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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【パラノス旅行編】
108/192

4-21 スキュラ

 竜暦6561年6月12日


 オルと知り合ってから六日が経った。

 俺達はあれから魔獣討伐を介して、すぐにオルと打ち解けていった。


 オルはとにかく戦う際のセンスが良い。

 俺達との連携にすぐに馴染んだし、阿吽の呼吸というのか俺達の望んだ場所に的確に矢を放っていく。

 後方から魔獣との戦いに参加しているために全体を把握しているのであろう。


 また後方にいる自分が狙われた際にも、巧みな体術で攻撃を華麗に避けていくので俺達も援護にすぐに駆けつけることが出来る。

 いろいろな意味で俺達とオルは相性が良かった。


 オルにしても圧倒的な火力と安定した防御が両立しているので非常に戦いやすいと言ってくれていたのが印象深かった。

 たしかに後方で戦うアーチャーとしては、共に戦う仲間が重要なのだ。


 アミとの相性もよかった。

 近接のアミと遠隔のオルでは、互いに互いを支えあうことが出来た。

 オルに魔獣が襲い掛かれば、アミが駆け寄り盾で受け止める。

 アミに魔獣が襲いかかろうとすれば、オルが的確に矢で魔獣の足を止める。

 とにかく、そんな二人が仲良くならないはずはなかった。


 今もイチャイチャしているアミとオルが、俺とサリスの目の前に座っている。

 時間は朝の8時10分。

 場所は冒険者ギルドに併設されたカフェの一角にあるテーブルである。

 アミと仲良く会話しているオルに俺は気になっていたことを尋ねてみた。


「そういえばオルが以前に着ていた衣装はなんだったのかな?」

「ああ、礼装のことかな?ベック」

「あれって何か意味があるの?」

「パラノスでは相手に礼を尽くすときに着る衣装なんだよ」

「へぇ」

「あの日はクシナについて、お世話になる冒険者ギルドの代表に挨拶にいくことになってたから礼装を着てたんだけどね」

「あれカッコよかったです!」

「アミはああいう衣装が好きそうだな」

「えへへ」

「女性は特にああいうおしゃれな衣装が好きなのよ、今度ベックにも服を揃えてあげようかしら」

「うーん、俺は似合わないからな」

「そうでもないわよ」


 サリスの洋服を選ぶセンスは悪くないのだが、ちょっと派手なので俺はすこし戸惑っていた。

 俺は話題を変えた。


「もしかしてあの衣装だったから、オルはあの男に不覚をとったのかな」

「ああ、あの衣装じゃ走りづらくてね。荷物を取られたのが分かってすぐに追いかけたんだけど…恥ずかしい限りだよ」

「オルの腕前じゃ弓でも持ってれば、すぐに取り押さえられたんだろうけどな」

「弓は別のケースに入れていてすぐに取り出せなかったんだけど、あのときは本当に失敗したよ」

「でも、あのおかげで出会うことが出来たんだし良かったんじゃないかしら」

「良かったです!」


 アミが嬉しそうに笑う。

 その笑顔をみてオルも微笑む。


「本当にアミとオルは仲がいいわね、ベック」

「そうだね、でも俺達には負けるかな」

「もう、ベックったら、ふざけないで!」


 俺とサリスを見てアミとオルが笑う。


「そういえばアミさんに聞いたけど、二人は付き合いが長いんだってね」

「4歳からだから、そういえば10年になるわね」

「ああ、確かにそうだな。でも付き合い始めたのは10歳の時だったからな」

「へぇー。どおりで仲がいいんだね、結婚したばかりとは思えないよ」

「まあね」


 結婚といえば、昔から猫人族の名前が複雑なのが気になっていた俺は二人に理由を聞いてみた。


「そういえば猫人族って名前を3つで区切るけど意味があるんだよね?」

「あれは父親の名前、母親の名前、自分の名前で並んでるです」

「となるとアミの場合、お父さんがムイ、お母さんがネルって名前で、オルの場合は、お父さんがラタ、お母さんがネラになるってことか」

「そうですね。他の亜人族は分かりませんが猫人族は、この名前の付け方が定着していますね」

「アミとオルが結婚して子供が出来たら、名前の頭にオル・アミってつくのね」


 サリスがまた爆弾を落としていった。

 あっという間にアミとオルの顔と猫耳が真っ赤になってうつむいていく。

 最近アミとオルを煽るサリスの姿を頻繁に見かけるようになっていた。

 からかってるのではなくて、純粋に二人をくっつけたいようであったが言われたほうは困惑するばかりである。

 俺は二人に助け舟を出す。


「さて今日の討伐魔獣を確認しないとな。こいつも水魔石が取れるらしい」

「え、えっと水魔石を出す魔獣を狙うのは理由があるのかな。ベック」

「そういえばオルに船の事を話してなかったっけ」

「船?」

「ああ、港湾都市バイムで高速船を購入したんだよ。燃料が水魔石なんだけどね」

「えっ?」


 水魔石で走る船というのがオルには理解できていないようだった。

 まあ、あの船は一度見てから説明するのが早いと思い、ここでは詳しい説明をしないでいた。


「各地を旅行するための速く進む船なのよ」

「そうです!楽しいです!」

「前にも話したけど、ベック冒険旅行商会は旅先の紹介する本を書くのが仕事だからね。各地の移動は速いほうが捗りそうなんだよ」


 俺はアイテムボックスからバセナ紀行を取り出して、オルに渡す。


「そういえばまだ本を渡してなかったな、今度時間があったら読んでみてくれ。ちなみにその本に書かれている旅がアミと俺達の出会いの旅だったよ」

「あの時は大変だったけど、楽しかったです!」

「懐かしいわねー」

「アミさんが関わった旅は興味あります。寝る前にでも読んでみます」


 オルが本をアイテムボックスにしまう。

 俺は話を元に戻す。

 地下3階の地図を取り出して、一点を指差す。


「ここのDランクの魔獣を今日の対象にしたいと思ってる。名前はスキュラ。人を積極的には襲わないけど暴れ始めると厄介な魔獣だ」


 魔獣図鑑を開いサリスとアミとオルにスキュラを見せる。


「大きさは昨日戦ったエンペラートードと同じくらいかしらね」

「図鑑の情報だと同じくらいかな、高さ3mくらいありそうかな。まず頭部まで遠隔武器でないと届かないので致命傷を与えにくいだろう。あとは図にあるように脚部にある複数の触手を厄介だと思う」

「厄介ね」

「ただし倒した時に得られる水魔石は巨大でCランク相当になるからかなりの額になるし、井戸用水魔石に換算してもかなりの量に分割できるはずだ」

「船の航行に使えるわね」

「ああ、その通りだよ、サリス」

「触手を抑えるのをアミさんとサリスさんでやって、頭部の弱点を狙うのは僕とベックかな」

「オルのその作戦が、俺も一番だと思う」


 俺達は作戦を確認したあとカフェを後にして、クシナ迷宮の地下3階を目指す。

 クシナ迷宮なら地下3階の移動も楽だ。


 30分もかからず軽快な足取りで階段を下りていき地下3層にたどり着く。

 俺は迷宮灯を取り出しセットする。

 地下3階も明るいのだが、位置が変わる落し穴があるらしいので準備を怠ってはいけない。

 興味があったので、その位置の変わる落し穴を一度は分析してみたいと思っている俺がいたが、地下3階に5日間通ってもまだ遭遇できていなかった。


 俺達は地図を見ながら慎重に周囲を警戒しながらスキュラのいる場所を目指す。


 前を歩いているアミが身をかがめて前方を指差す。

 俺達も身をかがめて前方を確認する。


(【分析】【情報】!)


 <<ラビリンス・ギガロックパペット>>→魔獣:パッシブ:土属

 Dランク

 HP 558/558

 筋力 4

 耐久 16

 知性 1

 精神 4

 敏捷 1

 器用 1


(図鑑の情報どおり体力多くて厄介そうな敵だな)


 前方に巨大な岩が動いている姿が見える。

 天井までの距離を考慮しても高さは4mくらいはあるだろう。

 しかし中型魔獣は図体がでかいので発見が容易なので、余計な戦闘を避けたい俺達にとっては本当に助かる。


「いつもどおり迂回しよう」


 サリス、アミ、オルがうなずき魔獣を迂回しながら先を進む。

 積極的に襲ってはこないとはいえ、無闇に刺激するのはよくない。

 1時間ほど歩いてスキュラのテリトリーに俺達は到着した。


「ここからスキュラのテリトリーですね」

「とりあえずはスキュラを見つけよう。倒されていなければいいんだが」


 ほどなくして足の触手をうねらせるスキュラを俺達は発見した。


(【分析】【情報】!)


 <<ラビリンス・スキュラ>>→魔獣:パッシブ:水属

 Dランク

 HP 361/361

 筋力 4

 耐久 4

 知性 2

 精神 8

 敏捷 2

 器用 2


(思ってた以上に背が高いな。しかし本来は海にいる魔獣まで迷宮にいるのか…)


 目の前にいるスキュラは上半身を鱗で覆われており、腕にあたる部分は鱗のある長い触手が生えている。

 頭部はのっぺりとしており目に当たる部分が見えないが牙の生える大きな口だけはよく目立つ。

 下半身が一番特徴的で、表面がヌメヌメとしている複数の触手がかなりの密度で生えていてうねっている。

 蛸の足のように吸盤はついていないが、あの下半身の触手の中には、取り込まれたくないなと思う俺がいる。


 サリスとアミとオルの顔を見たが、やはり下半身の触手に嫌悪感を抱いたようだ。

 生理的に好まれるものでないからしょうがないだろう。


「この辺りには、あのスキュラしかいませんね」

「迷宮の中型魔獣は小型魔獣と異なって群れてないから助かるな」

「あのスキュラが複数いたらゾッとするです」

「複数いる場合は4人では無理でしょうから、即座に撤退するしかないわよね」

「とりあえずカフェで話したようにオルの言っていた作戦を試そう。サリスとアミは触手の対処で、俺とオルは上半身を狙っていこう」


 三人が大きく首を縦に振ってから、戦闘態勢を取る。

 アミが《ガード》《ライト・スティング》《レフト・スティング》と呟いて突撃したのを合図に、スキュラに俺達は襲いかかった。

 サリスも駆け出しながら《ヒート》と呟きフレイムストームソードの刀身に高熱をまとう。

 さらにサリスが《ガード》と呟くとフレイムスパイクシールドの表面も高熱をまとった。


 スキュラの足元に張り付いた二人は凄まじかった。

 太さ30cmほどある触手がサリスとアミに襲いかかるが高熱を発する盾を使ってそれを受け止めていく。

 攻撃を受け止めるだけでもスキュラにダメージを与えるサリスとアミ。


 アミは正面側に立つと防御に徹しながら触手を防いでいく。

 スキュラが向きを変えて背後にいるサリスを襲おうとすると、杭の飛び出たパイルシールドガントレットによる連打をアミは即座に触手に放ち、また自分のほうを向かせようとしている。


 スキュラの背面側はサリスの担当だ。

 サリスは手にしたフレイムストームソードを踊るように操って360度をカバーする剣撃の結界を発生させていた。

 サリスに襲いかかる触手が次々とその斬撃で斬りおとされていく。

 太い触手がスパスパ斬れる姿は圧巻だった。

 この攻撃はさすがにスキュラにとって危険と判断されたようで、たびたびサリスの方を向こうとするがアミに阻まれてしまっていた。


 女性陣の奮戦する姿に、俺とオルも負けじとばかりに上半身に攻撃を加えていく。

 射程の長いオルが一番遠い位置から次々と頭部を狙って矢を放っていく。


 矢は的確に上半身の腕の付け根や首下など鱗が薄いと思われる部位に突き刺さっていく。

 さすがの腕に俺は感心した。


 俺はアミとサリスの邪魔にならないようにスキュラの側面に位置してチェーンハンドボウでスパイクをスキュラの腹を狙って連射していく。

 ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュッ。

 カートリッジを全て撃ちつくすとスキュラの腹には剣山のようにスパイクが20本深く突き刺さっていた。

 俺は距離をとってカートリッジを交換してから、再度スキュラの側面に近寄り、腹を狙っていく。


 スキュラは4人の攻撃で触手を激しく振り回して反撃するが、効果的な反撃が出来ずにほどなくして、その巨体が横倒しになった。

 倒れたスキュラに駆け寄ったサリスが首と腕を斬りおとす。

 俺達4人は戦闘態勢を維持したまま、いったんスキュラから離れて様子を見る。


(【分析】【情報】)


 <<ラビリンス・スキュラ>>→魔獣:パッシブ:水属

 Dランク

 HP 0/361

 筋力 4

 耐久 4

 知性 2

 精神 8

 敏捷 2

 器用 2


(よしHPは0だな、討伐完了だな)


 しばらく様子を見てスキュラが起き上がる様子がないのを確認した俺達はスキュラを討伐したことを確認した。


「触手が厄介だったわね、斬っても斬っても減った感じがしなかったわね」


 そういうサリスに俺は再生途中の触手を指差す。


「触手の再生速度がはやいみたいだ」

「あー、なるほど。一人ではやりあいたくないわね」

「胴体のダメージは有効だったみたいです!!」


 アミが上半身に突き刺さるおびただしい数の矢とスパイクを見て感想をもらした。


「オルとベックのおかげかしらね」

「4人いたからだよ、俺とオルだけでも倒せないだろうしね」

「僕もそう思うよ、アミさんとサリスさんが防いでくれたから安全に矢を射ることが出来たからね」


 俺達4人は横たわるスキュラを前に戦闘内容を振り返ったあと、スキュラの魔石を回収して転移石を使ってクシナ迷宮の外に戻る。

 迷宮内のDランクの魔獣からはCランククラスの魔石が出るが、俺はそれを買取窓口に持っていく。


「Cランク魔石で、この大きさですと査定金額は銀貨12枚になります。買取で宜しいですか?」

「いえ持ち帰ります。査定ありがとうございます」


 窓口から離れて三人のところに戻った俺は、アミとオルにそれぞれ銀貨3枚づつを渡す。


「今回のスキュラの魔石代ね。銀貨12枚だから一人銀貨3枚だね」

「ありがとです」

「ありがとう。ベック」


 討伐の報酬に二人が喜ぶ。

 そんな喜んでいる二人を見ていたサリスが口をひらいた。


「明日だけど休みにしたいけど、どうかしら」


 俺もそろそろ休憩が必要だと思っていたのでサリスの提案に賛成する。


「俺もそろそろ休みたいな」

「わたしもゆっくりしたいですー」

「僕はどっちでもいいけど、みんな休むなら僕も休みかな」

「じゃあ、そういうことにしましょうか。たまに気分転換しないとね」

「そうだな」

「そういえばアミにお願いがあるんだけどいいかしら」

「なんです?」

「わたしとベックは明日二人で出かける用事があるから、ヒッチ義兄様の家のお土産を買ってきてほしいのよ」


(あれ?用事なんてあったっけ?というか休みを決めたのはさっきなんだけど…)


 俺はサリスの顔を見つめるが、平然とした態度でサリスが話を進めていく。


「事務とかお世話になってますし、そのぐらいならわたし買ってくるです」

「でもアミ一人じゃ心配よね…、オルも休むならオルがアミに付いていってくれると助かるわね。どうかしらオル、アミの買物に付き合ってくれない?」

「えっ!」

「迷惑だったかしら」

「い、いや、迷惑じゃないけど」

「あらそうなの!よかったわね、アミ。オルも一緒に買物に付き合ってくれるそうよ」

「あ、ありがとです…」

「いや、その、えっと、うん明日よろしくな」


 なんというか、サリスが二人を手のひらで転がしていくのがある意味怖い。

 女性って凄いなと俺は思ってしまった。

 最近のサリスを見ていると、イネスと重なって見えるのは気のせいだろうか。


 どことなく共通する部分があるよなと、そんなことを考えていた俺がいた。


2015/05/01 誤字修正

2015/05/01 会話修正

2015/05/15 誤字修正

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