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今日の分は短いのです。切りがいいところで。
はい、ただいまです。帰ってまいりました。美園ゆきです。
どこから帰ってきたかって、お母さんに行っていいよ~って言われた城内探検からですよ。
すっげー面白かった!
その一言で済ませるにはちょっと勿体ないくらいの気持ちいい散歩でした。ちなみに私が一番食いついたのは廊下を何度も曲がった先にあった、ひっそりとした中庭です。お父さんが「廊下の明かり取り用なのかな?」って言ってましたけど、なんというかお城の外壁のへこみって言うんですか、ドラクエとかだと足元にふしぎなメダルが埋まってそうな、そんなささやかさ加減でした。
ちょうどいい日差しに座り心地のよさそうなベンチが置いてあって。風も通るし、誰も来なさそうですし、本を読むのに最適と見ましたね!こっそりですが大興奮しましたね!
この雰囲気ならお母さんも好きそうです。どこからか花の匂いも漂ってたし、実を言うと焼き菓子を焼くような甘い匂いもしてまして、これが一番のお気に入りポイント。
後から聞いたところ、このお城ではお菓子を焼くときには専用の小厨房を使うそうで、それがこの中庭の裏手にあるそうなんですね。…あ、逆だ。お菓子とかデザート作りの待ち時間に一息つくために、厨房の人が壁の引っ込んでるところにベンチとか花とかを植えて中庭っぽくしてみたと。
…ちなみにこれ、ジャッドさん情報です。この辺の話はまたいずれ。
というわけで、散歩についてきてくださってるお姉さんたちから首尾よくおやつも手に入れて上機嫌な私達でしたが、はなが「美味しいものはママにも食べさせないと!」と叫んだことで探検の道のりは大幅に短くなりました。
まぁね、途中でお父さんがいきなり「ごめん、先にお母さんのところに帰る。はなたちは後からゆっくりおいでー」って舌打ちとともに宙に消えたんで、お兄さん達も含めてびっくりさせられましたけどね。
まったく、前触れなく目の前から消えるとか、昨日も見せられてなかったらもっとパニックしてましたよ。あーあ、月ががっくりしてるじゃないですか。…ああ、よく聞いたらどうも、自分もああいうのがしてみたいのに出来そうになくて、それで絶望したらしいんですけど。
…いや、瞬間移動とかできたらそれ、もう、人間じゃないよ?弟よ。
そんなこんなで後は何事もなく部屋に帰ってきた私達ですが、…なんですか、部屋の外にまで聞こえるような大声で、お母さんったら。
「「「…ママ、ナニ騒いでんのさ」」」
思わず三人で台詞が被りました。そんなふうにバタバタしても可愛くないですー。大人だからー。
ぶーぶーという顔をするお母さんに聞いても無駄だし、他の大人に聞きましょうか。
「ナニが勇者判定?いったい、何がどうなってそんな話になったの、お父さん?」
「なんだろう、つぐみさんの立ち位置的がね、それっぽいって話だっけ?」
「だって、やだ、照れるでしょう?勇者とかーーー」
…いや、真面目な話、いったい何がどうなって、そんな単語が出てきたんでしょうか。しかもどうなんでしょうお母さん。勇者の言葉にかなり本気でうれしそうですけど。
むしろ手放しで浮かれてますけど。
「だからね、無効だって話をしてたの。つぐみさんが勇者だと俺が魔王になっちゃうでしょ?」
「え、やだ、その場合ならあきらさんが魔王なんだ!?」
…もしもし?言ってる途中から笑い出してますよ、お母さん。ああ、でも、確かに似合わないですけどね。どっちかっていうと、
「ママが魔王でお父さんが勇者…」
っ、おぅ、月ってば勇気がありますよ!ぼそっと言ってもこの距離じゃ聞こえるのに。お母さんに。
「…月ってば、もう。今夜は一緒に寝ないぞぅ?」
あーあ、ほらね、お母さんの目が笑ってないじゃないですか。
んでもってそれを受けた月が、添い寝、無し、だと…とか漫画っぽく呻いてますけどね。
ダメージが来るところにお母さんは攻撃するタイプなんだから、そろそろ学習したほうがいいとおねぇちゃんは思うよ?
「そうだね。ママは魔王みたいだもんね!」
「…はなちゃんまで…ママはいったい…」
ほら、はなみたいに、お母さんにダメージを食らわせて長椅子に撃沈、その隙を見てここぞとばかりにくっつきコース、が妥当じゃないですか?む、月がどうして反対側にくっつくんですか。そこは私です!
……あ、部屋で一緒に話し合いをしていたはずのおじさんたちがぽかんとしてますが。なんだろう、帰って来ましたよって挨拶しないと無礼だったんでしょうか。
でも、それならお母さんが先に挨拶は?って私達に促すはずですけど…。
…うん、しなくてもいいことにしましょう。おじさん達も顔を見合わせてからにこにこし始めましたし。なにやら引きつってるような感じですけど、そのあたりはスルー。
「魔王でも何でもいいし。ママは、はなたちのママだし」
「それよりお腹が空いたんだけど、ママ。今日のお昼ごはん何?」
「んー、お昼か…」
お母さんが困ったように首をかしげると、何事かを王様に報告していたカイエさんとターシェさんが振り返ってくれました。控えめですが、どうも騎士団の食堂に連れて行ってくれると主張してくれたみたいです。ふふふふ、うれしさのあまり笑顔になった月とは違い、私は抜かりなく確認しまたよ。
ごはん代はタダでいいそうです!
うっわーい!と月とはなが両手を挙げてばたばたとドアに走り、私を振り返りました。私はもちろんお母さんに目で合図をして、一緒に行っていいか了解を取ります。
「いいよー。美味しかったら、お勧めのメニューをママにも教えてね?」
よし、大丈夫そうですね。では行きますか。
わーい、私のごっはんー!




