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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【パラノス旅行編】
104/192

4-17 ガアナット村

 竜暦6561年6月4日


「おはよう、アミ」

「おはようです」


 外が明るくなり目が覚めた俺は、馬車の外にでてアミに見張りの様子を確認した。


「起こされなかったけど、魔獣は出なかったのかな?」

「出ましたよ」

「え?」


 驚く俺に、アミがメガプテルの尻尾を三本見せてくれた。


「チェーンハンドボウ貸してくれてありがとです!楽しかったです!」


 アミに念の為に渡していたチェーンハンドボウが活躍したらしい。

 俺はチェーンハンドボウを受け取ってから事情を聞いてみた。


 暗視能力があるアミからするとメガプテルは良い感じの射的の的だったらしい。

 迷宮灯がなくても活動できるアミからすれば、魔獣の方から無警戒で近づいてくるのであるから楽だったのだろう。

 闇夜に紛れて襲ってくるメガプテルと、遠隔武器を持っていて暗視の加護まであるアミでは相性が良すぎたのかもしれない。


 見張りの暇つぶしが出来たとアミは喜んでいた。


 昨夜気付いた俺の分析マーカーを利用した擬似暗視の場合は分析しなければ使えないが、アミの場合は元から明るく見えるのでやはり夜間の見張りはアミの方が適任だなと俺は思った。

 それと空を飛ぶ魔獣が今後増えることを考えると、サリスとアミのチェーンハンドボウを用意しておいたほうがいいなと気付く。

 俺は旅行準備メモを取り出して"サリスとアミのチェーンハンドボウ"と記入しておくことにした。


 サリスは3時までアミに付き添って見張りをしていたので、まだ馬車の中で寝ていた。

 俺とアミは、ポトフを温めなおして食べたあと、サリスを起こさないように静かに準備を行い、馬車を出発させる。


「今日中にはガアナット村に着きたいな」

「はい、今日はベッドで寝たいです」


 半日ほど進んだところで、サリスが目覚めたようだった。


「かなり進んだようね」

「おはようです、サリス」


 馬車から顔をだしたサリスにアミが語りかけた。

 俺は馬車をとめて、俺はサリスと御者を交代し、代わりにアミが室内で休み事になった。

 馬車を進めながらサリスに尋ねた。


「サリス、食事は平気?」

「大丈夫よ」


 そういってサリスはアイテムボックスから干し肉を取り出して食べ始めた。

 サリスがワイルドである。

 俺もサリスから干し肉をもらって一緒に食べながら馬車を走らせる。


「バイムで借りた馬だけど、かなり丈夫よね」

「それだけじゃないな。力強いし、馴致調教がしっかりされていて、いう事もよくきく」

「広大な敷地があったのも、うなずけるわね」


 馬の足取りは衰えることなく、軽快に街道を進んでいくと周りに田んぼが見えてきた。

 米の生産地らしい。

 ちょうど苗が植えられたばかりのようで、小さな稲の苗が風に揺れている。


「めずらしい畑ね」

「ライスを作る畑みたいだよ」

「ベック知ってるの?」

「バイムで聞いたんだよ」

「なるほどね」


 実際は聞いてはいないが、俺は知ってるので誤魔化して答えておいた。

 田んぼを見てると日本を思い出す。

 転生した俺は生まれ育った日本にはもう戻れない。

 ふと郷愁を感じた俺は目頭があつくなった。


 いろいろと思い出すと泣きそうだったので、気を紛らわせるためにサリスと話をすることにした。


「ガアナット村の宿屋だけど部屋が空いてればいいな」

「夜間の見張りは疲れたし、今日はゆっくりしたいわね」

「うん、しかしアミがいて助かったな」

「暗視は凄いわね、アミと見張りしたけど頼もしく思ったわ」

「そうそう、サリスとアミのチェーンハンドボウを用意しようと思うんだ」

「空を飛ぶ魔獣対策?」

「そうだね、あとさっき思ったのは海上移動でもあると便利かなと思ってね」

「チェーンハンドボウなら私達でも扱えるし、いい考えね」

「俺も今後の行動する範囲がひろがる可能性を考えると、あったほうが便利だよな」


 俺がそういうとサリスもうなずく。

 そして少し思案してから、口を開いた。


「出来れば、私は片手で扱えるほうがいいかしら」

「盾を構えながら使うってことかな」

「そうね」

「サリスには、そっちのほうがいいか…」

「あとアミには両手で扱える大きなやつがいいかも」

「あー、重いものを持てるからか…」


 サリスの提案内容を旅行準備メモを取り出して記入しておく。


「パムに帰ったらロージュ工房で依頼しないとな」

「ええ、そうね」


 田んぼに囲まれた街道をしばらくすすむと、ガアナット村が見えてきた。

 陽も傾きかけたところで、ちょうど良い時間だった。

 アミを起こしてから、村の中に入る。


 通りにいた村人に宿屋の場所を聞き、俺達は馬車を走らせた。

 宿屋に着いて交渉すると問題なく部屋を確保することも出来、馬車も預かってもらえた。


 荷物を部屋においた俺達は、宿屋に併設された食堂で夕食を食べようと集まる。

 メニューがあるかどうかを宿の主人に聞くと、宿にある食材で作るので日々料理が変わるということで特に注文は聞いていないということだった。

 俺達は、主人に料理を任せて運ばれてくるのを待った。

 ただし、厨房からは独特の香辛料の香りが漂ってくるので、三人ともカレーだなという顔をしていたのが笑えた。


 しばらくして案の定、テーブルにカレーが運ばれてきた。


「今日の夕食は、鳥肉と野菜のカリーとライスです」


 運ばれてきたカレーは、バイムで食べたものと変わらない美味しさだった。

 あと絶品だったのが鳥肉であった。

 カレーの染みこんだ肉汁が特に美味しい。

 しかし食べすすめると、鶏肉というより味わいが牛に近い感じであることに気付く。

 俺は宿の主人に、どんな鳥の肉か聞いてみた。


「これはメガプテラという鳥の肉なんですよ、このあたりじゃ人気でね」


 どうやらメガプテラは美味しい肉が取れる魔獣のようだ。


「どんな魔獣なんですか?」

「ああ、翼があって尻尾が長くてね、あと角が生えてるよ」

「「「えっ」」」


 俺達三人は、スプーンを持ったまま固まった。


 なんということでしょう。

 5匹分の美味しい肉を俺達はみすみす見逃していました…


 宿の主人に聞くと、メガプテラは昼間山の中の木々に止まって休んでおり、そこを冒険者が仕留めてくるという話だった。

 臆病な魔獣だが、暗闇の中では獰猛に人を襲ってくるらしい。

 この付近の村々では、村の外を夜移動する際には松明を必ず所持し、複数で行動するというルールがあるそうだ。

 いろいろ俺達は納得した。


 しかし本当に惜しいことをしたなとカレーを食べながら反省している俺がいる。


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