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4-5

 


「ショーンは、何か、手の届かない願いがあった場合、どうしますか?」


 唐突とも思える問いの後、何拍かの間が非常に長く感じられる。つぐみはゆっくりと瞬きをし、その質問に何の意味があるのかを聞くこともなく、にこやかに答えた。

「…うーん、神様にお祈りしますよ?お願い事が、どうか上手く行きますように、って。でも、私達が今までいたところには神様はいるかいないかわかんないような存在だったんですけどねー」

「……そう、ですか…」

「ちょっとつぐみさん?誤解招くような言い方しちゃ駄目でしょ?」

「誤解?するかな?」

 ことりと首をかしげたつぐみは本当に不思議そうだ。だが、これに惑わされてはいけないとグゥエンは気を引き締める。突拍子も無いほどに前触れなく出された質問に戸惑うこともなく答えたことといい、あっけらかんとした感じの軽そうな答えといい、つぐみが見かけどおりの女性であるならそうおかしいものではない。

 ただし、あきらが指摘したように、今までの彼女の受け答えからすると微妙に違和感を生じさせる返答ではあるのだ。レツィーが何を思って場違いとも思われる質問をしたのかは、目を覗き込んだ時点で確信した。要するにこの男、つぐみの性格をもっと知りたいのだ。


 どういう場合に、どういう思考回路をたどり結論を出すのか。


 彼女は先行実験の結果、この国に滞在することになった人だ。もし自分たちとの間に大きな常識上の齟齬がなければ、しばらくの間は…そう、年単位でしばらくの間はこの国で暮らしてくれるだろう。

 その間に、どうしてももっとつぐみたちのことが知りたい。異世界のことが、と言い換えてもいい。先ほどの受け答えの中にあった、つぐみのいた世界では神がいないということが、その端的な例だ。

 魔王が召喚術を使えなくしたというのなら、彼にはそれ相応に魔術についての知識があるのだと推測できる。それでなくともつぐみの見せた魔術にディーば興味津々だ。

 しかし彼女たちの魔力のすごさと思考の飛び方から言えば、どこが彼女たちの気に障るかはわからないのだ。


 だから、レツィーはつぐみの性格がわかるであろう質問を投げかけた。


 ぐるりと高速で思考を回転させて、グゥエンはつぐみをじっと見やる。

 神がいないという発言にも驚いたが、親切にもつぐみの伴侶であるあきらが何かを自分たちに解説してくれる気らしいのも十分に驚きだ。

「そう。…あのね宰相さん。つぐみさんはもしも手の届かないお願い事があったとして」

「…あったとして、から既に仮定なのですか」

「まず、手が精一杯届くとこまで伝手をたどるね。それから同時に、そのお願い事にどれだけ自分の手が足りないのか見極めて、届きそうな相手へアプローチを開始する。具体的に例を出すなら、たとえば暗殺なら、ありとあらゆる手を使ってそっちっぽい機関へ依頼する方法を探すわけだ。その手の重要案件は決めるまでが長いから、やるって覚悟してからも平気で長期期間で計画を立てるわけ。まぁまず年単位だろうが諦めないからね?そうして、方法がわかったら慎重に他人経由と自分で約束を取り付けられるよう何重かの別ルートで動く。脅しとかお金とか、えげつない手も当然、遠慮なく取ってくる」

「…いや、あきらさん。アンタの中の私はいったい、どういう人なんだよ」

「でも外れてない、でしょ?で、首尾よく暗殺の手はずが整ったら今度は」

「…まだ続くのですか?」

「あったり前でしょ、陛下。次は自力での実行に移ります。どんな手を使ってでも直接的なり間接的なりに狙ってるターゲットに近づくんじゃないかな。暗殺なら、そうだな…パーティーに呼び出すとか、その人の周りで小競り合いを起こすとか、とにかく日常生活から油断させる。んで、自分で切りかかる、か、成功する割合が高い人をけしかけるね。暗殺依頼と同時にね。……そこまでしてそれから先を、神様にお祈りするんだ。9割9部まで事態を追い詰めて、ある程度、どんな問題が来ても大丈夫なように対応を準備して」

「「「「……」」」」

 あきらから聞くつぐみの行動力と、先だって答えられた『神様にお祈りします』との差が激しく、男たちはめまぐるしく視線だけで会話した。そういう考え方をするようならば、予想していたよりもはるかに、『勇者』をディストーリア王国側に取り込むのは難しそうだと共通認識を確認する。

「っつか、そのくらいまでしなきゃ、神様にお願いできる立場にならないでしょ?」

「そんなふうに思う女の人ってキミだけだから。……うん、本当にね、つくづくキミが言うところの神様が、キミに思考能力を与えてくれて良かったよ」

「ひどい言われようだな」

「そうかな?でも俺が見てる限り、つぐみさんのお願い事って平和なことに特化してるでしょ?残虐な人間じゃなくて、実はホッとしてるんだ」

「私もです…」

「オレもですね」

「うんうん。手の届かない望みなら分不相応だって言ってくれる人で、本当に良かった。

「…そろそろしつこいな。なんだよ?」

「だって、キミが望む未来って、こういうのでしょ?」

「………」


「つぐみさんがいて、俺がいて、子供達がいて。衣食住と教育に困らない上に、働かなくても、つまり俺がいつでもキミの傍にいられる環境。…ずっと、欲しがってたじゃない」

 だんまりを続けるつぐみに向って、滅多に笑わないはずのあきらが莞爾と笑いかけた。



「これこそが、神様に祈った結果だよね、つぐみさん」



 そうして、どちらかと言えば喋り続けることが多かったつぐみをその言葉だけで完全に黙らせて、あきらは彼女の手を取る。先行しているはずの子供たちを追いかける為に部屋のドアを開け、男達を振り返った。

「つぐみさんを食堂に送ってから、俺たちが移動する予定の村の位置を聞くためにもう一度この部屋に来ます。では、細々と長時間、お時間をいただいてありがとうございました。失礼いたします」

 男たちを順に見渡したあきらの顔にははっきりと、『これ以上はゴタゴタ言わないし聞かない』と書かれており、その宣言にミハエルが渋々ながらも頷くことで了承を返す。

 ふふ、と誰にともなくつぐみが笑い、くるりと室内を振り返った。



「そういえば、私、この部屋から出るの、初めてです。異世界での生活とか、楽しみですね。これから」



 そうして、ふんわりとした笑顔のままあきらに手を引かれて。



 無理やりに呼び出された彼女は強引な手法を使いながらも別天地にて。

 文字通りに新しい世界へと。


 その家族と一緒に、足を踏み出した。



というお話。

明日、あと一話をもってこのお話は完結します。

後日談など、もしも読みてぇよ、とおっしゃっていただける奇特な方が……いる、のか?ま、まぁ保険として、一応書いておきますね。

どこかにリクエストをください。

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