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博士と乙女ロボ  作者: uda
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博士、買い物行きたくないです ④

■ロボ子■


「お、お待たせしました」


 着替え終わったロボ子は恐る恐るカーテンを開いた。あまり自分の肌を見られたくないので試着したワンピースの上にはカッターシャツを羽織っている。

 開けた視線の先にはやはり博士はおらず、かわりに小太りした褐色肌の女性がいた。見たところ40代半、目尻に深いシワがよった饅頭のような顔である。ネームプレートから彼女の名前がスーザンということが分かった。


 耳にはホール内の心安らぐBGMが一人残されたロボ子を馬鹿にしているように響く。


 スーザンはしわを寄せニカッと笑う。


「あらー良くお似合いですよ」

「あ、ありかとう、ございます」


 定型文のような言葉だが柔らかな言葉遣いの挨拶に少しどもりながらロボ子はお礼を言った。

 既に一人になったという事実と少し緊張しているのか、頭の中は不安で溢れて、うまく言葉が出ない。


「どうも。私は店員のスーザンです。どういった服をお求めでしょうか」

「あの、その、ですね……」


 ロボットとして、うまく言葉が出ないというのは何だかおかしなものだ。冷静に感情を分析しながら、ロボ子は手っ取り早く教えるために袖をまくる。

 中からは鋼色の光を反射する肌が現れた。


「こ、こんな肌ですので、できたら長袖の上着と丈の長い服がいくつか欲しい、のです、が」


 所々言葉につまりながらも何とか説明を終える、てっきりこの肌に少しは身を引くと思っていたがスーザンは動じることなく笑みを絶やさない。


「なるほど、では今の服装に合うカーディガンでもさがしましょう」


 一度服を下のジーンズに履き直すとスーザンの案内のもと、カーディガンのコーナーに足を運ぶ。


「しかし、私も長年ここで働いていますけどねぇ、ロボットの娘が服を買いに来るのは初めてですよ」


 言いながらこの季節に合ったデザイン、色などをロボ子の見た目にあわせ紹介していく。

 その動きは手馴れたものであり、まるで人と変わりないようにロボ子に接した。しかし、そうされればされるほど、なぜか戸惑いと感じてしまっている。


「では、こちらとこちらですね。まだお買い求めで」

「はい、えーと、ズボンも買っておきたいです」

「じゃあ、先にこの服をレジに預けてきますから、先にあちらのジーンズやパンツがありますからご覧になっていてくださいね」


 軽くサイズを合わせたあとスーザンはロボ子の買う予定の服を抱えレジへと消えていった。

 ロボ子は言われるままぼんやりとジーンズと手に取る。自分の体周りのデータが入っているのでサイズは簡単に選ぶことが出来るが柄や種類などに対しての知識は薄かった。


 店内の壁にかけられた時計を見ると予定したよりもスムーズに服を選んでいる。

 たぶん、あの店員のおかげなのでしょう。


「はい、お待たせしましたー。何かお決まりですかね」

「いえ、その……まだ。一応、ジーンズを買おうかと、あまりぴったりだと足ネジに引っかかるから」

「そうですか。ではこういったのがいいのではないですかね、少し腰周りが緩い形にしていますよ」


 カリカリ。笑みを絶やさない彼女の表情に頭の中でやはり先程と同じ疑問が生まれる。


「あの」

「はい。どうかしましたか」

「驚かないのですか」


 一瞬、きょとんとした顔をスーザンはしたがすぐにロボ子の事を言っていることに気づき、ほほほほ、と口元に手を当て笑う。


「そりゃ、驚きましたよ。こんな田舎街で人型のロボットなんて見たことなかったですからね」

「いえいえ、そうではなくて。私みたいな人間のようなロボットは怖くないのですか」

「怖いわけないですよ。ここに長く勤めていれば流石に色々な人と会いましたから。ロボットは初めてですけど、最近、都会の方ではロボットが新聞紙を配っているって言いますから」

「それは商業用だからです。あれには感情がないのです」


 不思議そうな顔をするスーザンに素直なロボ娘は疑問をぶつける。


「私には感情があるのですよ」

「そうらしいですね」

「ロボット三大原則というのをご存知ですか。その中に人間に危害を加えてはならない。人間に与えられた命令に服従しなければならないというのがあります」


 ロボ子は腕をめくる。鉄の腕。人の腕に似ているが、決して人ではない体の一部分。少し前まで奇異の視線を送られていた原因の一つ。

 人の心を持ち人ではないもの、遥か昔なら化物と呼ばれておかしくないような存在であるのだ。そんな存在に人間に服従させる為の三原則など不満でしかない。


「それを実行するためには感情などという心は邪魔であり、いつか反抗するのではないかと思うのではないのですか。だから、人は私をみて怖がるのではないでしょうか」


 だから、怖がられて当然であり、親しみをうけるのは間違っている。


「そうかしら」


 だが、目の前の店員は少しロボ子の全身をもう一度見たあと、納得したように一度頷く。そして、自信を込めたしっかりとした口調で答えた。


「うん、やっぱり、こんなふうに感情がある子は怖くないわよ。むしろ親しみがもてることだわ」

「……そうなのですか。こんな体ですよ」


 聞き返し、見上げるような視線でロボ子は尋ねる。だが、やはりいくら鉄に覆われた腕を見せたところでスーザンは動じることはなかった。


「いいじゃないの。いいじゃないの。秘密だけど私なんて、ほら」


 内緒よといいいながらスーザンは腕をまくる。袖口から現れたのはシワの寄ったゴワゴワした腕が現れた。


「最近また太っちゃてねぇ」


 肌荒れがひどく硬そうな腕をさする店員の肌はとてもじゃないが綺麗とは言い難いものであった。

 その腕をスーザンは一歩近寄ると見比べさせるように袖をめくったロボ子のそばに向ける。


「ほら、おばちゃんの腕に比べれば貴方の腕はすべすべしているじゃない」

「……鉄ですよ」

「丈夫そうよねー」

「……ボルトで止めているのですよ」

「あら、カッコイイじゃない」


 ロボ子は不思議に思う。

 

(まるで、自分の悩みがバカらしくなる。……ん。悩み。私は悩んでいたのか。じゃあ、間違っていたのは)


「だから、そんな風に卑屈になっちゃダメよ。まずは自分に自信を持たないといい服は選べませんよ」


 ニカッとした笑顔が広がった。


(間違った思考は私の方だったのか。ロボットなのにね)


 そして、そんな悩みも彼女の笑顔の前ではきれいに流されていくようであった。

 感情の回路の気分が上がっていく。これがテンションが上がったということなのだろう。


「じゃあ、ほかの服も見て回りましょうか」

「はい、よろしくお願いします!」


 自然と口から元気な声が出て、ロボ子は笑顔になっている自分に気づく。もはや沈んた気持ちは消え、かわりに目の前の店員に親しみを覚えていた。


「では、この夏の新作モデル等」

「あっ、そういうのはいいので落ち着いた感じでお願いします」


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