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博士と乙女ロボ  作者: uda
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博士。おはようございます。

■博士■


 昼か、夜なのかもわからないカーテンで覆われた広い部屋。

 電動ドリルにネジ、義手や義足、他にも奇妙な部品が棚やデスクに整然と立ち並ぶラボの奥、部屋の主であるフランシュ博士は心を躍らせていた。

 薄汚れた白衣、ヨレヨレのシャツにボサボサの髪、ここ数日ろくに寝ていないのか無精ひげとひどいクマであるが、その目はらんらんと輝きを放ったいるようだ。


「フ、フフフフ、これで完成だ」


 自然と笑い声が口から漏れていることなど気にもせず正面のカプセルを見上げる。

 何本もの太いコードに繋がれたガラス張りの巨大な円柱状の水槽。人一人程度なら直立させれば楽々にはいるカプセルの中には緑色の液体が満タンに入れられ中の様子など確認できなかった。


 博士は笑みを浮かべると右手の巨大なレバーを両手で掴む。あとはこれを下げるだけであった。


「さあ!」


 普段は口数が少なく冷静な博士であったが叫ばずにはいられなかった。


「目覚めよ、ロボ子!」


 右手のレバーを思いっきり下げる。小さな地響きとともに目の前でカプセル内の緑の液体が中に繋がれたパイプから流れ出ていき、中から一人の眠るように穏やかに目を閉じた少女の顔が現れた。

 徐々に下へと流れていく液体が、奇妙なフルフェイス型のヘッドギア、水を弾くような水々しい肌をした少女の鎖骨が徐々に現れ、さらに下もあらわにさせる。

 

 瞬間、彼女が人ではない事実がさらけ出される。


 鎖骨から下からは人肌は一切ない。

 代わりにあるのはプレートのような光に反射する鉄の肌。関節やプレートのつなぎ目には大きなねじやボルトが埋め込まれ、へその部分にはコンセントでも指すかのような穴が空いている。


 カプセル内の緑の液体は全て流れ落ち、鎖骨から下はマネキンのような無機質な鉄の塊でできた肌の少女だけが残る。


「ハイスイカンリョウ。ジンゾウニンゲン起動開始」


 電子音が響き、ゆっくりと空気が抜けるような音とともにカプセルが縦半分に開く。

 同時に呼吸するような動作なども先程まで一切なかった少女が動き、頭に付けられたヘッドギアを外し、滝が落ちるように栗色の長髪が垂れ下がった。

 そして、彼女の頭のあたりでカリカリと何かを書き込むような音が響く。


 整った顔立ちの少女はぱっちりとした目を見開き周囲をキョロキョロとした後、正面に立つ博士の姿を確認し小さく笑みを浮かべた。


「博士、おはようございます」

「うむ、おはよう。ロボ子」


 問題なく動き、人語を話すことができるロボット。正確にはヒューマノイドロボットの起動は成功したようだ。と博士は冷静に相手を観察する。


「博士、ロボ子とは何ですか」

「今日から君の名前、いや呼称とよばれる言葉だよ」

「ロボ子……」


 呟くロボ子の頭が再びカリカリと音を鳴らす。


「はい、覚えました。ありがとうございます」


 表情の動作も正常に動き、笑顔でロボ子は頭を下げた。。


 博士はカプセルから出るロボ子にこちらに来るように言いそばに置いてあったタオルを二枚取り一方はロボ子に渡し体を拭かせた。そして、ある程度拭き終わったロボ子に手近な椅子に座るように促すともう一方のタオルとそばのコンセントに差したドライヤーの髪を拭いてあげることにする。


「よし、ロボ子」

「んーなんですか。博士」


 感覚が正常に動いているか確かめながら、うまい具合にドライヤーを扱う博士。心地よい風に吹かされロボ子は気持ちよさそうに返事をする。


「早速で悪いが起動するまでの間につけた学習装置等の思考回路はうまく作動しているか簡単な質問をさせてくれ」

「はい、いいですよ」

 

 そして、ロボ子の長い髪をわしゃわしゃとタオルで拭きながら博士は質問した。


「まず、ここがどこか分かるか」

「博士の家のラボです」

「正解だ。では私の年齢と職業」

「三十歳、職業はロボット修理士です」

「うむ、また正解。ではロボット三原則について答えよ」

「第一にロボットは人間に危害を加えてはならない。第二にロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。第三に第一、第二に反しない限り自己を守らなければならない……でいいですか」

「また、正解だ。えらいぞロボ子」


 同時にタオルで拭き終わった少し湿った髪の上に手を置き撫でてあげる。無骨な手で少し乱暴に撫でられたがロボ子は嬉しいのか、えへへへという声を漏らした。


「では、これは読めるかな」


 一枚のプリントを机の上に置き、その後にドライヤーと持ってきたクシをつかい少女の髪をとかす。


「えーと」


 首を動かしまじまじとプリントをロボ子見るとそこには大きな文字でスペルが書かれていた。ロボ子は迷いもせずに背後で頭を乾かしてくれる博士に答えを言った。


「これはペンですか」

「よし正解だ」


 その後もドライヤーの音が鳴り終わるまで博士はロボ子に中学生レベルの基礎問題やロボット工学、自身の情報など起動する前に記憶させた事を質問していき、ロボ子はその問を間違うことなく全て答える。


「うむ、またまた正解だ。では最後に質問をしよう」


 ドライヤーのスイッチを切る。乾いたロボ子の髪は博士の予定通りふんわりとした見た目になっていた。


「最後の質問ですか」

「そうだが、この問題には正解はないぞ」

「じゃあ、何を答えれば」

「安心しなさい。ある一枚の絵を見て君に埋め込んだ感情回路がどう思ったか素直に答えてくれればいいのだ」


 感情回路。その名のとおり人間のような感情をアドレナリンなどの代わりに電気信号や薬品等による化学反応によってロボットでも感情を表現できるようにした一般のロボットにはない機能。

 そして、それを自作した博士はその感情回路とは別に学習装置を埋め込み、彼女の感情を起動してからより人間らしくなれるようにした。さらに、起動するまでの間に年相応の表現をできるように精神年齢を体に合わせるように計画していたのであった。


「そういうことですか。分かりました、大丈夫です」

「意気込みがあって大変よろしい。では、先ほど置いたプリントを裏返してみてくれ」

「はい、博士」


 少女は言われるままにさきほど目の前の机の上に置かれたプリントを裏返す。


「……え」


 瞬間、彼女の動きはピタリを止まり、頬が固まる。


 裏返されたプリント。そこにはベッドの上で誘うように手招きする全裸の男の姿。……要すにしとても扇情的な画像であった。


「どうした。率直な感想を言ってくれ」

「ひゃ、あ……うぁ……」

「ロボ子。お前なら答えれる筈だ!」


 ロボ子は顔を真っ赤にし、口をパクパクさせる。

 しばらくした後、ほぼ鉄の腕をプルプルと震わせながらゆっくりとプリントの摘み、プリントをもう一度裏返す。


 そして、鉄の胸に手を当て一度深呼吸したあと、頬の紅味が落ちないまま口をようやく開いた。


「その、えーと驚きました……あと、すごく、え、え、エロでした」


 答えるロボ子の声は震え、俯かせながらも何とか感想を言ってくれる。だが、博士としてはもう少し詳しく聞いておかなければいけないことがあるので質問は続けなければいけなかった。


「つまり興奮したということか」

「え、いや、それはその、ですね……はい」


 最後は消え入るような声でありながらもロボ子は答えた。

 そして、ロボ子の様子と答えを聞き、博士の口端がゆっくりとつり上がる。


「ロボ子」

「は、はい?」

「よくやった」

「え……どういうことですか」


 訊ねるロボ子の声に答えず、博士は大きな声で笑いだした。


「ふ、ふふふ、ふはははははははは」

「は、博士」


 突如、誇らしげに笑う博士に未だ顔の赤みが引かないロボ子は振り返る。そこには嬉しさのあまり今にも飛び跳ねそうな博士が両手でガッツポーズをしているという奇妙な光景が広がっていた。


「さすが、さすがわたし!これで野望にまた一歩近づいた!」


 インターネットで「女の子が興奮する」で選んだ画像に、想像通りの感想を口にしたロボ子に博士は研究がうまくいったと感動し大きく叫んだ。


「ついに、ついに、ワタシは女心を持ったロボットを作ることに成功したのだぁああ!」


 博士の心の底からの叫び声がラボ内に響き渡り、対面のロボ子は不思議そうにみあげるしかなかった。

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