博士、恋愛してください。①
■博士■
数日前に知り合った女性、ミヤコから一本の連絡が来た。
その内容に了承をしながら、博士はタイミングが悪いなと小さくため息をつきそうになった。
とはいえ、内容自体は特に悪くなく、むしろ好ましいものであったのではある。
どうしたものか。とりあえず、と博士は不安げな気持ちで仕事を終わらせ、ひと段落したいつもの昼過ぎ。普段通り、ロボ子と作戦会議をしようと思うことにした。
「というわけで、明日、デートに誘われたわけだが……」
いつものラボ内にあるリビングで博士は対面に座るロボ子に語る。
「それは、おめでとうございます。やったじゃないですか」
「うむ、まぁ、そうなんだが」
誘われたことに対しては嬉しいことなのだが、今の博士にとっては不安がいっぱいであった。なぜなら、こうして女性から何かに誘われることなどなかったからである。
だから、一般的にどういったものなのか。またどういうことに気をつけなければいけないのか。まったくもって情報にかけていた。
博士としては独自にネットで調べてみたところ。出てくるのは都心部のデートコース。後は個人的意見が多々あったが、期日が明日なので統計などとっている暇などなかった。
「正直に言うと、どうしていいか分からない」
「なるほど、作戦会議開始ですね」
何故か嬉しそうに言うロボ子。少し乗り気なようでホッと一安心した博士はロボ子に訊ねた。
「そういうわけだ。というわけで基本的には向こうの誘いに対してのデートで気を付けなければいけないことはなんだと思う」
「ちなみにどういって誘われたので」
「何かイベントがあるから付き合って欲しいと連絡があったのだよ」
「イベント? ライブかなにかでしょうか。分かりました。少しお待ちください」
ガリガリとロボ子の思考回路が動く音がする。通常通り稼働したかのように見えたのだが、途中で力を失ったように回転する音が弱くなっていく。
最後には音が止まるあたりで、ロボ子は頭を下げた・
「すいません。良い案が……」
「……ふむ、そうか」
(ならば、自分で考えを出すことにしよう)
博士は思いついた案を言う。
「あえて男らしさを見せるため、相手のプランよりこちらのプランを提出し優先させるのはどうだろうか」
「いや、それは自分勝手でダメですよ」
「ふむ、個人的にお互い大人なのだから、深夜まで付き合おうと」
「やめたほうがいいです」
「ではイベント中、邪魔にならないように紳士的にひっそりと……」
「せっかく二人きりなのでもう少しアピールはしてください」
ふむ、良い案は出ないようだが、どうやら間違った考えは否定することはできるようだ。
しかし、これといったいい案は出てこない。そういえば、こういう時はよくフィーネが横から意見を言ってきたことを博士は思い出した。
ここ数日、毎日のようにラボに来ていたフィーネは今日は来ていない。痛みの薄れた額の腫れがズキリと博士に何かを訴えてきた気がした。
そして、ロボ子といえば何故か調子が悪い様子であり、まともな答えを期待できないでいた。
一応調べてみた結果、外郭や内部構造のパーツの不動作が原因ではないようであり、どうやら原因は脳の部分である感情回路などの心理的影響ではないかとは思ったが、原因がわからない。ロボ子に聞いてみても、よくわからないと困ったように答えるだけである。
「どうするか」
「どうしましょうか」
それから、博士とロボ子は互いに悩みながら、ああでもない、こうでもないと論争したのだが、結局良い案が浮かばない。
結局、とりあえず向こうが誘ってきたのでついていけばいいか。という安易な考えで落ち着くことになった。
そんな訳でコレといった案がないままデート当日となった。
麓に下りた町。待ち合わせ場所である、駅前にポツリと建った寂れた駐車場の近くにあるベンチに博士は一人座っていた。
端末で時間を確認する待ち合わせ時間の五分前、前回の彼女の行動パターンからすればそろそろ来るであろう。
大きく博士は背伸びをする。念のため三十分前から座っていたため固くなった背筋を解した。
正直にいえばこんなに早くから彼女を待っている時間など無意味であるのだが、今回はどうしても少し一人になって考えたいことがあった。
疑問は昨日のロボ子が上手く案を出せなかったことである。
この麓まで降りる時間もあり、十分に思考できた結果としてある程度ロボ子の調子が悪い理由の輪郭が見えてきた気がした。
恐らく、前回のあのロボ娘を好きだと言ってきた少年、ジョージをフッた過程で自分を改めて見つめ直したためではないか。それにより、自分がロボットであるとより強く自覚した為、ロボットの自分に人の心が分かるのだろうかと悩んでいるのであろうな。というところまでは予想できた。
しかし、ロボ子の問題点は分かったがどうすればその問題を解決できるのかという答えはまだ出てはいない。
どうすれないいのだろうか。確実な案は出てこなかった。
久しぶりにきっちりと整えた髪が落ち着かず、少しいじっていると誰かが近づいてくる気配がし振り向く。
「やっほー、フランケンさん」
あだ名を呼ばれ、視線を向けるとそこには二度目に会うことになる女性が立っていた。
「メガネ、直ってないのか」
「いやー、なんか気に入っちゃってね。せっかくだし着けたかったのよ」
目の前に立つ分厚いメガネ、きめ細かいさらりとした黒髪。スラックスのような黒いズボンに少し柄のはいったTシャツというラフな格好で黒髪の女性、ミヤコ・リライトは可笑しそうに笑う。
博士も同じようにカッターシャツにジーンズという格好をしており、デートにしてはラフ過ぎる格好なのではとロボ子にも行く前に言われたが、できれば、少し汗をかいても良い服装で来てくれと言われていたので今回は髪を整えるぐらいしかしていなかった。
「さて、じゃあ時間もないことだし行きましょう」
先導するミヤコ、その隣を追うように博士は立ち上がるとふと気になり、訊ねる。
「それで、どこに行くのだ」
「あら、そういえば言っていなかったわね。隣町よ」
「隣町か? そこでミヤコさん目当てのイベントがあるのか」
「そういうことよ。いやーこの手のイベントはこの国では珍しいのだけどね」
ミヤコは本当に楽しみにしているように語る。その表情を見ながらほう、そうか。と博士は相槌を打った。
(隣町のイベントか。イベント?)
「イベントって何だ?」
「ぐふふふ、それはついてくれば分かるわ」
何故か不気味な笑顔を浮かべるミヤコ、気のせいか何故か背筋が寒くなった。




