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博士と乙女ロボ  作者: uda
19/23

博士、告白されました。④

■博士■


 気が付けば窓際から見える木々などの景色は夕日の紅色に染められていた。

 マスク越しでも鼻を突き刺す、オイルなどの液体化学物の独特の刺激臭が部屋に充満している仕事場。

 冷蔵庫のような大きさの電子機械や、工具がいくつも並ぶ見慣れたラボ内で博士は黙々と一人作業をしていた。

 ボールの中に数種類混ぜられた少しドロリとした液体を博士は泡立て器で素早く混ぜ返す。下に敷いた氷を入れた受け皿がある為、ひんやりした液体が泡立て器によってさらに冷やされていく。それでも少ずつオイルが気発する為、左手の手に掛けられた急速冷却させるスプレーを混ぜる合間に度々かける。


 反響するオイルのかき混ぜられる軽快な音。博士しかいないラボ内はひどく静かであった。


(ロボ子は未だ帰ってきていない。しかし、聞いた予定から考えられる時間から考えればそろそろ帰ってきてもおかしくない筈である)


 だから、博士は多分疲れて帰ってくるであろうロボ子を少し労ってやろうと、こうしてロボ子用の食事であるオイルを作成している。


 まだ数ヶ月しか経っていないのだが、ある程度ロボ子の好みのオイルは判明している。

 作るものは温めより冷え切ったほうが好ましい、固形物になりかける一歩手前。まるでソフトクリームのような合成オイルが今のところ判明しているロボ子の一番好感がもてた物であった。


 何とか鈍い泥水のような白いソフトクリームのような物に変化し、後はもう数滴違う薬品を混ぜれば出来上がりだ。

 ラボの重たい扉が動く音がし博士は振り返る。


「やはり、こちらにおられたのですね」


 昼過ぎに出てきた時と変わらない私服姿のロボ子がラボ内に入ってくる。その表情はどことなく曇っており、疲れている様子であった。


「おかえり。ふむ。元気のない顔付きだぞ」

「そういう博士はおでこが赤く腫れているようですが」


 言われおでこに手を当て絆創膏の感触を確かめる。

 いきなり怒られ、物を投げつけらて出来た傷は最初は血が出ていたが、今は血は止まっているが傷は腫れており触れるとひどく塩水をかけられたような痛みがしみる。


「まぁ、そのなんだ。いろいろとあってな」

「そちらも、ですか」


 博士は言葉を濁し返答する。

 昼間にブチキレた少女の顔が頭に浮かぶ。嫌われたのかもしれない。孤独には慣れているので博士としては別に構わないのだが、何故かそのことをロボ子の前で正直に言う気にはなれないでいた。


 席に座るようにロボ子に促す。一日中外にいたのだ。立っているより座っていたほうがエネルギーの消費は抑えられ、ほぼ半日歩き回ったロボ子にはこうしたほうがいい筈である。と思ったからだ。

 ぺこりと頭を下げ近くの丸椅子に腰掛けるロボ子に博士は一言ボソリとつぶやく。


「どうだった」


 何が、とは言わなかった。だが、ロボ子は淡々と答えた。


「はい、帰り際に告白されたので正直な気持ちを答えました」

「やはり、無理だったか」

「はい」


 予想通りの結果に小さく胸をなでおろす。博士は最後に仕上げとなる細かく砕いた固形物を混ぜ合わせ、泡立て器を使い液状に溶かす。


「博士、やはり疑問に思うのですが、断る以外なかったのでしょうか」

「同情で付き合っちゃいけない」

「そう……ですよね」


 自分が言ったところであまりにも信頼性のない言葉であったが、それでも博士の言葉であったのか不満ながらもロボ子は納得してくれた。


「向こうは何と言っていた」

「貴方をロボットだとは思えませんといったところ、そんな理由で断れることに納得いかないと言っていましたね」

「そうか」

 

 固形物がおおかた溶かされたことを確認しながら、短く返事をすると泡立て器から手を離す。


「まぁ、お前もエネルギーを使っただろう。これでも飲んでエネルギーを回復しておけ」


 ボールの中身を銀色のタンブラーに移し替え、パフェでも食べるかのような長いスプーンを突き刺すとロボ子にサーブした。


 受け取り一口スプーンで口に含むとふぅと小さなため息のようなものを付いた。

 疲れているだけのような様子には少し思えないでいた。

 ふと、博士はなんとなしに訊ねた。


「正直に言うとロボ子はあいつをどう思う」

「まだ、何とも」


 小さく答えるロボ子。

 珍しい、な。と博士は思う。


(まだ……ね。まさか、いや)


「嫌いではないのか」

「確かに一方的に好意を寄せてこられるのは嫌ですけどね。それでも大切に扱う今日の様子はあまり嫌いにはなれないものがあります」


 そうか。短く返事を返しながら、博士はそのような感情を持ったロボ子に驚きを隠せず、半ば呆然するように答えた。


「まあ、お前が嫌でなく、相手によければ会ってあげればいいのではないか」


(大丈夫だ、大事にはならないはずだ)


 人が恋をしたりするのは子供を為すためのモノなのだから。子孫を残したいために人は恋愛をし結婚するのだ。博士は自分にそう言い聞かせた。

 博士の言葉にお礼を言うロボ子の声が耳を通り抜けていった。

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