博士、デートに行ってください。①
■博士■
窓から快晴の空がみえる昼過ぎ、博士は以前買ったシャツにネクタイ、小麦色のスラックスに高級そうな革靴、研究者というよりサラリーマンと思えるような服装をし、ワックスで髪を整え終えた。
「いい天気だな」
「ニュースでは、降水確率はないみたいです」
「なるほど、絶好のデート日和ということか」
そうなのだ。本日は以前紹介するとフィーネが言った彼女の従姉妹と会う日であった。
「どうだ。ロボ子顔色は大丈夫そうか」
「はい、健康そのものです」
以前のように目元にクマや疲れきった顔を博士はしていなかった。
前回倒れたことを反省し、また、フィーネの方からそんな疲れきった顔色じゃ会わせない。といわれたこともあった為、改めて、自身の健康管理、食生活などの生活習慣をロボ子とともに見つめ直し改善したのである。
なので、ここ最近は顔色も良く、今日も体調はバッチリという感じだ。
「さて、ロボ子。そろそろ出発しなければいけないが、最後に打ち合わせをしておこう」
「はい、了解です」
カリカリと頭を鳴らしロボ子は答え、二人はリビングの席に着く。
そしてフィーネから向こうの都合が取れたとの連絡があってから、ここ数日、ロボ子と共に仕事の合間をぬって考えたプランの打ち合わせが始まる。
「全体の予定は、喫茶店の店内で待ち合わせの後、軽く談笑。相手の都合に合わせ、大丈夫のようなら夕食を一緒に食べて、帰りは相手の態度に合わせて家までか、途中まで送ってあげる」
「相手はこの街に住んではいないようですので、送るなら駅までになるでしょう」
新たにフィーネから聞いた情報をまとめロボ子は告げ足す。なるほど、相手はこの街の人ではなかったのか。
会うまで少しぐらい連絡などしたほうがいいらしいのだが、別段会えばどんな人物かわかるので必要ないだろうと言う博士の考えのため、仕方なくロボ子がフィーネから相手の情報を聞き出している事になっていた。
「一応、博士は知らないことになっていますので、送る際は家の方向などを聞くなど軽く声をかけてあげてくださいね」
「うむ、分かった」
「フィーさんの話だと、相手は待ち合わせの喫茶店に入ったことはないようです。店のおすすめなどは大丈夫ですか」
「ああ、ここにレポートにしてまとめあげている」
言われ、そばに置いたバッグの中からまとめられた資料をロボ子の前に出した。流石に材料までは書けなかったが、店のメニューを他店と比べたコスト表と店内のおすすめ料理の内容と記憶し描いた絵。中に含まれている材料などが書かれた十枚程のレポート用紙。
説明しなくても、あとはこれを見せ読ませればいいだけだ。
「うわー、店の人が見たら訴えられるほど、すごいまとめていますね」
「だろ、まぁ、私にかかればこれくらい…」
「はい、没収でーす」
「ちょ、おい、何故だ」
慈愛などないように一生懸命書いたレポートをロボ子は奪い取った。取り返そうとするとロボ子は片手を腰に手を当て、最近覚えた説教モードになる。
どうやら、以前倒れたことの反省から博士が間違いを起こしそうな場合はキチンと注意するようになったそうだ。
(……ほんと、成長したようなー。いや、もしかして、フィーの影響かも知れない)
「いいですか、博士。これはやりすぎです。大体で説明すればいいので、こんなことされたらドン引きですよ」
「そ、そうか」
言い詰められた迫力に気圧され、頷くしかない。せっかく調べたのだがなー。
仕方なく、夕食のレストランの情報をまとめたレポートもカバンから取り出すとロボ子に渡した。
「博士。最後に大切なことがあります」
真剣な顔でロボ子は言う。
「何かね」
「こういう初対面の女性と会った時ですけど、自分の話をしないでください」
「では、何を聞けばいいのだ」
「相手の話を聞いてあげるのです。自分のことばかり話すのではなく相手の意見や情報を聞くように促してあげるのが妥当なので。後は、ベタですが何かあれば褒めてあげてください、褒められて嬉しくない女性はいないとのことです」
言いながらテーブルの手元に置かれている雑誌をロボ子は開くと付箋をしている項目を指さした。その本は最近ロボ子が研究用に購入した情報誌。
開かれたページにはでかでかと「ほめろ!!とにかく、ほめちぎれば!!今年の夏はウハウハ!!」と頭の悪いような見出しが印刷されていた。
少し信憑性に欠けるようなタイトルだがロボ子が言うならまぁ、間違いないのだろう。
「ふむ。気に掛けておくことにするよ」
「はい、博士。頑張ってくださいね。後、いくつか彼女についての情報を教えておきますよ」
いや、もうすぐ会うので別にいいのではないかと博士は断ろうとしたが、半ば無理やり、独り言のように伝えた。
「フィーさんから聞いた情報では、性格は明るく賑やか。見た目は可愛いというより美人な人。とは言っても同性の情報は異性の見解とは若干違うらしいので深く考えないでください」
そんなに曖昧なら聞かなくても良かったのではと博士は思ったが、少し誇らしげに語るロボ子の姿を見て、おそらくせっかく調べたので言いたかったのだろうなと思った。
「一体どんな人物なのでしょうね」
「子供が産める体なら大抵のことは目をつぶるぞ」
「頼みますから、そういう発言を今日は言わないでくださいよ!」
なにかおかしなことを言ったのだろうかと不思議に思う博士にロボ子は懇願するように言われ、驚きながら「分かった、分かった」と博士は言うのであった。
■ロボ子■
早めに待ち合わせ場所についておきましょうと言い、博士とともにロボ子は玄関に行くと、目の前で玄関が勝手に開かれた。
「やっほー、博士、準備はいいかしら」
いつも通りノックもなしに扉を開け、博士の助手志望と名乗るフィーネ・レイディが姿を現す。
最近話すことが多くなったフィーネは高級そうな布地を使用した青いサマードレスという普段通りの服装をしており、ロボ子は彼女に微笑み挨拶する。
「いらっしゃい、フィーさん。ちょうど今から出発するところです」
「ふーん」
フィーはロボ子のとなりで靴を履いている博士の姿をジロジロと見る。
「まぁ、顔色もいいし、服装も合格ってところね」
「お前は私の母親か」
言い返す博士の言葉にクスリと笑ってしまうロボ子に博士は連絡用の端末を渡した。
「では、何かあればそれで連絡する」
「はい、気をつけて行ってきてください。あ、後、頑張ってください」
「任せたまえ」
博士の計画ではロボ子は自宅に残り、博士が行き詰った際に掛けてくる連絡の受け答えをする段取りになっている。
博士は玄関の扉に手をかける。だが、以前としてスリッパを履いているロボ子を不思議に思ったのかフィーネは訊ねる。
「あれ、ロボ子ちゃんもいかないの」
「私の仕事はあくまで女心を理解し、博士の結婚までのフォローをすることですから。博士本人の実力も必要ですので……」
後、博士自身、相手が一人で来るのでこちらもひとりで行くのが道理だろうと言っていたが、それは恐らくデートしている姿を見られるのが恥ずかしかったのかもしれない疑いがあったため真偽は定かではない。
ロボ子の言葉に不安そうにフィーネは博士を見上げた。
「えっ、あんただけで大丈夫なの」
「そう心配するな」
心配されていると思ったのか、ニコリと笑うと博士はフィーネの頭をくしゃりと撫でた。
「任せておきたまえ」
「どこから来るのよ、その自信はー」
「天才だからな。……二人とも今日のために色々とありがとう。では、行ってくる」
(あの、博士が、素直にお礼を言うなんて……)
二人とも同じことを思ったのか驚いている間に博士は玄関の扉を開けて家から出ていった。




