博士、ナンパはいけません。①
■ロボ子■
初めてのお出かけから一週間経ち、ロボ子は今では一人でお使いもこなせるようになり、最近では博士の手伝いができるようになっていた。
穏やかな昼下がり、今日も博士の仕事を助手として手伝っている。
「よし、では脱がすぞ」
「いやーん、おさわりはだめ」
「博士。こんな事を言っていますが」
「構わんやれ、私が口を塞ぐとしよう」
「きゃーー」
甲高い女性の悲鳴がラボ内に響き渡る。ラボ内にはロボ子と博士、そして、診察台のようなベッドの上に水着の女性の姿があった。
「まったく、てこずらせおって」
いつもどおり薄汚れた白衣にボサボサの髪の博士はベッドにベルトで拘束されている女性の首元に手を這わす。とたんに、女性は拘束を振り解こうと暴れだした。その暴れる体をツナギ姿のロボ子は何故か湧き上がる罪悪感も一緒に必死に押さえつける。
「博士まだですか」
「慌てるな。うん、ここだな……」
首元を、うなじの辺りを博士は指で軽く押すと、女性はアイドルロボットと呼ばれたソレはピタリと体を停止した。
「あ、あ、AA、aaa」
後味が悪いような声を最後に残し、完全に機体は停止し、暴れていた体は急速に力を失っていく。
「なんとかなりましたね」
「そうだな。全く後輩の作品が手こずらせてくれる。だから、あれほど全身人口肌にするんじゃないといったのだ」
ブツブツと愚痴を言いながら博士はアイドルロボットの口を開き、なかに手を突っ込む。
(やはり、どことなく犯罪的な匂いがする光景である)
「ロボ子。少し離れていなさい」
言われて、少し離れた瞬間、大きな音とともにロボットの首の付け根からヘソまでがパックリと開き、中から様々な機械の部品が現れる。
その光景でようやく目の前の女性がロボットなのだとロボ子は思えた。
「しかし。随分とせくしーな女性なのにつたない話し方でしたね」
「コミュニケーション方法を言語のプログラムがある一定の言葉で反応できるようにしているだけだろう。人工知能や学習装置は入れていないみたいだからな。要は観賞用、特に話したりする機能は求めていなかったからそんな話し方になったのだろう」
「なるほど」
「ロボ子。プライヤを頼む」
片手でアイドルロボットの腹の中にあるネジをドライバーを緩めながら、博士はもう片方の手をロボ子に差し出す。直ぐにペンチのようなそれを取り出し、博士に渡し、手伝い始める。
ロボット修理、それが博士の仕事であった。
基本的に都会から修理依頼が来るのが主で目の前にいるような人と寸分違わないロボットはもちろん、他にも工業用や介護用など様々な分野のロボットを修理し、都会までは配達業者に頼んで運んでもらうのが一通りの流れとなっている。
「後、そこの青いヒューズを取って新しいを持ってきてくれ」
「はい、わかりました」
淡々と仕事を博士はこなしながらロボットを修理するいつもの風景。
まだ、修理作業に慣れていないながらも頑張ってついて行こうとロボ子は思い、今日も博士の指示のもとパタパタと走り回っているとその背後にある扉が大きな音を立て突然開いた。
「フランケンはっかせー」
続いて幼さの残る声が上がり、ドアの前に一人の幼い少女が現れる。
ウェーブのかかった少し短めの銀髪。赤いリボン。黒いサマードレスを着ており、愛くるしい西洋人形な印象を抱かせる。
これでニコリと笑みを浮かべていれば可愛らしいのだが、眉は釣り上がりどう考えても怒っている雰囲気。
突如現れた少女は仁王立ちし博士に向い指をさす。
「さぁ、今日こそ私を……」
だが、彼女の言葉は続かず、見れば口を魚のようにパクパクさせていた。
その様子がロボ子にはどこかすこし、かわいらしく見えた。
そして、錆びた体のように震えながら少女の腕が動き指先が博士からロボ子を指す。
「え、私ですか」
「う……う……」
とたんに少女の表情は歪み、
「裏切ったなぁああ!」
大声を上げて叫び膝から崩れ落ちた。気のせいか目元には涙を浮かべているようだ。
「い、いや、ちょっと待ってください。何、なんですか」
突如起きた光景に驚き焦るのだがロボ子の隣の博士はめんどくさいようにため息を吐く。
「ロボ子。腕をまくって彼女に見せてあげなさい」
「はい、けど、あの少女泣いているのでは」
「それで泣き止む」
言われるまま、両手で顔を覆う少女に近づき腕をまくるその姿に少女は本日二度目の硬直を起こす。
「は、はかせ。あんたまさか。これって」
目元をこすり涙を拭いながら少女は博士に尋ねる。
「そうだ。感情のあるロボットだ」
「なんでそんなものを……」
恐る恐る尋ねる少女に博士は当たり前のように平然と答えた。
「無論。婚活のためだが」
「はぁ、ばっかじゃないの!」
そして、少女は再び叫ぶのであった。なるほど、これが博士が私を作った理由を聞いた時の普通の反応なのだな。とロボ子は妙に納得できたのであった。
「では、紹介しよう。ロボ子。彼女はフィーネ・レイディ。丘のふもとに住む近所の子供だよ」
とりあえず、場所は移り変わり研究所内にあるダイニングに少女を連れて行き、テーブルを囲むように三人は座ると博士は少女を紹介してくれた。
フィーネは不貞腐れたように口を開いた。
「これでも博士の助手よ」
「自称だ、気にするな」
「いいじゃないの、別にー」
「仲がいいのですね。しかし、どうして博士の弟子なんかになったのですか」
本人の目の前でバッサリとロボ子は言うが博士は特に気にする様子はなく応える。
「確か、そうだ。一年前、こいつが壊れたおもちゃを直してと言われ、断ったあとに、やっぱりこんなものも直せないのねという挑発に見事乗った私が完璧に直してやったのだよ。そうしたらソレをキッカケに弟子にして下さいと言われてね」
「してあげればよかったのでは」
「それがこの変人が断ったの!」
椅子の上に立ち、体をこちらに迫ったフィーネが答えた。何となくだがまた博士が火に油を注ぐような真似をしたのですね。という想像は容易である。
「君が私のように天才になれるとは思えないし、子供が産めない体に興味はない、って言ってつまみ出されたのよ。私だってもう少しで中学生なのよ。ひどくない。というか誰が好き好んであんたみたいなおっさんと付き合わないといけないのよ。レディーを舐めんなよ!」
「諦めたほうが良かったのでは」
そこまで酷いことを言われれば博士にもう関わらなければいいのではと他人事にロボ子は思った。
しかし、話を聞くに博士の変人ぶりを差し置いてもフィーネは博士の技術を手に入れたかったのだそうだ。おそらくこの女の子はロボットの博士にでもなりたいのだろう。
「ねぇ、ひどいと思わない。それで、私がしつこくここに通っていたら次のテストで二十位以内とれなかったらここに来るなっていうのよ」
いろいろ今まで溜まっていたのだろう。博士本人が目の前にいるのにも関わらず今までの愚痴が雪崩のようにロボ子に襲いかかってくる。
あまりの情報の多さにガリガリと頭が響いてきた。どうにかなりませんね、この状況。というよりなぜ私が彼女の愚痴を聞いているのでしょうかと疑問が浮かぶ。
「そうだったな。それでテストはどうだった」
「バッチリよ」
テーブルに一枚の封筒を叩きつける。博士が取り出して見るにどうやらそれはテストの成績表をまとめた一枚のプリントであった。確かに全体順位及び教科別でも全て二十位以内に入っている。
それに記憶装置の情報によるとプリントに書かれている学校はたしか有名な進学校である。その分入学金も高額なため、実はものすごい頭が良くて大金持ちの女の子ではないのかとロボ子は思えた。
博士は成績表を一瞥し封筒に戻すと特に驚きもせずに口を開いた。
「ふむ、ではこの調子で取り続けろ」
「ふざけんな!!」
それはきれますよね。というより子供相手でも容赦ない博士に少しロボ子は驚きを感じた。
「今日こそ私にロボットの作り方教えなさいよ」
「すまんがこのあと私は忙しいのでね」
壁にかけられた時計で時間を確認しながら、博士は立ち上がる。
だが、先ほどのアイドルロボットの修理は一通り終わっており、この後の予定など確か仕事は入っていなかったはずである。
「博士、何かご予定が」
「そうだ。ちょっと街の駅前あたりに行こうと思っている」
「また碌でもないことするんじゃないのー」
珍しく外出をしようとする博士に疑いの眼差しを向けフィーネは訊ね、博士はサラっと答えた。
「タダのナンパだ」




