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始まり

真エンド版です。後々バットエンドも載せて行こうと思います。

拙い文章ですが、ご指摘、ご感想があれば、幸いです。

時刻は午後五時。

夕日がゆっくりと、黄金色の光を帯びながら沈んでいく。もう十月だ。

この逆上高校の校庭には部活に励むエネルギリッシュな生徒たちの声で賑わっている。

しかし対照的に、その声に音楽室の窓を開けて静かに耳を傾ける一人の生徒がいた。

名前は露木京介。この学校の二年生だ。

彼は音楽室の椅子に座り、窓から流れて来る風を感じながら、歓声やホイッスルの音を静かに聞いている。

音楽室は、ほぼ無音。まるでBGMを聞いているようで、彼の顔には満足げな笑みも浮かんでいた。

しかし、静寂は突如断ち切られる。

「お~い、露木。練習やってっか?」

陽気な声を上げて入って来たのは、露木の学友の須藤亮だ。

彼は音楽室をさっと見渡すと、露木に呆れたような顔を向ける。

「また一人か。今年は勧誘でもするんじゃないかな、と思った俺は馬鹿だったのか?」

露木は静寂に任せて閉じていた目を渋々開き、須藤を睨むように見つめる。

自分のゆったりとした時間をぶち壊した須藤を非難している様な目つきだ。

須藤もそれを察し、

「悪かったな。休憩中だったか?」

申し訳なさそうに問いかけた。

「いや、いいよ。もう帰ろうかと思っていたところだったから」

露木はそう言って、持っていたギターをケースにしまい込む。

「でも音楽部はお前しかいないもんな~。学祭も無理なんじゃないか?」

支度をする露木の手が止まった。

「まあ、露木。君がやりたいって言ってメンバーを誘ったのは分かるよ。でもよ、まさかあんな短期間で辞めるなんて……。あいつ等にも手が焼かれたよな~」

須藤が言っているのは半年前の出来事だ。

春、新メンバーが二人ほど入って来た。二人とも経験者だったので、露木は今年は学祭で演奏を披露出来ると思っていた。だが彼らは突然辞めた。

「元々、あいつらにやる気なんてものは垣間見えなかったんだよ。でもお前が熱心に指導したから辞めたって聞いたぜ?こうなったのもお前のせいだとは言わない。でも、ここからどうするかは、お前次第だぞ?」

須藤は冷静にそう告げる。彼らの辞めた理由に露木が大きく関与している。そんな事は須藤だけでなく、誰が見ても分かっていた。露木はつい指導に熱が入っていた。その結果、部員たちは冷めて退部していった。熱血指導の裏目という奴だ。露木は黙ってケースを見続ける。

「じゃあ頑張ってな」

須藤はそう言って立ち去ろうとした時、

「待て」

露木は咄嗟に須藤を呼び止めた。須藤は少しニヤつき、それを露木にバレないように隠し、真顔で振り返った。風が強く吹き込み、緑色のカーテンを揺らした。

「須藤、俺、音楽部の部長としてお前に頼みたいことがある」

突然の発言に須藤は心の中でガッツポーズをする。

――いいぞ、その調子だ

「何だよ」

須藤はわざとらしく、ぶっきらぼうに返す。

露木は九十度腰を曲げて、

「俺と、バンドを組んでくれないか?」

そう言って頭を下げて来た。

「やっと、その気になってくれたか……」

「え?」

「いや、わざとお前が気にしている事を言って悪かったと思っている。でも、お前には最後の文化祭で演奏して貰おうと思っていた。一時は大丈夫かと思ったけど、まさか俺を誘うとはな。アッハハハハハ!」

須藤は突然そう言って笑い出した。露木は須藤の態度に困惑せざるを得ない。急に笑い出した意味も、露木には分からなかったからだ。

やがて、ひとしきり須藤が笑い止むと、露木に向き直った。

「いいよ。やってやるよ!」

須藤ははっきりと露木に宣言した。

「ありがとう。須藤」

露木も嬉しそうに答える。

「で、どうやってバンドを組む?俺達二人じゃ流石に無理だ」

露木の答えに期待しつつ、聞いてみた。

「それは……経験者を集めようかと思っているんだけど……」

「メンバーは?」

「……」

考えていないらしい。露木は俯いて黙り込んでしまった。

須藤はやれやれと言った様子で、彼にある情報を教えた。

「実は、俺達の所属する二年F組には、ボーカルのプロとキーボードのプロがいる」

「え!?誰?」

「それは、坂下千歳と森村夏子だ!」

須藤は人差し指を露木に向ける。

「ええっ!?うちのクラスに?嘘だ!」

「嘘だと思うなら確かめてみる事だな。そしてこれは音楽部の文化祭参加に必須事項だ。この二人の協力なしでは、演奏はできないぞ」

露木は固唾を吞んだ。バンドは最低でも四人はいた方がよい。他の音源は機械で何とかなるにしても、体裁上それぐらいの人数がいた方が絵面も映え、二人の技術を上手くアピール出来たら、ステージも盛り上がる。須藤の痛いくらいの鋭い視線が、文化祭に対する彼の覚悟を雄弁に物語っていた。

「つまり、その二人を勧誘することが必須。という事か」

「そうだ。明日、彼女たちを勧誘する。もちろんお前一人でだ」

「お前も一緒に……!」

「これは部長の仕事だ!逃げるな!」

露木は何も言い返せない。部長がなんとかしなければいけない。これは音楽部の問題だからだ。

「―――わかった。俺が彼女たちを説得する」

「その意気だ。頼んだぜ」

須藤はそう言い残して立ち去った。音楽室は再び静寂に戻る。窓の外を見ると、夕日はとっくに沈み、夜の帳が空を覆い始めていた。

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