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死神のラプソディ  作者: 平原志恩
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予兆

初めまして。


初めての投稿になりますので、読みにくい表現や箇所など多々あるかと思いますが、読んでいただけたら嬉しいです。


どうぞ宜しくお願いします。

 汗をかいているようで、服が肌に張り付く不快さに目を覚ました。枕元の時計に見をやると、まだ五時にもなっていない。


 ――何だか嫌な夢を見た気がする……。


 頭の中に霞がかかったようでよく思い出せないけれども、最近何だかスッキリしない目覚めが多い。この街に越して来てから、そのような夢を見ることが多くなっていた。


 ふと、つい最近入居した、このマンションの外観を思い浮かべる。とても綺麗で瀟洒なこのマンション。悪い噂も聞かないし、勿論アレが出たこともない。

 アレというのは、主に透けて見えたりだとか、足がないなどと定説があるアレのことで、出たこともないと言い切るには、勿論根拠がある。

 そう、塞上深月さいがみみづきは、幽霊を視ることが出来た。

 だが、幽霊だけではない。深月は、生者であっても、死期が近いものを区別することが出来た。

 死期が近付くと、まず左手の薬指に黒い紐が結ばれる。初めはまだ、ただの黒い指輪みたいな物なのだが、死期が迫るに連れて、紐は天に向かって伸びていく。誰が結びに来るのか、とか、伸びた紐は誰が回収するのか、とか、なぜ薬指なのか、等ということは幾度となく考えたが、答えをくれる誰かとは未だに遭遇していない。ただ何となく、死神のような魂を狩る何者かがいて、そういった者が目印にしてるのではないか、と深月は自分の中で勝手に想像していた。


 この能力のことを知っているのは、深月を除けば、深月の母の弟である蒼介そうすけ以外にはいない。同じ能力を持つ者にもまだ出会ったことはないので、この能力については、便宜上“死神の目”と呼ぶことにしていた。


 深月の両親は、彼女がまだ幼かった頃、交通事故により他界している。

 その後、母の弟である蒼介に引き取られ、無事高校生になった現在まで、育ててもらっている。寂しくなかったと言ったら嘘になるが、補って余りある愛情を注いでもらったと思っているので、とても感謝していた。

 自分というこぶのせいで、一生……かどうかはまだ分からないけれども、独身貴族になってしまった蒼介には、ほんの少し申し訳ないと思っている。


 そんな蒼介は、深月が小さい頃から、能力については、絶対に誰にも知られるな、悟られるな、と口を酸っぱくして言ってきた。最初は何故そんなにと思っていた深月も、小学生の頃に、身をもって体験することとなる。

 遊びに行った友達の家の母親の指から、黒い紐が出ていたのだ。

 その時の深月は、友達のお母さんに死んでほしくない! という全くの善意で、死期が迫りつつあることを、そしてそれを何とか回避する手立てはないのかということを告げたのだが、最初は縁起でもないと眉を潜められ、本当に亡くなった時には、まるで深月が殺したかのような罵りを受けた。

 結果的にその学校は転校することとなり、深月は噂の届かない遠くへと引っ越した。その時も蒼介は、少し寂しそうに、他言無用だよ、と念押しした。


 それからと言うもの、深月はその出来事を教訓に、しっかりと蒼介の言いつけを守り、それ以降はこれと言って大きなトラブルもなく順調に過ごしてきた。

 その後も引越しは何度かしたが、それは単に蒼介が引越し好きなんだろう、と深月は考えている。

 世間は、自分の理解を越える他人を受け入れるほど優しくはない。頭がおかしいのではないか、と奇異の目で見られるのがオチだ。ならば平穏に暮らしていく為にも、能力について知られてはいけない。

 それが深月の出した結論だった。

 それに、この能力については、決定的な欠点があった。命と繋がっているであろう紐を視ることは出来るが、一目視ただけでは、何が直接の死因になるのかまでは分からないのだ。紐の長さから、ある程度の死期は予測出来るものの、病気で死ぬのか、はたまた交通事故のような不慮や不可抗力が原因で死ぬのかまでは分からない。つまり、知ったところで、救う手立てが無い者も多い、ということなのである。

 紐をつけた人に手当たり次第声をかけるというのも、それこそおかしな人間だと噂が立つ羽目になるというものだろう。

 そんな訳で、見えるだけで何も出来ない、という歯痒さはつきまとうものの、この能力を知られた時の周囲からの非難や奇異の目が恐ろしく、結局は口を閉ざして生きてきた。


 何のために、この能力を授かったのだろうか……。

 答えが見つかる日は来るのだろうか……。


 それは十六年生きてきた深月が、今までに幾度となく考えたことだった。

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