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4-4

 

 ぱたりと閉められた扉の向こうで三人分の軽快な足音が遠ざかる。ハッとした顔になったあきらがどうしてだか焦ったようにつぐみの顔を覗き込み、あと確認したいのって一個だけ?と聞いた。

 うん、一個だけねと返され、ほぅと息を吐きながらつぐみをまたも抱きかかえ直す。それを呆れたように見たミハイルが一人ごちた。

「…いい加減に、離してあげればいかかですか」

「無理です、陛下。今のオレでも、」

「いや、たぶんお前は、たとえ無事にあの子につがいになってもらってもこの状況と同じことになると俺は思う」

「グゥエンの言うとおりですよジャッド。正確な自己分析をお願いします」

「…そう、ですかねぇ」

 不思議そうに首をかしげるジャッドのどこが面白かったのか、つぐみがにこにこと笑いながら口を開いた。

「よし、私もお腹が減りましたのでさくさく簡潔に行きますよ?ジャッドさんと私の娘のことです」

 途端に真剣な顔で目線を合わせてくるジャッドに深く頷いて見せた。

「陛下、この世界の人族の平均寿命と成人年齢は?」

「…ふむ。約八十、と言ったところでしょうか。この国に限って言えばもう少し伸びて、百歳前後。成人年齢は十歳です」

「は?百歳も生きるのに成人が十歳?え、体が出来上がるのがその位ってことですか?」

「いえ、違います。そうですね、ショーンから先に説明を受けなければ、ショーンの一番上のお子様で大体、三つくらいだとおもったでしょう。三番目のお子様だと見た目から判断するに一歳未満ですね。…こちらでは、成体として体ができ上がるのは八つくらいなのですよ。成人の区切りとしては各個人でかなり違いますが、五歳あたりから学習機関に入り何年か学ぶか…、あとは行儀見習いのような感じで職に就いたあたりで大人とみなしますね。要するに、自力で食べていけるかどうかが判断基準です」

「…では、獣人だと?」

「ジャッド」

「はい。獣人と一口にくくれないほどに各種族で違います。が、オレの種族に限って言えば成体は五歳を目安にしてますね。同じく、自力で生活できるかどうか、面倒事に力ずくでなく対処できるかどうかが判断基準です」

「…一年の内訳を教えてください」

「ディー」

「勇者を召喚する際、あまりにも寿命や時間に関する概念が違いすぎても困りますので召喚陣にその辺を条件として組み込んだんですよ。たぶん、ショーンたちの一年とそんなに変わりません。一年は360日、四旬から成り立ちます。一日は十二刻。現在は昼時ですので六刻ですね」

 つぐみからの疑問に答えるためにミハエルが各々の名前を呼ぶ。考え深げに指で顎をなぞり、唇をへこませたつぐみがうつむいていた顔を上げた。

「あの、その話から判断するに、ここって全体的に、子供…幼児体を見かけないんじゃないですか?もしかして」

「ですね。滅多に外に出しません。なので正直、子供に対する犯罪は誘拐や人身販売が主になります。かわいらしく無邪気な姿でいてくれるのは本当に短い期間です。いつまでも手間がかかるわけでもなし、無条件に慕ってくれる天使たちはすぐにいなくなるもの。目を離すなんてそんな勿体ない。全力でかわいがらなくてどうしますか」

「というか、ショーン。どうも貴方の反応からすると、貴方の世界ではもっと幼児期が長いのですか?」

「……ですね。私の上の娘がようやく、幼児期というか単語本来の子供という意味から逸脱しそうになってるくらいで……。そうか、その手の心配があるのかぁ。幼児体がいないとか、予想外」

 ぶつぶつと唇をもてあそぶうちに心なしか赤みが強くなり、なんとなく男たちがつぐみのそこに目をやる。そんなに引っ張ったりしたら痛くないか?の意味も含まれていたが、どこからともなくふんわりと漂ってきた冷気を感知したことで凝視はさらりと外された。

「…ねぇ、あきらさん?

「ん?なに?お腹空きすぎちゃった?」

「もうちょっと。ねぇ、あの子たち成長のスピードってさぁ」

「様子見、かな?」

「ん。……陛下?あの子たちは、ええと、こちらの国では不細工ですよね?それって、どのレベルですか?」

「………ショーンのおっしゃってる意味が、分かりかねます」

「あー、はは、言葉が足りませんでした。あのね、幼少期が短い分、誘拐が多くなるって、陛下が言われましたよね?」

「はい」

「あの子たち、多分、あと何年かは大きさがほぼ変わらないんです。というか、私が成人女性の大体の平均なので。体がそうだとして、心もですね」

「…はい」

「きっとあと十五年程度はこちら基準で言うところの『成人』ではないんですよね」

「っそ、それは…っ」

 どこか申し訳なさそうなつぐみの言葉の内容にジャッドが呻き座り込んだ。うわ、と小さく叫んだつぐみが慌てたように顔の前で手を横に振る。

「ジャッドさん、落ち着いてください!違います、あの子は一番上なので、体の構造的には後七年程度で嫁に行ってもおかしくは…。あ、嫁に行くこと自体は当然、もっのっすっごっい、嫌ですけれども!」

「なっ、七年!?そんな…っっ」

 ご丁寧にもつぐみが『ものすごくいやだ』の部分を一語一語跳ねさせるように発音したおかげでジャッドの衝撃がさらに深まる。獣人と言えどもここまで絶望の顔が作れるんだなぁとあきらは内心で感心した。

 感心しただけで何も慰めたりはしないが。

「話を戻しますよ?あの子たちはね、肉体的にも精神的にもまだ幼いんです。例を挙げるなら、私たちのいた世界にだって奴隷が存在することを知らないくらいに。本音と建て前っていう言葉がこっちにもあるなら、話が早いんですが…」

「あります」

「あるんですね。ありがとうございます、閣下。で、まだ薄暗い本音の世界があることも知らない彼らは多分、スラムというか最下級の層があることも理解していないでしょう。身分やその他はできるだけ教えますが、根本的にきっと、奴隷制が何のためにあるのかは理解しにくい概念だと思います。つまるところ、誘拐や人身売買に危機感が薄い。…あの子たちが不細工ならね、誰も欲しがらないと私は思ったんですが」

「無理ですね。城下にまで今回の顛末についてのあれこれが広がってしまうのが、手を尽くしたとしてもあと何日かです。そのついでに『年単位で幼児期、もしかすると乳児期も何年も楽しめる種族の子』の噂も広がるでしょう。希少価値が高いものを求める方々、幼児趣味、少々趣味が変わってる貴族、豪族。

 ショーンを含めあなた方は決して絶世の美形ではありませんが、その分、危険度が下がったかというと、微々たるものです、としか言えませんね」

「ショーンたちが人間だっていうのも大きいんですよ?レツィーの言葉はおおげさじゃない。しかも人間なら、獣人とも子孫が残せるから」

「ディーの言うとおりです。誘拐に限らずとも面倒事の匂いはあなた方からは消えてなくならない。どうか行動されるときには自重をお願いします」

「………陛下、ったら」

 最後のミハイルの言葉にぴくりと口角をひきつらせたつぐみが、やや上げすぎなまでに顔を上げる。対等ではなくむしろ、見下しているようなその角度にまで。

「私が、どうして、ここにいるか。お忘れですか?」

 そうして、静かなまでに怒りの感情を潜ませている声に、思わずミハイルが背を正した。

「来たくもないのに来させられ、子供たちは無駄に危険だと言われて。まだ危険度が低いかと判断して、だから、田舎に引きこもろうって、今はそう、お願いしてるわけでしょう?」

「は、はい」

「ジャッドさんがかわいそうだから、寿命の話を確認しておかないと、って思いました。一番目から了承が得られたとしても、そこから実際に嫁に行く年月までは確実に待たせるわけですから。…でも、もう、いいです」

 ふぅ、と息を吐いたつぐみが、とんとんと自分の頬を指先でたたいた。あきらがその動きにつられたように頬を舐めに行き無情にも押しのけられる。

「も、もういい、とは…っ?」

「もう、いい。って、つまり、細かいことまでこの短時間で詰めるのをあきらめたって事です、ジャッドさん。…きっと私、自分で思ってるよりもっと、この事態そのものが腹立たしいんだと思います。些細なことでカリカリするより、もう少し時間を置いて頭を冷やして、宰相閣下や団長閣下と再度の話し合いをすることにします。

 …ということで陛下、私、これからご飯を食べに行きますね。で、それが終わったら、この話し合いの流れに沿って田舎に行きます。あきらさんに連れて行ってもらうんで、詳しい移動箇所の座標…ええと、ここからどのくらいにその村があるのか、彼に教えてあげてください」

「それは、私が」

「では団長にお願いいたします。というか、私たちが行く場所に居場所はもうありますか?」

「つぐみさん、泊まるところがなかったら俺が何とかするから。大丈夫」

「そう?私は『そこに異邦人が滞在する言い訳があるか』って意味で確認したかったんだけどな?…まぁ、でも今までのこの感じならジャッドさんがそこまで待たなくても後から合流するだろうしさぁ、その辺りの辻褄あわせとか待ち合わせ場所も、あきらさんが聞いておいてあげてくれる?」

「……家族だけで暮らす事もできないのは、俺的にちょっと不満なんだけどな…ジャッドさんが合流することとか、忘れててもよかったのに」

「いやだ、あの子のことなのよ?嫁に行かせるかどうするかの方針が固まるまでは忘れないよ」

 息の合った会話がポンポンと投げ合われる。今にも席を立ちそうなつぐみに、彼女たちにかかわる今後についての会議がこれで一旦終了したのだと、いや、終わらざるを得ないと男たちは判断した。

「…ショーン、ひとつだけ、お伺いしたいんですが」

 そうして、彼女が長椅子から立ち上がる前に、直接つぐみに確認できることがもしかするとこれが最後なのかもしれないと慌てた様子のレツィーの言葉は、限りなく真剣だった。

「ん?どうかしましたか宰相閣下」




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