博士、告白されました。③
■ロボ子■
どんよりとした曇り雲が空を覆っているが天気予報では雨は降らないらしいデート当日。
まるで私の心境のようですねと空模様に苦笑いを浮かべながら、ロボ子は今ならあの時のミヤコさんの気持ちが分からないではないですねと心の中で呟く。
以前博士が腰掛けていたであろう公園のベンチに座り、そろそろ待ち合わせ場所に来る筈の少年をロボ子は待っていた。
一応、ラボなどできる作業着ではなく、ワンピースとレギンスといった私服に着替えている。
上を見上げると曇雲は晴れる気配は一向にない。雨は降らないで欲しい。降ったら体の装甲やネジなどが錆びる恐れがあるからだ。
「あ、ああ、あの」
どもりながらも元気な声が聞こえる。視線を下ろせば顔を真っ赤にしながら待ち合わせの少年、ジョージがいつの間にか前に立っていた。
Tシャツにジーンズというシンプルな格好だが若く筋肉質の彼としてはむしろ良く似合っていた。
キチンとした会話などあまりした記憶のデータにはなかったのでロボ子は立ち上がると自己紹介を始める。
「こんにちは。ロボ子といいます」
「はい!こんにちは!じ、じぶん。ジョージって言います」
「ええ、よく知っていますよ」
「恐縮です」
まるで、何かを宣言するように声高らかに叫ぶジョージ。
(博士といた時に盗聴した会話内容ではこんな話し方ではなかったはずなのですけど)
カリカリと頭の中が回転し結論を導き出す。
顔を赤面しているところから思考すれば、どうやら緊張しているので上手く話すことができないのだろう。
「では、あまり時間もないようだし」
「そ、そうですね。じゃあ、案内しますよ」
博士から聞いた予定ではどこかで軽く食事したあと、軽く買い物にでも付き合って欲しいとのことである。
(……まぁ、どうなろうとも結果は変わらないのだが)
ため息が漏れそうになるのをこらえつつ、ロボ子はベンチから立ち上がった。
■博士■
ロボ子が出て行っているのでいつもより仕事の時間が掛かった博士はようやくひと段落したのでリビングに戻ると一息するため、コーヒーを入れることにした。
コーヒーメーカーを作動させ準備をしているとフィーネが遊びに来たのでリビングに通すと博士は椅子に座るフィーネにオレンジジュースを渡し、自分も入れたばかりのコーヒーを啜った。
「さて、どうなることやら」
フィーネはオレンジジュースを貰いお礼を行ったあと、勢いよく飲み干すと立ち上がる。
「そうね。じゃあさっさと行きましょう」
「その前に先程から気になっているのだがその格好はなんだね」
改めてフィーネの服装に目を通す。
いつものドレスのような服装ではなく以前ロボ子が尾行していたような長ズボンに地味なシャツ。髪型を変えキャップを被っている。まるで虫取り少年のような格好であった。
「何言っているのよ、キチンとした装備で尾行するものだってロボ子ちゃんも言っていたわよ」
「あいつめ。何を教えているのか」
何故か尾行することに対してノリノリなフィーネ。もし、癖になったようなら小学生を尾行癖にさせたという事になり、博士は少なからず目の前の少女の将来が心配になった。
博士は言いにくそうに頭を掻きながら語る。
「あのな、フィーよ。しっかりと準備しておいてなんだが私はいかんぞ」
「ええー、追いかけないの。なんでよ?」
不満そうな表情を浮かべるフィーネにきちんと説明しておいたほうがいいのかどうかしばらく博士は悩んだが、フィーネは未だ私の弟子になりたい。と望んでいるのでいい機会だ、知っておいたほうがいいと思い語ることにした。
「いや。正直に言えば見るに堪えないからだよ」
「どういうことよ」
「分からんのか。相手はロボットなのだぞ」
「でも、心はあるじゃない」
以前、ジョージという少年に話をした時と同じ反応を返す。やはり理解できているのはロボ子ぐらいなのか。
博士は仕方なしに一般人にも理解できるように説明する。
「あれは私が作ったのだ。だから、限りなく人間に近い感性を持たせているのだよ」
「それがどうしたの」
人間に近い感性。だが、それは彼女自身がロボットということを自覚させた上で作られた感性である事を忘れてはいけない。
「例をあげるなら。そうだな、一般的に機械を愛する人間はいないだろ。逆に、人間を愛する機械もいないはずだろ」
「けど、あの少年は」
「あいつが例外だとしてもだ。ロボ子も例外に入ると思うのか」
ロボ子も同じ考えをしていた。それは昨日確認済みであった。
(誰かに愛情を向けられるのはまぁ、悪い気はしないだろう。だが、自分と同族ではない物を異性として愛せと言われれば無理な話である)
「それは……」
答えられないフィーネに博士は淡々と語る。
「たしかに0ではない。だがな、愛情を与えればどんなものでも好きになるものではないはずだ。等というただのエゴイズムな考えを持つ夢見る少年にはロボ子と付き合うことなどできないだろうな」
「アンタはその事が分かっている癖に行かせたの」
「まるで私がそそのかしたみたいに聞こえるが、私は両方止めたのだぞ」
だが、ジョージは諦められず、深く知りたいと願い。ロボ子は自らその事を伝えようと決めたのだ。
もっとも、ロボ子に付き合えという命令なら、付き合うので、博士はそんなこと言う奴なら会わせはしなかった。
「けど、アイツは、あの少年が可哀想じゃない」
搾り出すようにか細くフィーネはロボ子に好意を寄せるジョージに同情する。その点については博士も否定することはできない。
「確かにな。しかし、彼だけが被害者だと思ってはいけないのだよ。異種的な生物から一方的に好意を寄せられ。求められていることもある意味被害者なのだよ」
もはや、目の前のフィーネは何も言わない。
博士は悲しそうに見つめるフィーネの内心などわからない。だから、自分の考えだけを、これからロボットの道を目指そうとする若き少女に叩きつけた。
「フィーよ。もし、君が私と同じ道を歩むのならロボットと人は違うものだ割り切りなさい。仲間にはなれるかもしれないが、恋人などという関係にはお互いなるはずないのだから」




