。
オルが純情なのは知っていたけど、ここまで純情だったとは…
「手を繋げるようになったんだし、次は言葉でアミに気持ちを伝えていこうか。毎日1回以上がノルマだな」
「えー!」
「そんなことも出来ないとアミはオルのことを嫌いになっちゃうかもな」
「そ、それは困るよ!」
「じゃあ、決まりだな。ただ素直な気持ちを伝えるだけなんだからさ。平気だろ」
「…う、うん。頑張ってみるよ…」
オルはそういって布団をかぶって横になった。
まったく手のかかるやつだなと俺は微笑みながら、朝焼けにそまった東部部市ナムパトの景色を窓から眺めた。
(さてサリスと出かけるまで、記事を書いておくか)
寝ているオルを横目に、俺は書きかけの旅行記の記事を取り出してペンを走らせていく。
熱中して旅行記の記事を書いていると部屋の扉がノックされサリスの声が聞こえた。
時計をみると9時である。
俺はオルを起こさないように手早く準備をして廊下に出る。
「おはよう」
「その様子じゃ寝てなかったみたいね」
「ちょっと記事を書いてたら結構、時間が経ってたみたいでね」
「まあ、いいわ。ナムパトの冒険者ギルドにいくわよ」
「途中朝食をどこかでとろう」
「そうね」
俺とサリスは宿を出てから街の地図を見て、冒険者ギルドを目指しながら食事がとれる場所を探す。
「あの店は客が多そうね」
サリスが指差す店に入り、おすすめの朝食を頼むと、すぐにテーブルに食事が運ばれてきた。
「お待たせしました。魚のジョルとライスです」
見た目はスープになったカレーだが、ジョルという名前が気になり店員に理由を聞いてみた。
すると、この周辺では魚の煮汁をベースにしたカレーのことをジョルという呼び方をするそうだ。
俺とサリスは、ジョルのスープを味わうことにして、すぐに気付いた。
いままでのカレーとは違う辛さが口の中と鼻を刺激する。
美味しいのだが、予想していなかった鼻を刺激する辛さに思わず目に涙を溜めてしまった。
「けっこう辛いわね。パラノスにきてから辛さに慣れたとおもったんだけど…」
「そうだな」
俺はふたたび店員に使ってる香辛料を尋ねてみると、辛子という香辛料を使ってるという話を聞くことが出来た。
なるほどと、俺は納得した。
しかしここで辛子と遭遇するとは思わなかった。
うまく加工してペースト状に、おでんを再現できるかもなと俺は期待してしまった。
「辛子という香辛料らしいから、あとで買いにいってみようか」
「えー、この味はちょっと…」
「辛さを抑える配合をすれば、肉料理なんかにつかえるんじゃないかな」
「…うーん」
サリスの苦手な辛さのようだったが、俺は強引に買いに行くことに決めた。
練りがらしで食べるおでんが今後再現できるかもしれないのだ。
あつあつのおでんの魅力に逆らえない俺であった。
2015/05/05 会話修正




