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博士と乙女ロボ  作者: uda
13/23

博士、デートに行ってください。③

■博士■


(大丈夫だ。自分は大丈夫)


 そう自分自身を鼓舞するのは意外と効果があるのかもしれないと博士は内心思っていた。

 何ぶん初めてこのように女性と間食をとる。今までそんな事は必要ないと切り捨ていたので、緊張するかもしれないとこの喫茶店に入るまで心の中で大丈夫だと自身に言い聞かせていた。

 すると、何故か思ったより緊張もしておらず、店内のBGMに耳を傾け、こうして落ち着いてコーヒーを飲んでいる自分に気づき、改めてやはり私はすごいのだと博士は自分自身に感心した。


 苦味と心地よい香りを味わい、何もすることもないので頭の中でロボ子とは別の人型ロボットの作成について考えを巡らし始めた博士の前に人影が降りる。


「フランケン博士ですよね」


 声をかけられ、博士は静かに顔を上げる。

 目の前には一人の黒髪の女性が立っていた。

 クリーム色のブラウスに赤いチェックの入った膝丈までのスカートを着ていた。セミロングのこのあたりでは珍しい黒色の髪である。

 しかし、それよりも珍しいのは彼女の年齢より幼く見える顔にかけられた大きな瓶底メガネであった。

 清楚な服装がより一層際だたせる牛乳瓶のような分厚いレンズ。きっと目が悪いのだろう。


「待たせちゃいましたね」

「いや、そんな事はない」


 対峙するように席に着くと店員が水とおしぼりを持ってくる。

 アイスカフェオレを頼むとおしぼりで手を拭く。


「いやーごめんなさいね。今日コンタクトが壊れてこんなのしかないのですよ」

「やはり、目が悪いのか」

「そうなの。もー、子供の頃から読書が好きで気がついたらこんな事に」


 あはは……と照れくさそうに笑いながら、黒髪の少女はメガネを外す。丸底のメガネの下からは整った顔立ち、少したれ目で眠たそうに半開きの目が現れた。

 聞いていた通り、可愛いというより綺麗という印象である。


「だけど、ほら、メガネを外すとこれでも結構美少女になるでしょ」

「ふむ。そうだな。……そういえば自己紹介がまだだったな」


 だが、美少女かと言われても博士としては美少女という定義が分からないし、興味もなかったので適当に頷くとコロコロと笑う女性に自己紹介を始める。


「スミス・フランシュ。ロボット工学では引けを取らない自身がある。特に最近では人型ロボットを作った功績を持っている。少し年を取っているが、まぁ、そこは大目に見てくれ、本日は来てもらって大変嬉しいです」


 淡々と自己紹介を終えるとメガネをかけ直した女性は何かを言いたそうにジッと博士を見つめるが、クスリと今度は小さく笑った。


「……フランケンさんは聞いた通り面白い人ですね」

「そうか。私は面白い冗談などはできない真面目な性格なのだが、……まぁ、どうも周囲はそう誤認しているようだがね」

「あら、そうなの。じゃあ、私の番かしら」


 メガネの女性は手持ちのバッグを漁ると一枚の用紙を渡してくる。黙って受け取ると、それは名刺であった。


「はじめまして、隣町のIT関連の会社に勤めているミヤコ・リライトです。フランケンさんの噂はいとこのフィーちゃんからよく聞いています。一度お会いしたいと思っていました」

「ほう。では会ってみてどうだ」

「そうねー。もっとマッドサイエンティストみたいな人かと思ったかな」


 名刺には耳にしたことのある会社名が記されて電話番号と名前が書かれていた。ある程度教養のあるミヤコという女性はなかなか優秀な人物であるようだ。

 悪びれなく言うメガネの女性、ミヤコに博士は思い出したようにこの喫茶店のおすすめの話をする。


「何か食べないか。ここのサンドウィッチはおいしいらしいぞ」

「らしい?」

「そうだな、ここに来るまでに調べただけだからな」

「へー、わざわざ調べていたの。すごいわー」

「ははは、そう褒めるものではないよ。まぁ、事実ではあるがな」

「噂通りおもしろい人。けど、ちょっと今はダイエット中なのでパスで……」

「それは残念だ」


 当たり障りのない会話をお互いがしているとウエイトレスがアイスコーヒーをトレイに乗せ現れる。角張った氷と一緒に冷きったコーヒーの入ったトールグラスがツヤのあるテーブルにコトリと音を立てコースターと共にミヤコの前に置かれる。

 

「そういえば、フランケンさんはロボットの修理をやっているって聞いたんだけど」


 アイスコーヒーの中にそばに置かれたポッドから砂糖とガムシロップを加え、ストローで混ぜながらミヤコは博士に言う。


「ええ、まぁ、この田舎町でほそぼそとやっているのだがね」

「私はあまりロボットについては詳しくないの。だから、よかったら教えてくれないかな」

「いいだろう」

「本当ですかー。期待していますよ」

「ふむ。任せてくれたまえ」


 よろこんで笑みを浮かべるミヤコの前に博士は最近作った乙女心を持つロボットの話を始めた。



■ロボ子■


「何か怖いくらいスムーズに話が進んでいるわよね」

「そうですね。よく博士の話についていっています」


 盗聴器からの聞こえる声と離れた席で博士と現れたミヤコと名乗る分厚いメガネをかけた女性を観察しながらロボ子とフィーネは意見を言い合った。


「ミヤコお姉ちゃんなら博士の相手ぐらいつとまると思っていたのよね」

「確かに会話の内容からも彼女の社交性と明るい性格は良いものです」


 そのことについては認めるが、どうにも言っておきたい点に、帽子を脱いだ下から現れた栗色の髪を逆立てるような勢いでロボ子はまくし立てる。


「ですが、あのメガネはないと思いますよ!なんですかあれは、相手が博士だからといってなめているんですかね!絶対相手悪いと思ってないでしょ。そんな相手をいい人だなんて私は思えないです!!」

「あ、あの、ロボ子さん。落ち着いてください」


 感情回路が熱を帯び、気がつけば少し声が大きくなっていたロボ子をまぁ、まぁ、と苦笑いをしながらフィーネが手で制した。


「だって、おかしいじゃないですか。あそこまで清楚な服装をしているのに顔に掛けている瓶底メガネのせいで全てが地味というかおかしい印象になっているでしょ」

「仕方ないでしょう、いつものコンタクト壊れたって言っているし」

「それにしてもおしゃれなメガネや予備のコンタクトぐらい持っているでしょ」

「失礼します。サマーパフェのお客様は」

「はい、私。それ、私!!」


 現れたウエイトレスが持ってきたパフェが運ばれてくるとフィーネが元気よく手を挙げる。運ばれてきたマンゴー等の夏の果物を使ったパフェにフィーネは嬉しそうに頬をほころばせながら上に乗っかっている生クリームをすくい口に運ぶ。

 見ていて和む光景に怒りが落ち着いてくるロボ子の前には少し前にフィーネと共に注文したオレンジジュースが置かれているが手をつけた様子はない。


「飲まないの?」

「えぇ、飲んだら錆びちゃいますから、私は基本電気とオイルが主食ですので」


 誤魔化すようにストローで飲むはずのないジュースと氷を混ぜる。目の前で美味しそうにパフェを頬張る少女に私も帰って電気を供給したいなと思えてくる。

 だからといって目の前で喫茶店のコンセントから電気を供給しようとすればたちまち目立ち博士にバレてしまうので我慢しなければいけない。


(博士が空腹時に腹の音が鳴る機能を施していなくて本当に良かったです)


『ええ、感情というものだけでなく、人間に限りなくちかいポテンシャルに仕上げることで人とほぼ変わらない体験、経験を実感させて心というものを成長させるのだよ』


 盗聴器のスピーカーからはロボ子の事について博士は力説する。


「ロボ子ちゃん、顔、にやけているわよ」

「いや、そんな、えへへへ」


(嬉しいことは否定できないです。もう、私のことを言っちゃって恥ずかしいじゃないですか)


『最初の方は酷く人見知りでな。私が買い物に連れて行こうとしなければ引きこもりになるレベルだったのだよ。そりゃひどくてね。もう、本当に他人を見ただけで震えるわ、私なんてと自虐して大変だったのだ』


「へー」

「……こちらを見ないでくださいぃ」

「ロボ子ちゃん。顔真っ赤よ」

「うぅ……」


(これは違った意味で余計恥ずかしいじゃないですか。本人がいないからって人の昔話使わないでくださいよ)


 赤面し顔を両手で隠してしまう。

 しかし、止めるわけにもいかないので会話を聞かざるおえない。絶対笑われるとロボ子は覚悟した。


『本人が聞けば、赤面する内容であろうな』

『あら、かわいいじゃない。生まれたてはそんなものでしょ。そうやって一つ一つ成長することが育てるということじゃないのかしら』


 だが、ミヤコの返答は彼女を擁護する内容あった。


「すごく、いい人ですねメガネの人」

「びっくりの手のひら返しね、あんた」

「よく見ればあのメガネも可愛らしいですし、きっといい人ですよ」

「いい人ね……」


 パフェを大方食べ終え、残りのフレークとそこのチョコシロップを混ぜながら、フィーネはロボ子の言葉に含みのある言葉を返す。


「どうかしたので」

「いや、あ、あのね。紹介しておいて何だけど彼女も少し変わっているのよね」

「変わっている」

「……まぁ、でなければいいのだけどね」

「嫌な、フラグを立てないでください」


 気になることを口ごもらせながらフィーネは視線をこちらにジッと見つめる。いや、視線はどちらかといえば、ロボ子の手元に有るオレンジジュースを見ているようであった。

 何となく察したので、そっと、ジュースを少女の方に寄せる。


「良かったら、飲みますか」

「し、仕方ないわね。レディーは断らないものだし」


 素直になれず、しかし、喜びを隠しきれないフィーネを可愛らしいですと感情が訴え、ロボ子は気が付くとオレンジジュースを渡した少女の頭を撫でていた。

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