博士、デートに行ってください。④
■博士■
「えーそうなんですか」
「巨大な人型ロボットに乗り込むのなら、上下運動に耐えられず一般人なら普通に失神するレベルなのだよ」
ロボ子の作った目的の話から、いつの間にか人型巨大ロボットを作れるかという脱線した話になっていた。
「一昔前の金属加工とは違うから問題とされていた関節部分も作成できるだろうから。うむ、理論上は可能だよ。ただし、動かす動力などを考えると予算に莫大な大金が必要だろうがね」
話を一区切りし、コーヒーを飲み干す。少しぬるくなっているコーヒーではあったが少しは喉が潤った。
ふと、何かが気になった。
「けど、女性の心を勉強するためにロボ子というロボットを作るなんてすごいじゃない」
「え、ええ。それほどのものですよ」
曖昧に答えながら、ようやく博士は気がつき、思い出した。ロボ子は自分の話ばかりしてはダメだと言っていた。
そして、博士は先程から自分のことしか話していない。
マズイな。表情には出さないもののどうにか質問の一つでも今からでもするベきだろう。
悩んでいると端末が何かを着信する。ズボンから取り出し操作するとメールが届いている。開いてみるとロボ子からであった。
『博士。デート頑張っていますか。まさか、自分の話だけしているわけじゃないですよね』
(お前は私のオカンか!)
『さて、伝え忘れたのですが。もし、自分の話ばかりしてしまいしまったと後悔して話題を探しているのでしたら、相手は社会人ですので休日等何をしているか聞いてみてください。休日普段していることは趣味といっても差し支えないので、そこから相手の趣味を聞いていくスタイルで行ったほうが博士はいいと思いますよ』
最後に頑張れ博士、と語尾にハートの絵文字をつけて送られてきたメールに目を通すと素直になるほどと感心した。
グッドタイミングではないか。まるでどこから監視しているようじゃないか。まさか、そんなことない筈だ。博士は疑り深い考えをすて、お礼の返信を簡潔に返しておいた。
「もしかして、ロボ子って子からかしら」
「いや、明日の仕事の予定が変更になった連絡だった」
事前に決めておいた言い訳を言うと博士は多少無理やりな話の流れであったが、意を決してミヤコに訊ねた。
「そういえば」
「そういえば、博士は休みの日は何をしているのですか」
だが、訊ねるよりも早く対面に座るミヤコが同じことを訊ねて思わず怯んでしまった。
「あー主に調理にこっているかな」
「意外ね。最近は何をつくったのかしら」
「オイル燃料だったな」
「ああ、ロボット用の……」
「そちらは、ミヤコさんは休日何をしているのだい」
これは自然に言えたのではないだろうか。うん、上手く言えたはずだと安心する博士の背に突然ぞわり、寒気がした。
一瞬だが、目の前の少女が口箸を歪め悪魔のように笑ったように思えたのだ。
「……そうですねー。私は読書、かな」
見間違いであったかのように寒気がするような笑みは消え失せ、少し前と変わらない様子で都は答える。
気のせいであったか。
しかし読書か。店内のゆるやかなBGMに耳を傾けながら考える。おそらく本の読みすぎでそうなったようなぐるぐるメガネのお陰で彼女と読書はぴったりだと想像できた。
「主にどんなジャンルを……」
「はい、それは――」
少女は嬉しそうに語った。
「もちろんBLよー」
ビーエル? 聞いたことないジャンルであった。ブラックリストの略なのだろうか。
「すまない、ちょっと知らないジャンルだが詳しく教えてもらないだろうか」
「あら、知りたいの?」
「まぁ、ミヤコさんが気に入っているならきっと面白いジャンルだと思うぞ」
「分かったわ! 任せてちょうだい!」
大声を上げてミヤコは立ち上がる。分厚いメガネで表情は見えないが何故か狼のようにらんらんと輝いているのだと容易に想像できた。
ぐふふと地獄の底から聴こえてくるような不気味な笑い声が耳に聞こえる頃には、いきなりの豹変したミヤコに博士はぽかんと口を開けて見上げるしかなかった。
博士の様子におかまいなく、ミヤコは口を歪める。
「いいわー。なら、とことん教えてあげましょう」
そして、まくし立てるように、先程とは打って変わって暑く、指導者は演説するかのように身振り手振りを大げさに付け加えながら、博士の態度などお構いなしに話しだした。
「じゃあ、ホモ講座を始めましょうか」
「はい?」
そこから彼女のマシンガントークが炸裂し唖然とするなど博士は夢にも思わなかった。
■ロボ子■
「始まっちゃったかー」
苦笑いをしながら対面に座るフィーネにロボ子は訊ねる。
「どういうことですか」
「彼女腐っているのよ」
以前少女漫画でそういえばそんな発言もあったことを思い出す。それと今までの会話を考えれば。簡単に想像がついた。
「基本いいお姉ちゃんなんだけど。ああいう会話をすると歯止めがきかなくてね」
「まぁ、普通のじょせいではないのだろうな。と思っていましたけど……そういうことでしたか」
「そのせいで近所の男性からは引かれているのよね。それであの博士ならいけるんじゃないかと思ったのよ」
盗聴器から流れる一方的に話し始めたミヤコの様子を見る。まるで演説家のように激しく語るメガネの女性に博士は小さく笑みを浮かべ、相槌をうっていた。
「あら、意外と博士楽しそうじゃない」
「……」
ロボ子と同じように仕切りから顔を出し博士たちの様子を見るフィーネの感想にロボ子は何も答えなかった。
彼女は博士に対して男性同士のカップリングを言う。へたれ責め、さそい受け、強気受け等といったロボ子もよく分からない言葉を真剣に聞いた後、博士は男同士なら子供は産めないのではないかという反論に、妊娠する本もあると力説した。
「楽しんで会話を続けているようだし、意外といいペアじゃないの」
「……いえ」
だが、博士の様子を真剣に見つめていたロボ子は否定する。
「頬が若干いつもの笑みより引きつっているようです。それに何度も彼女から視線を外し遠くを見ているあたり、あれは完全にドン引きしているようですね」
「考えすぎじゃない」
「いえ、おそらくそろそろ博士がこの場からの離脱と私に連絡するため、打ち合わせ通りお手洗いに行くと思います」
盗聴器から聞こえる話はいつの間にか方向が変わり、じゃあ、男同士の子供を作るために博士はどうするかというところで、博士は手を挙げた。
『スマンがちょっと作戦タイムだ』
正直に値を上げる博士にヒラヒラとミヤコは手を振る。
『行ってらっしゃい。まだ話は終わってないから五分でねー』
『ああ、努力しよう』
少し疲れたようにいうと博士はフラフラとした足取りで奥の手洗い場に歩いて行った。
「私は慣れているけど博士には刺激が強かったみたいね」
「それは下半身の知られざる神秘などデート中にはキツイですよ」
「見た目はメガネを外せば綺麗で基本おしとやかな女性なのに本当にもったいないわよね」
「……そうですね」
言いながらロボ子の頭がカリカリと今までより少し大きな音を立て回転する。
頭の中での小さなエラー、疑問が浮かび上がりロボ子は考えながら口を開く。
「彼女、時折ああいうふうになるのですか」
「そうね、発作のように突然言い始めちゃうの」
少女が答えたところで端末が受信の振動を鳴らす。届いたのは博士が送った一通のメール。開くと一言だけ書かれていた。
――マジでやばい。




