5-6 竜岬
竜暦6561年7月13日
蒸し暑い森の中をレインコートを着た4人組がもくもくと歩いていく。
傍からみると異様な光景だ。
普通で考えれば、あんなものを来て歩いてると全身から汗が噴き出してもおかしくないほど、周りの湿気が高いのだ。
「このレインコートは絶対に普及させるべきです」
「やっぱりそう思うわよね」
「ですですー」
「パムに帰ったら商品化の話をしてみるよ。ロージュ工房は本来、オーダーメイド専門だからね」
「ロージュ工房以外で生産を委託すればいいんじゃないかしら」
「それもファバキさんと相談してみるよ」
オルもこの全天候型レインコートを気に入ったようだ。
温度調整用の魔石を消費してしまうのが難点だが、冒険者の視点でみると絶対に売れるという話だった。
そういった一般の冒険者視点で判断できるオルは非常に頼りになる。
俺は簡易地図と方位計と【地図】を使い現在位置を確認する。
あともうすこしで目的の竜岬に到着しそうだ。
「もうすこしで着きそうだな」
「しかし辺鄙な場所ね」
「そうだな」
「魔獣にも気をつけて移動しよう」
俺達は南部都市イマンチを出発して南東にある竜岬へと密林の中を歩いていて目指していた。
しばらく歩くと海岸沿いのがけの上に出る。
昨日の曇り空とは違い今日は天気もよく陽の光が燦々と降り注いでいた。
しかし心地よい暖かさではなく、焼け付くような暑さというほうが適切な陽射しの強さだった。
本当に全天候型レインコートを着ていてよかった。
海岸線の先を見ると目当ての竜岬が見えたので、俺は指差す。
「あれが目的地だな」
「海から来たほうが良かったわね」
「小型船じゃ水深が浅い場所までは来れないよ」
「上陸用の船があればいいんじゃないかしら。大型帆船にはついてたわよね」
「そういえば、そうだな」
俺は転生前のゴムボートを思い浮かべた。
あんな感じのボートなら小型船に設置しておけると思い、旅行準備メモに"上陸用の船"と記入しておく。
俺達は崖沿いを進んで竜岬を目指すことにした。
ほどなくして竜岬にあるという竜の像の形が見えてきた。
想像していたよりはるかに大きいことが近づいてわかった。
「ちょっとまってて写真を撮るよ」
俺は竜岬に近い崖沿いから、横から見る形の竜の像の写真を数枚撮った。
「こういう景色や情報が本になるんだね」
「そうだね。地元以外の人は知らない情報だし、本で紹介する意味はあると思うよ」
「ベックの場合、旅のついでよね」
「間違いないです」
「ベック、なんか酷く言われてるよ…」
「否定しようがないから、しょうがないよ」
俺は笑いながら、そういって写真機をしまう。
旅が俺の楽しみなのは、サリスとアミには周知の事実だ。
冒険者も俺にとっては副業だし。
俺達が近づくにつれて竜の像は徐々に大きくなっていく。
高さは約5mほどあるだろうか。
どうやってこの像を作ったのかが気になるし、作った理由も気になる。
念の為に像を分析してみた。
(【分析】【情報】)
<<凝灰岩>>
土属
魔力 20
耐久 760/812
(え?、岩の名前が出ちゃった…)
像をよく見ると複数の岩の巨大なブロックが組み合わされていたものだった。
そしてそのブロックを加工して竜の形を模していた。
この世界に考古学者がいたら飛びつきそうな像だ。
耐久が減っているのは風雨によって表面が劣化しているそうだろう。
「どうやって作ったのかしらね」
竜の像を見上げながらサリスが呟く。
「ほんとだね、俺も知りたいけど、かなり古い時代だと思うから、もう作り方や理由は人族の間に残ってないかも」
俺は風雨で風化している表面を指差す。
「昨日、夕食のときに話してくれた内容では地元の漁師の間で海の守り神をしてるって話だったんですよね?」
「たしかに竜の像は海の方を見てるから、漁師のいうことも間違いじゃない気もするけど」
俺とオルが話をしていると、竜の像の正面の先にある岬の先端にいるアミが俺達三人を呼んでいる。
「ここからの景色が綺麗ですーー」
俺達も岬の先端にいくと確かに絶景が広がっていた。
北西には遠く小さいが南部都市イマンチがかすかに見える。
眼下に広がっている海も、時折見える白波が綺麗だったし、背後を見るとそびえ立つ竜の像が圧巻だ。
折角なので、この場所からの写真も残しておくことにした。
俺が写真を撮っている間にサリスとアミがシートを引いて食事を作り始めた。
辺りに芳ばしい香りが漂う。
オルが興味深そうに調理している二人をのぞいてる。
「何を作ってるんですか?」
「ライスが手に入ったし、バイムで覚えた料理を作ってみようと思うの」
そういってサリスがライスを炒めてから白身魚と水と香辛料と一緒に鍋にいれてから火にかける。
俺はその調理方法を見てびっくりした。
「サリス、えっと、この料理は?」
「操船訓練で通ってたときに、ダルガラタ船工房の事務の人から聞いた料理よ」
「そうなんだ、美味しそうだな」
これはカレーピラフだと俺は思った。
確か炒めてから炊くというのがピラフだったはずだ。
サリスの料理への探究心とセンスがなせる一品だ。
程なくして炊き上がった料理を4人で美味しく味わったが、まさしく白身魚のカレーピラフだった。
魚から出た旨みが米に染みこんでいるし、香辛料の香りもよい。
惜しいのは炒めた玉葱やバター、もしくはオリーブオイルなどを加えるともっと美味しくなりそうだったので、サリスにそのことを話してみると、なるほどと納得していた。
覚えたばかりの料理でこの味である。
俺のアドバイスやサリスの試行錯誤で、もっと美味しいピラフが食べれる日も近いだろう。
竜岬の竜の像の前でカレーピラフに舌鼓をうちながら、俺は更に美味しいピラフに思いを寄せた。
2015/05/05 誤字修正




