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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【パラノス旅行編】
106/192

4-19 出会い

 竜暦6561年6月6日


 アミは朝からそわそわしている。

 食事中でも辺りをキョロキョロ見渡すし、猫耳もくるくる回ってる。

 そのくせ尻尾は体に巻きつくぐらいに体にぴったり寄せているのだ。

 猫人族の情報が得られるかもという事であるから落ち着けというのは無理があるのだろう。


 俺とサリスもその気持ちが分かるので、カフェで豆のカレーを素早く食べ終えると、すぐに冒険者ギルドに向かうことにした。


 街のはずれの城壁で囲まれた場所に、クシナ迷宮都市の冒険者ギルドの立派な建物があった。

 建物というか、外観は砦である。

 この冒険者ギルドの広い中庭に、クシナ迷宮への入口が存在しているのだ。

 もともとクシナ迷宮が発見されたことで、人が集まり都市になったというのがよく分かる。


 建物の中に入ると、冒険者の姿がちらほら見える。

 時間が少し遅かったのか、既に多くの冒険者は迷宮の中に向かっていたようだった。


 俺達は冒険者ギルドの受付の職員に冒険者証を提示して、旅の途中の冒険者であり、亜人族について相談したいことがあると話をした。

 職員は冒険者証とアミの姿を見てなにか察したのか、少し待っていてほしいと奥に消えていった。


 俺達は呼ばれるまでEランクのクエスト掲示板を見て待つことにした。


 ・ロックパペット討伐▼   銀貨9枚

 ・ペガズ討伐▼       銀貨8枚

 ・レッサーサングリエ討伐▼ 銀貨8枚

 ・メガプテラ討伐      銀貨6枚

 ・フォレストテグレ討伐   銀貨3枚


「この記号は何かしら」

「備考から推測すると迷宮内の魔獣だろう」


 記号のついた討伐依頼の生息場所が全てクシナ迷宮となっていた。

 さらに備考を確認すると指定部位の採取も条件に入っている。


 ロックパペットは鉱石、ペガズは皮、レッサーサングリエは皮と肉が指定部位だった。

 迷宮内の魔獣から採取できる部位の加工も活発なようだ。

 今は魔石が中心だが、いずれパム迷宮もこういった依頼が増えるのであろう。


「しかし知らない名前の魔獣が多いな、なるべく早くパラノスの魔獣図鑑を入手しないとな」

「あとでこの街の本屋に寄ってみましょ」

「ああ」


 俺はサリスを見てうなずくと、サリスのうしろでぼんやりと掲示板を眺めているアミが視界に入る。

 心ここにあらずといった感じだ。

 いろいろな感情が心の中で複雑に絡み合っているのであろう。


 掲示板を見ていると先ほどの職員が俺達の元にきて、会議室に案内してくれた。

 会議室の中にはクシナ迷宮都市の冒険者ギルドの代表と名乗るラタファエという人物が俺達を待っていてくれた。

 俺達は椅子に座るように促されたので、ラタファエと向かい合うように着席し、あらためて自己紹介をする。


「ドルドスから来ましたオーガント・ベックと申します」

「ベックの妻のオーガント・サリスです」

「わたしは猫人族でムイ・ネル・アミです」


 代表のラタファエがにこやかに笑う。


「遠いドルドスからの冒険者とは久しぶりだな。君達を歓迎するよ。さて称号持ちの君達の相談とはなんだろうか」

「実はクランの仲間である彼女の為に、猫人族の里を探しております」

「ほー、それは亜人族のあの問題がらみなのかな?」

「村は存続してるです…わたしの血の問題のために相手をさがしているです…」


 アミがラタファエに理由を話す。


「なるほどな、それはタイミングが良かったな」

「え?」

「もうすぐ、猫人族の冒険者が迷宮都市に来る予定なんだよ」


 その言葉を聞いてアミが驚きのあまり勢いよく立ち上がった。

 その勢いは座っていた椅子が倒れそうになるほどだった。


「す、すぐに会いたいです!!!」


 アミが詰めよろうとするので、俺とサリスはアミに駆け寄ってとりあえず落ち着かせる。

 興奮気味のアミを落ち着かせるのに、少し時間を要した。


「あまりの嬉しさに興奮してしまったようで、すいませんでした」


 俺がラタファエに謝ると、ラタファエも事情がわかるだけに微笑んで許してくれた。


「まずは先に説明をしよう。パラノスの猫人族の里だが、ここから馬車を乗り継いで2週間以上、北に進んだ場所にあるそうだ」

「かなり遠いですね」

「ああ、あとは知ってのとおり、亜人族はなるべく里の周辺から、事情がない限りめったに離れることはない」


 ラタファエがアミを見つめて更に説明を続ける。


「しかしな、そこの里では成人を期に修行としてクシナ迷宮に若者を1年間派遣する慣習があるんだよ」

「その修行の若者が今年くるんですか?」

「ああ。事前に連絡があってな」

「失礼ですが、ラタファエ代表とその里とは、特別な縁でもおありなんでしょうか?通常、冒険者の動向を代表がそれほど詳しく把握することはないと思うのですが…」

「すまんすまん、その説明を忘れておったな。そこの里の長と私は友人でな、昔クランを組んでいたことがあったんだよ。その縁もあって修行に来る若者の世話も引き受けているんだ」


 そういって代表のラタファエが大きく笑う。


 俺としては願ってもない状況だ。

 クシナ迷宮都市にパラノスの猫人族がやってくれば、詳しい里への移動方法や、里にいる亜人族の詳しい家族情報などが手に入る。

 若者の到着を待つほうがいいだろう。


 しかしアミの焦る気持ちを察すると、いつ訪れるか分からない若者を待つより、いますぐ俺達だけで北に移動するという手もある。


 非常に悩む問題だ。

 俺だけでは決められないと思い、三人で相談しようと俺は思った。

 まずはラタファエに俺は頭をさげた。


「貴重な情報ありがとうございます。その若者を待つか、いますぐ出発するかクランのメンバーで相談してみます」

「うむ、いますぐ出発する場合は、簡単な地図を提供しよう。いつでも声をかけてくれ」

「本当にありがとうございます」


 俺達は会議室をあとにしようとした時、ラタファエが俺達を呼び止めた。


「そういえば忘れていたな。もしクシナ迷宮で活動するならば、君達の場合クラン限定でDランク以上の魔獣も討伐できるから気に留めておいてくれ」

「「「え!」」」


 俺達三人はその言葉に驚いた。


「Eランクのクランですが、いいのですか?」

「ああ、3人とも称号持ちだからな。クシナでは称号のある冒険者は、上のランクの行動が容認されるから平気なんだよ」

「しかし…」


 おれが本当にいいのか確認しようとするとラタファエが更に説明をつづけた。


「あとはその装備を見ればわかるが、どれも業物だろう。実績もあってさらに装備も整っているのにEランクの魔獣を相手にさせるのは逆に失礼になるよ」

「そうですか、わかりました。気にとめておくようにします」


 俺達三人はラタファエに深く頭を下げてから、会議室を出て冒険者ギルドに併設されたカフェで相談することにした。

 俺はコーヒー、サリスはハーブティー、アミはミルクを注文する。

 席についたアミが深く考え込んでいる。


「悩んでいるようだけど、わたしはアミの尊重したいから、ゆっくり考えてね」

「俺もサリスと同じだな、アミの気持ちを一番にしたいと思ってる」

「…ありがとです」

「しかし代表はタイミングが良いと言ったけど、アミに取っては悩みが増えただけだな」

「そうね、その若者の件がなければ明日には出発したんだし」

「…」


 結論がでるのは先だろうと、それまでどう行動するか俺は確認する。


「このあとだけど若者を待つにしろ、里にすぐ行くにしろ、どちらの結論が出てもいいように準備をしようと思うがいいかな」

「そうね」

「…はいです」

「まずはベックの探してる図鑑かしらね」

「ああ、そうだな。他には移動するのに必要な食材、日用品や各アイテムの交換魔石の準備もあるな」

「待つ場合を考えると食材は、あとでいいと思うわ」

「じゃあ、食材は移動直前に揃えよう」

「あの店員に本屋の場所きいてみましょうか」


 そういうとサリスはテーブルの片付けをしていた店員に近寄り、クシア迷宮都市の本屋の場所を聞いてきた。


「目抜き通りの行政庁の建物の近くにあるんだって」

「じゃあ、まずは行政庁に向かってみるか、近くにいけば本屋が見つかるだろう」


 俺達は冒険者ギルドをあとにして目抜き通りを目指してあるきはじめた。

 通りを行き交う人々が多い。

 朝も気付いたが、クシナの住人の多くが陽射しから頭を守るためなのか。カラフルな布を頭に巻きつけているのが印象的だった。

 転生前の世界でいうバンダナというやつだが、多くの人がそういう布を頭に巻いているのは非常に壮観である。

 逆に俺達みたいに冒険者用の頭防具を着けていると、目立ってしまう。

 サリスも同じように思ったらしく、頭の防具を少し気にする仕草をする。


「サリスも気になったんだね」

「ええ、ここの人たちはオシャレね」

「どういう理由かはわかんないけど、バイムじゃいなかったよな」

「クシナだけなのかしらね…」

「模様も綺麗だし、土産にあの布を買ってみたらどうかな」

「それいいわね」


 俺とサリスは、そんな会話をしながら通りを進む。

 アミはというと、俺達のあとを考え事をしながら無言でついてきていた。

 きっと周りの様子も目に映ってないのであろう。


 俺とサリスの前を歩いていた赤いバンダナを巻いた女性を、路地から突然飛び出してきた大柄な男が押し倒した。

 倒れた女性の悲鳴があたりに響く。

 大柄な男の左手には大きなカバンが握られていて、右手には大型のナイフを持っているのが見えた。


 俺は肩にかけていたチェーンハンドボウを構えようとする。

 サリスも素早く反応して盾を構えてフレイムストームソードの剣のグリップを握っている。


 そして俺達の反応より早く、悲鳴をきいた瞬間、アミは飛ぶように男に駆け寄っていた。


 アミに気付いた男がナイフを突き出したが、左手のパイルシールドガントレットで攻撃を受け止められ、右手のパイルシールドガントレットで鳩尾を殴りつけられて、一撃で地面に倒れこんだ。


 サリスが倒れた女性に駆け寄り、無事かどうか確認する。

 幸い、足に軽いかすり傷を負っただけで済んでいた。

 ナイフで切りつけられていなくて本当によかった。


 大柄な男が飛び出してきた路地から、もうひとり若い男が飛び出してきた。

 その若い男は、青い髪に赤いバンダナを巻いており、衣装は原色をふんだんに使用した派手な服であった。


 どうやら大柄な男を追ってきていたようだった。

 肩で大きく息をしている。


「ハァハァハァッ、…助かったよ…」


 大柄な男が持っていたカバンは、この若い男のものだったらしい。

 置き引きにあったのであろう。


 若い男をみて、アミが目を見開いて固まる。

 若い男も、アミを見て固まっていた。


 女性の介護をしていたサリスが、アミと若い男の様子がおかしいことに気付く。


「アミ、どうしたの?」


 サリスが聞いてもアミは固まったままだった。


(【分析】【情報】!)


 <<ラタ・ネラ・オル>>→猫人族男性:14歳:冒険者

 Eランク※

 HP 209/209

 筋力 2

 耐久 2

 知性 2

 精神 2

 敏捷 4

 器用 8


(えーーーーーーーー!)


 分析結果をみてビックリした、若い男は猫人族であった。

 よくみると派手な衣装の裾から尻尾の先端が少し見えていた。

 猫耳については赤いバンダナで隠れていて、すぐには気付かなかった…

 まったく紛らわしい。


 しかし二人が固まった原因は分かった。

 同族であることを本能的にわかったせいだろう。

 固まる二人をみるサリスに、若い男の足元を俺は指差して教える。


「彼は猫人族じゃないかな」


 尻尾に気付いたサリスがびっくりした。

 俺は固まる二人の肩を叩き、この場の状況をまずは片付けようと提案した。


 騒ぎを聞きつけて駆けつけた行政庁の職員に、大柄な男を引き渡す。

 猫人族の若い男と俺達も、事情を説明するために行政庁へ連れて行かれた。

 暴漢がナイフをかざしたので、それを制止するために対処したと俺が行政庁の職員に説明し、冒険者証も提示をする。

 ほどなくして、俺達は問題なしということで解放される。


 廊下に出ると、同じく事情を聞かれていたはずの、派手な衣装の猫人族の若い男が俺達を待っていた。


 若い男が俺達に頭を下げてきた。


「男を捕まえてくれてありがとう」


 アミを一度見てから俺は若い男に答えた。


「倒したのは彼女だから、礼は彼女にしてあげてくれ。あと君は猫人族かな?」

「ああ、ルードン村のラタ・ネラ・オルだ。たしかに彼女と一緒の猫人族だ。しかし…」

「しかし?」

「初めてみる子だ。僕の村の出身ではないようだが…」

「…は、はいです…」


 アミが緊張して答える。

 目の前に、夢にまでみた別の村の猫人族がいるのだ気持ちの整理が出来ていないのであろう。


 行政庁の廊下での立ち話では、ゆっくり話が出来ないということで通りのカフェに移動することにした。

 移動の合間も、アミとオルはチラチラとお互いを見ている。

 めったに出会わない違う里の猫人族同士の出会いだ。


 それにしては、チラチラが多い。


 俺とサリスは、なんとなく二人の心情を察した。

 どうやらお互いに気があるらしい。


 アミにしても、オルにしても、同年代の猫人族との出会いというのは衝撃的だったのだろう。

 暴漢との事件の際に、固まっていたのはこの感情も起因していたと思える。

 しかし一時的な感情かもしれないし、見極める必要はあるだろう。


 サリスから俺にオルと一緒に行動して見極めたいと小声で提案されたので俺もうなずく。

 なんとか二人の気持ちを確認したい。



 行政庁から出てすぐの場所にあったカフェに移動した俺達はオルに自己紹介する。


「まだ自己紹介してなかったが、俺はスタード大陸西端の国ドルドスにある港湾都市パムで活動している冒険者でオーガント・ベック。現在14歳だ」

「ベックの妻のオーガント・サリスよ、よろしくね」

「…ドルドスにある猫人族の里のアンウェル村出身のムイ・ネル・アミです…ベックとサリスと同じ年です…」


 オルの顔が厳しくなる。


「まさか彼女の、アミさんの村は…」

「いやアンウェル村は健在だよ」

「それはよかった」


 安堵した表情をオルがみせる。

 俺は事情を話を続けた。


「オルは、冒険者ギルド代表が言っていた成人を期にクシナに修行に来た冒険者で間違いないのかな?」

「ん、僕の話を代表がおっしゃってたのかい」

「今朝、冒険者ギルドに猫人族の里の件を聞きに言った際に言ってたんだよ。もうすぐ着くだろうってね」

「なるほど。それで里を探すのには、それなりの理由があるんだよね?」

「アミの育ったアンウェル村には、彼女と子を生せる年の近い男性がいないんだ」


 オルが事情を察してうなずき、アミが恥ずかしそうな顔をみせる。


「婿探しに旅に出たのか…しかしそれでも無茶なことを…」

「彼女が里を出たのは4年前だよ」

「え?」


 オルが驚く。


「10歳で村を出たのか!」

「ああ、俺とサリスは10歳のときにアミと知り合って、ずっと行動を共にしている。現在はEランククランを結成している仲間だ」

「…そうか。それなりの覚悟があったんだな…しかも僕と同じ年なのにパラノスまで来るなんて…」

「わ、わたし一人では無理でした、ベックとサリスがいたからです…」


 俺はオルに頭を下げる。


「是非ともアミのために猫人族の里へいく手伝いをしてほしい」


 俺の言葉にオルがうなずくが、すこし難しい顔をする。


「僕でよければルードン村への移動ルートの説明や、里についた際に見せる紹介状を書くことは出来る。だけど婿探しは厳しいと思うよ」

「えっ」


 俺は驚き、アミがサリスの手を無言で握る。


「僕と年の近い子は男女共にいないんだよ。一番近い子で男の子となると7歳離れてる。上だと5歳上の俺の兄がいるが、すでに結婚しているよ」

「なるほど…」

「僕の場合も将来結婚するとなると8歳下の女の子との結婚になるだろうって話が出ているくらいだ」

「どこの猫人族の里も厳しいのね」

「たまにそういう時期があるという話を長がしていたよ、アミさんの村でも同じような状況だったって事は、なにか種族全体で一時的に出生率が低下したのかもしれないな」

「その話を聞く限り、偏りがあるみたいだね」

「アミさん、ちょっといいかな?」

「…はいです…」

「アミさんの村も下の子たちは、結構多く生まれてきてるんじゃないかな?」

「…たしかに多いです」

「やはりな、僕の村も6年くらい前から生まれてくる子が多くなったんだよ」


 オルが腕を組んで考える。


「他の猫人族の里との交流がなかったから、僕達だけの問題かと思ったけど、そうでもない可能性があるのか」


 オルの話で、ルードン村へ行ってもアミの件で進展がないことがわかった。

 アミにとって進展があるとすれば目の前にいて意識しているオルか、もしくは他国の猫人族の男性ということになる。

 サリスが俺を見つめる。

 どうやらオルとアミと一緒に行動させたいみたいだ。

 気持ちを確認するにはそれしかないなと俺も思う。

 少し角度を変えてオルと話をすることにした。



「オルは遠い場所にある猫人族の里に興味はあるかい?」

「え?」

「俺達はベック冒険旅行商会という商会も経営してるんだ。目的は各地を旅してその様子を記事にした本を出すことなんだけど、これから先も世界を移動する予定があるんだ」

「商会まで経営してるのか!」

「ああ、今回パラノスに来たのは旅行記を書くための旅と共にアミの婿探しも兼ねていてね。パラノスの猫人族がダメなら、ヒノクスやアザラスにも探しにいく予定なんだ」


 俺がそういうとオルが怪訝な顔をしてたずねてきた。


「どうして人族の君達がアミさんのために、そこまでしてあげるんだい」

「家族だからだ」

「家族?」

「そうよ、アミとは家族なの。4年前から一緒に過ごしてきて、もう家族以上なのよ。家族のために動くのは自然なことでしょ」


 アミがサリスの言葉を聞いて、握っているサリスの手を見つめる。

 その目には涙を溜めているのがわかる。

 オルもその様子を見つめる。


「どういう経験をしたのかはわからないが、君達は良い関係なんだね」

「はいです…」


 アミが涙を溜めながらオルに答える。

 俺はオルに提案してみた。


「オルも当分結婚する相手もいないようだし、もしかすると他の場所にある猫人族の里で女性との出会いがあるかもしれないから、一緒に猫人族の里を探しにいかないか」

「うーん、魅力的な話ではあるけど…」


 オルがアミを見てから、少し頬を紅くしてうつむく。

 アミもそのオルの姿を見て、恥ずかしそうにうつむく。


 目の前にいるアミを気にして、他の女性を探しにいきますなんて言わないオルは良い男だなと俺は思った。

 ここで出会いがあるなら行きますなんて、いったらお断りしたところだった。

 オルの反応を見て、サリスもオルのことを気に入ったらしい。

 サリスが俺にうなずく。

 オルを強引に誘えという合図だ。


「オルはクシナで修行するんだよね、いつまでの予定なのかな」

「長の話では最低1年だね、結婚の予定もないし特にいつまでに里に戻ればいいという話は里を出る際には出てないよ」

「冒険者ランクはFランク?それともEランク?」

「僕はいまEランクだよ。ルードン村の慣習で成人して修行に出るのはEランクが条件なんだ」


 分析で分かっていたが、あえて俺はランクを確認してからオルに提案する。


「じゃあ俺達がオルに指名クエストを出しても問題ないよね」

「え?」


 サリスが横から。さらに話を続ける。


「オルはどんな武器を使うのかしら?」

「僕は弓を使うんだけど」

「アーチャーなのね!私はアタッカー、アミはシールダー、ベックはサポーターなのよ。アーチャーが一緒にいてくれると助かるわね」


 サリスが強引に話を進める。


「でも僕は修行があるから…」

「ドルドスにもパム迷宮って迷宮が最近できたのよ、修行ってのはどこでも出来るんじゃないかしら」

「クシナの冒険者ギルドの代表にお世話になることになってて…」

「指名クエストを受けてくれればの話だけど、代表に断りを入れれば解決するわね」


 とても強引である。

 ここでサリスがオルに一撃を加える。


「アミと一緒にいたくないの?」

「あ、いや、その、えっと、そりゃ、でも、あーーー」


 オルが頭を抱え込む。

 初々しいなと俺はその姿を眺める。

 アミはというと、サリスの怒涛の攻めに顔を真っ赤にして、ずっとうつむいていた。

 しかし猫耳と尻尾が激しく動いているので、内心は凄く動揺しているのが分かる。

 オルに助け舟をだす。


「ごめんオル、サリスが新しい戦力の加入に興奮してしまったみたいなんだ。許してやって欲しい。あと指名クエストの件は、すぐに返事をしてほしいわけじゃないよ。でも、しっかり考えて欲しい」


 俺はそういうとオルに頭を下げた。


「俺達は当分の間、クシナにいるからね。もし問題なければクシナ迷宮に4人で挑戦してお互いの力量を知るのもいいかもしれないな」

「…」


 オルが無言で俺の言葉に耳を貸す。


「オルが俺達の指名クエストを受けるにしても、俺達のクランの力量を知っておく必要があるだろうし、それに俺達もオルの力量次第では指名クエストを遠慮させてもらうこともあるからね」


 その言葉にオルがくいついた。


「僕はルードン村にいる間も修行は欠かしてきた事はないから力量は十分あるよ!」

「それじゃあ、一緒にクシナ迷宮に挑戦して、その力量を見せて欲しいな」

「ああ、それは構わないよ。どうせ準備が出来たら、早ければ明日からクシナ迷宮にいく予定だったからね」


(よし!くいついた!)


 サリスを見ると同じようにニヤリと笑みを浮かべていた。

 アミは、その言葉を聞いて、もじもじしていた。


「じゃあ、明日の朝9時に冒険者ギルドで待ち合わせでいいかな」

「ああ、問題ないよ」


 明日のクシナ迷宮が楽しみだなと思う俺がいる。


2015/04/30 誤字修正

2015/05/15 誤字修正

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