1-9 旅行者
「なあイネス。アキアも10歳になったし次の行商にアキアを連れて行こうと思ってるんだけどどうかな?」
家族揃って夕食をとっている際にジャスチがイネスに語りかけた。
「え?まだアキアには早いんじゃないかしら…」
「俺も10歳になる前から父の行商に同行していたし、将来オーガント家を継ぐアキアには各都市にいるお得意様への顔つなぎもかねておきたいんだよ」
「でも行商は危険だしアキアになにかあったら…」
両親がめずらしく真剣な表情で会話をしている。
「僕は父様に同行したいです。母様。」
アキアがしっかりとした口調でイネスに語りかけた。
「商売に必要な基本的な算術は母様から充分に教わりました。これからオーガント家を継ぐ僕としては人と人のつながりを得ることが大事だと思いますし父様の提案はありがたいと思います。」
「アキアも将来を見据えて考えているようだし、イネスが心配なら護衛を増やすという手もある、どうかな?」
「そこまで言われたら断れないわね… でもアキア、無茶や無謀なことはしないでね… 絶対に無事に戻ってきてね」
「ありがとう! 母様。」
母親として子供を心配するのもわかるが、この世界では14歳で成人を迎えることを考えれば10歳で社会勉強はじめるのも早すぎるということはないのだ。
この世界は年齢に関する考え方が、転生前と大きく異なっていた。
おおむね10歳を迎えると社会に出て仕事の基礎を身につけるようになり、14歳で成人として扱われる。
転生前に置き換えると10歳の少年で15から16歳程度の精神年齢があると思われるし、14歳ともなると18歳から20歳と同じ程度の精神年齢になるのだろう。
幼い頃より両親から自立する為、働くという意識や結婚して家族を持つという意識を常にもっているので精神年齢が高いと俺は思っていた。
「そういえばヒッチは将来付きたい仕事とかあるのかな? 次男だし商売は引き継がなくてもいいんだし好きな職があれば応援できるぞ。」
「僕は国のために役立つ仕事がしたいと思います。」
「ってことは役人とかかな?」
「はい、役人なら危険もないですし」
どうやらヒッチは公務員になりたいらしい。
8歳の男の子としては非常に堅実な選択である。
イネスの教育の影響もあると思うけど長男、次男ともしっかりしてるよね、本当に。
「ベックは小さいし、まだまだ将来決めるには早いな、あはは」
「本読むのが好きだし将来は図書館の司書になるのかしら」
両親が俺に語りかけてくるので、俺は隠していた本音を口にした。
「僕は大きくなったら広い広い世界を見て回りたいです、父様、母様。」
二人とも目を大きくして俺を見つめる。
「ベックの将来の夢は大きそうだ。志が高いのも悪くない!」
ジャスチがニコニコと笑ってそう語りかける。
イネスは逆に心配そうな表情で考え込んでから俺に語りかけた。
「ベックは冒険者にあこがれてるの?」
「いえ、戦うのは苦手ですし冒険者ではなく旅行者になりたいです。」
「旅行者?」
「ええ、冒険者をやとっていろいろな場所に出向き、その場所を紹介する旅行記という本を書いてみたいです。」
横からジャスチが割り込んでくる。
「ベックは面白そうな事を考えるてるな。」
「父様、そういった本って売れますかね?」
「内容にもよるが、貴重な情報であればあるほど高値で売れると思うぞ。」
商人の顔をしたジャスチが真剣に答えるがイネスが心配そうに俺をみる。
「でも危険が付きまとうわよね…」
「たしかに戦わないにしても体力は必要だな」
「そうよね。」
「まだ4歳だし将来なりたいことも変わってくるかもしれないし、とりあえずマリスキンさんの道場に通わせてみてもいいんじゃないか?」
ジャスチがイネスに提案している。
マリスキンさんの道場?
どこかで見た覚えのある名前が出てきたが思い出せない。
「道場ってなんですか?父様」
「ああ、魔獣から身を守る最低限の護身術を教えてくれる場所さ。体力をつけるには良い場所だぞ。」
「ジャスチ、ベックを道場に通わせてもいいけど、教会にも通わせるのが条件でどうかしら」
「教会ってなんですか?母様」
「ヒッチとアキアも通っているけど生きていく上で最低限の知識を勉強できる場所よ。精霊教会が場所を提供してくれてるの。私も算術を教えるためにお手伝いでいってるのよ」
「頑張ると約束するなら、午前中は教会、午後は道場に通わせてやるが、どうする?ベック。」
なんか、とんとん拍子に話が進んでいるが、知識と体力が同時に得られたら大きくなって旅行を存分に堪能できるじゃないですかー!!!!
「通わせてください!頑張ります!父様、母様。」
そうして俺は翌週から教会と道場に通い始めた。
2015/04/30 文章追加




