4-23 破砕
竜暦6561年6月20日
クシナ迷宮都市の冒険者ギルドに併設されたカフェで俺達4人は朝食を食べていた。
朝食の内容は
俺は豆と鳥肉のカレーにコーヒー。
サリスはナスとラム肉に挟んだナンのサンドに紅茶。
アミは鳥肉の香辛料焼きにミルク。
オルは鳥肉の香辛料焼きにコーヒー。
という組み合わせだ。
オルとアミが同じものを食べるのが意味深だ。
最近は魔獣討伐から地上に戻ったあとに二人で出かけることも多くなった。
二人だけで買物にいってから、なにかしら進展があったのかもしれない。
サリスはアミから何か相談をうけていたようだが、俺はその話には触れないようにしていた。
女性同士でしか話せない内容もあるだろうし、俺があれこれ口をだすべきではないという判断もあったからだ。
朝食を食べ終えたあと、飲み物を飲みながら、今日はどのDランクの魔獣を倒すか相談していた。
「倒す魔獣の希望はあるかな?」
「僕がカフェに来る前にDランクの掲示板を確認したら、キャスクホーンの角の採取依頼が出てたよ」
「俺達が見たときはなかったから、そのあと貼り出されたみたいだな」
「報酬はどのくらいなのかしらね」
「銀貨30枚だったよ」
なかなかの報酬だ。
俺は地下3層の地図と魔獣図鑑を取り出して確認作業に入る。
「こいつだな、キャスクホーン」
ページを開いて3人に見せる。
形状は半球状の殻で覆われた魔獣で頭も手も足も見えない。
なんというか変わった魔獣だ。
角の採取ということだが、その図鑑の挿絵では頭も書かれていないので角が見えない。
「なんというか変わった魔獣です…」
「オルはなにかこいつについて知ってることはないかな」
「聞いたことないから、僕もわからないな」
「この魔獣を倒すなら職員に詳しい話を聞くしかないわね」
「あと図鑑では、この半球状の殻が固いから注意って書かれてるね。おそらくだが角があるとしたら、この殻の下じゃないかと思うけど」
「殻さえ破壊すれば討伐できそうね」
「でも、この殻が硬いとすると、俺のスパイクやオルの矢は突き刺さらない可能性があるな。まずは殻の破壊方法だな」
「だったら破砕球を使うのがいいかもね」
オルが聞いたことのない名前のアイテムのことを口にだす。
「破砕球ってなんです?」
「あれ、もしかして知らないのかな」
「ドルドスでは聞いたことないわね」
「ちょうど矢に取り付けるものを持ってるから見せてあげるよ」
オルがアイテムボックスから拳程の大きさの破砕球を取り出して見せてくれた。
(【分析】【情報】)
<<破砕球>>
火属 土属 闇属
魔力 200
耐久 90/90
(3種の属性があるのか)
「これってどう使うんです?」
「えっとね、矢に取り付けてから、この紐に火をつけて射るんだ。それで紐が燃え尽きると同時に爆発して破裂するよ」
「え!」
俺はびっくりして席から立ち上がったしまった。
それってまさにダイナマイトである。
俺はテーブルに置かれた破砕球を見て、ここで爆発したらと冷汗が出た。
「え、えっとここで出して平気なのかい?その爆発とかしないのかな?」
「大丈夫だよ。制御術式で魔獣の近くでしか爆発しないようにしてるんだって」
「いままでそれを使っていればDランク魔獣をもっと早く倒せたんじゃないかしら?」
「うーん、まず仲間がいる場所では使えないよ、爆発に巻き込まれたら大変だからね。あとこれって高いんだよ。これで銀貨1枚だからね」
「なるほど場所を選ぶ武器なのね」
「これって昔からパラノスにあったです?」
「俺もそれが気になるな、そうであればドルドスにも伝わってるはずだし」
「長の話では10年くらい前にヒノクスから伝わってきたらしいよ。今回修行に出る僕に、長が行商人から買っていたこの破砕球をいくつか持たしてくれたんだけどね」
「もしものためにか。じゃあ街にある装備工房でも買えるのかな?」
「売ってると思うよ」
「そういえばパラノスに来てから装備工房はのぞいてなかったわね」
「今日討伐を終えたら装備工房に行ってみようか」
「はいです!」
「いいわね」
二人が大きくうなずく。
「君達が行っても、いまの装備が良いもの過ぎて買うものはないと思うけどな」
「いやいや、実際破砕球なんて俺達は知らなかったからな。ドルドスにない装備があるかもしれないし見ておくのは大切だよ」
「なるほどな、それももしかして本の記事になるのかい?」
「内容次第かな、珍しい事や経験は本は紹介していかないとね。オルだってドルドスにくれば知らないことがいっぱいあると思うよ」
「たしかに異国じゃ今までの知ってる常識とは、ちがう事もあるのか…」
「装備工房はオルも一緒にいこう。俺達の知らないことを教えて欲しいしね」
オルはアミをチラッと見てから一緒にいくよと言ってくれた。
少しでも長くアミと一緒にいられるのが嬉しいみたいだ。
さて俺は話を戻す。
地下3階の地図を開いて、キャスクホーンのいる場所を確認する。
「結構遠いわね」
「歩いて2時間くらいかかりそうだな」
「ここを通れば他の魔獣にあわないです」
アミが安全なルートを指でなぞる。
「そのルートで進もうか。あとは殻対策だけどオルの破砕球を使ってもいいのかな?」
「ああ、いいよ」
「値段も高いし報酬から使用した分の破砕球のお金は出すようにするよ」
「そうしてもらえると助かるかな」
「あとは、どうやってキャスクホーンに破砕球を取り付けるかだな」
「矢とスパイクは刺さらない可能性があるなら、私かアミが取り付けるしかないわね」
「粘着質でくっつける物があればな」
「そういうものがあれば矢の先端に取り付けてもいいね。刺すんじゃなくて、くっつけるという矢があれば攻撃の幅が広がるかな」
「たしかにそれって弓とは相性がいいな」
考えても今は、そういった物が調達できないので、俺は旅行準備メモを取り出して"接着剤"と記入したおいた。
「とりあえず現地にいってから取り付け方法は考えようか。あと殻が硬いといっても討伐依頼が出てるから冒険者に壊せないほど硬いということはないだろ」
三人は大きくうなずいてからカフェを出てDランク掲示板からキャスクホーンの依頼票を剥がして受付に提出する。
「今日はキャスクホーンですが、頑張ってますね」
「はい」
「これが採取箱と破砕粘土です」
「破砕粘土って支給品ですか?」
「ええ、キャスクホーン討伐の際に殻の破壊を容易にするために冒険者ギルドで支給するんですよ」
「そうだったんですか」
「採取依頼者が破砕粘土のお金も出してるんで、冒険者ギルドとしても自腹を切っている訳でなないので安心して下さい」
「分かりました、使用方法は破砕球に近いという認識でいいですか?」
「ええ、殻に取り付けてから紐に着火してください。あと退避はかならず20m以上離れてくださいね」
「キャスクホーンが追ってきたりしませんか?」
「足が遅いので平気ですよ」
「ありがとうございます!」
俺は採取箱と破砕粘土を受け取り、アイテムボックスにしまった。
「最近は破砕粘土なんてのもあったんだね。ごめんね、僕も知らなかったよ」
「いや気にしてないよ、あとで一緒に装備工房に見に行こう」
俺達は迷宮入口で準備をしてからキャスクホーンの待っている地下3階に直行する。
的確なルートをアミが選択して2時間後、キャスクホーンのいるテリトリーに俺達は到着した。
「まずはキャスクホーンを探そう」
俺達は慎重に進みながら探していくと、ほどなくして半球状の体をしたキャスクホーンを見つけることが出来た。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・キャスクホーン>>→魔獣:パッシブ:土属
Dランク
HP 269/269
筋力 2
耐久 16
知性 2
精神 2
敏捷 1
器用 1
(耐久に偏ってるだけだな、体力は低いから殻だけが問題なのかな)
しかし不気味だ。
魔獣に見えないドーム型の建物と言ってもおかしくない外観である。
殻の大きさは幅6m高さ3mほどある。
表面はツルツルしていて光沢がある。
地面と殻の境をみたが、わずかな隙間があいているだけだった。
殻の頂上部分がどうなっているか高すぎて分からないが、これでどうやって攻撃してくるのか謎だ。
ただ受付の話で歩みは遅いらしいから体当たりをくらったりはしないだろう。
「破砕粘土の取り付けはアミとサリスに頼んでいいかな?俺とオルはすこし離れて警戒しておくよ」
「わたしが取り付けるです」
「じゃあ、私はアミの援護にまわるわ」
俺はアミに破砕粘土と蝋燭を渡した。
「紐に火をつけたら20m以上離れてくれって話だから、気をつけてな」
二人は大きくうなづいた。
俺とオルは30m以上はなれた場所で退避地点の目印になるように武器を構えて警戒をする。
アミとサリスがキャスクホーンに近づいていく。
かなり近づいたが、キャスクホーンはなにも反応しない。
アミが破砕粘土を殻に取り付けたときだった。
異常に気付いたのはオルだった。
キャスクホーンの殻の頂上部分から伸びた触手がアミの頭上から襲おうとする。
オルが構えていた弓で触手目掛けて矢を放ち触手に突き刺さるのがみえた。
触手が矢が刺さった痛みからだろう、アミへの攻撃を中断してうねっている。
「アミ、サリス退避だ!!」
異常に気付いたアミとサリスがキャスクホーンから離れて俺達の元へ退避してきた。
追いかけるように触手がアミとサリスの頭上から襲おうとするか、オルと俺の攻撃で阻まれていた。
「助かったです、オル」
「無事でよかったよ、アミさん」
頂上部分から伸びる触手は3本あり、かなり長い。30mほど離れているが伸ばして襲ってくる。
破砕粘土への着火はまだ出来ていない。
「3人とも時間を稼いでくれ」
俺はそういうとマルチロッドに火魔石をセットして、破砕粘土目掛けて火の玉を撃ちだす。
「《バースト》!」
火の玉が破砕粘土にぶつかった瞬間、破砕粘土が爆発した。
かなりの威力だ。20m以上はなれろというのもうなづける。
ビキビキっという音と共に殻にひびが入っていき、オルの矢が殻にあたった瞬間こなごなに殻が崩れ落ちた。
殻の下から出てきたのは巨大なナメクジのようなキャスクホーンの本体だ。
三本の触手の根元が見えるが頭部ではなく腹部から伸びていた。
俺とオルは頭部を狙って攻撃を続ける。
その間にアミとサリスが駆け寄り攻撃を加えていく。
頭上から襲いかからない三本の触手はアミとサリスの敵ではない。
アミは軽々と攻撃を受け止め、サリスは触手に剣をふるって切断していく。
切断された触手が再生している様子はない。
3本の触手が全て斬りおとされたあと、アミが前面に立ってパイルシールドガントレットで胴体を連打していく。
当然杭を出しているので、本体から体液が飛び散っていく。
サリスも背後から攻撃をしかけて大きな傷を背中にあたえていく。
こちらは高熱の刀身によって斬られた傷が焼かれており体液が飛び散ることはなかった。
ほどなくしてキャスクホーンを倒れた。
一旦用心のためにアミとサリスが盾を構えたまま距離を取る。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・キャスクホーン>>→魔獣:パッシブ:土属
Dランク
HP 0/269
筋力 2
耐久 16
知性 2
精神 2
敏捷 1
器用 1
(よし死亡してるな)
しばらく動かないのを確認してから、魔獣に近寄り頭部をサリスが切り離す。
「角ってこのことかしら?」
「それっぽいな、意外と小さいけど…。なんに使うのか分からないけど依頼だから回収しよう」
俺とオルは角の回収、アミとサリスは魔石の回収にあたる。
回収が終わって気付いたが、アミが緑色の体液を浴びてすごい状態になっていた。
俺は清浄送風棒をアイテムボックスから取り出し、タオルを取り出していたオルに手渡す。
「これをつかえば汚れが落ちるからアミの汚れを取ってあげてくれないか。背中とかはアミじゃ届かないだろうしね」
「え?」
「サリスと俺はスパイクの回収とかがあるから頼むよ」
俺はそういってオルの肩を叩いて、スパイクと矢の回収作業に入る。
同じく回収作業を手伝ってくれているサリスが小声で話しかけてきた。
「ベックも気がきくわね」
「オルのほうが適任だろ、見てごらん。アミも喜んでいるよ」
俺とサリスが横目で二人のほうを見ると、オルが汚れを丁寧に落としていてアミが幸せそうな顔をしていた。
無事に回収作業が終わった俺達は転移石を用いて迷宮から出たあと受付で報酬を受け取る。
銀貨30枚と魔石買取額10枚で計銀貨40枚。一人銀貨10枚という報酬にみんなの顔がほころぶ。
ちなみに受付に話を聞いたらキャスクホーンの角の粉末は、破砕球や破砕粘土の材料になるのだそうだ。
あの威力のアイテムが作れるのだ、小さな角でも銀貨30枚するのもうなずける。
俺達4人はそのままの足で、冒険者ギルドで教えてもらった装備工房を訪れた。
場所は冒険者ギルドのすぐ近くで、店にいくと大勢の冒険者が武器や防具を眺めている。
店の中では、なんとなく俺とサリス、アミとオルの二組に分かれて武器や防具を見て回ることになった。
「武器や防具はあまりドルドスと大差ないわね」
「ほら、パワーハンドボウが売ってるよ」
「あら、ほんとだわ、えっ?」
「どうした、サリス」
「ここだと銀貨20枚ね…」
「そりゃ船で運んでまで仕入れたんだからドルドスじゃ高いのも仕方ないよ。損したって顔はしちゃ駄目だよ」
「そうね…。あら!あれってマルチロッドよ!」
「ここまでロージュ工房製の武器がきてるのか…。うはあ、ここじゃ金貨2枚だ!!!」
「場所が変われば値段も変わるってことね」
「大型帆船に乗ってた船員の給料や、運ぶ時間を考えると仕方ないな」
そこでサリスがなにか閃いたようで俺に小声で話しかけた。
「小型船の燃料代だけど、ちょっとした武器なんかを運べば元が取れるんじゃない?」
俺はその言葉にびっくりした。なんで考えつかなったんだろう。
大量の荷物を運ばないと儲からないという固定観念に縛られていたみたいだ。
「サリス、すごいよ!良い考えだと思うよ!」
「今夜でもじっくり考えましょうね」
「ああ、そうだな!」
「それより破砕球か破砕粘土を買うんでしょ」
「ああ、だけど店には展示してないみたいだな。ちょっと店員に聞いてみるよ」
カウンターにいた店員に破砕球のことを聞いてみた。
店員は俺の眺めてから、申し訳なさそうな顔で誤ってきた。
「すいません、破砕系アイテムはDランク以上の冒険者にしかお売りできないんです」
年齢を見てDランクじゃないと判断したみたいだ。
まあ、しょうがない。
実際Eランクだし諦めようとしたが、念のために称号の記載されら冒険者証を提示した。
「称号を持ってまして現在クシナ迷宮でDランク魔獣を討伐しているのですが…」
「え?」
店員は慌てて冒険者証を確認する。
「おぉ、久しぶりに称号つきの冒険者証を拝見いたしました。偽造もないですね。称号があればDランクに準拠しますから購入は可能ですよ」
「破砕粘土が欲しいのですが、在庫はいくつくらいありますか?」
「先日冒険者ギルドに納品しまして、まとめてお売りするとなると50個となりますね。1個銀貨1枚なので銀貨50枚になります」
俺はそこから店員と粘り強く交渉することになったが、人気の商品らしく値引きは厳しかった。
結局破砕粘土を50個を銀貨48枚で購入することが出来たので、良しとしておこう。
「交渉お疲れ様」
「買い手が多いらしいね、まあ、あの威力じゃよくわかるな」
「結局破砕球は買わずに破砕粘土を購入したのね」
「キャスクホーンで分かったけど、粘土のほうがマルチロッドと相性がよいからね」
「取り付ければ、好きなタイミングで爆発させれるのは確かに魅力ね」
「うん」
買物を終えた俺とサリスが、アミとオルを探すと二人は弓の売り場にいて弓を物色していた。
オルにあう弓をアミが探しているようだった。
俺とサリスは邪魔をしては悪いなと、二人に先に宿に戻っていると告げて装備工房をあとにした。
初々しいアミとオルの雰囲気にあてられたのか俺はサリスと手を繋いで宿へと歩き出す。
サリスが少し微笑んで体を寄せてきた。
幸せっていいもんだなと目抜き通りを歩きながら思う俺がいた。
2015/05/01 表現修正




