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3-1 妹から、執着されました。

 

 はははははは。私の頭の中は今、『もう、どうにでもなぁれー』という呪文でいっぱいです。

 こんにちは、御園ゆきです。結局のところまだ、大混乱中です。部屋の中には私たち家族五人と、ジャッドさんとメリッサさんがいらっしゃっていて、総勢七人であれこれと好き勝手にしゃっべっています。そのおかげで会話量だけでも大変なことに。

 …まぁ、ですからこの際、今まで私が知ってる限りですけど、ここまでの問題点をさらいましょう。


 ・昨日の昼に、お母さんから異世界に召喚された挙句、こっちの世界に定着させられました。

 →召喚とか定着、…つまりもう二度と元の世界に戻れないよっていうことなのかな…、とか、何やら物騒な言葉でしたが、家族全員が一緒なので何の心配もないようです。

 …これから先もずっと、あっちの世界、つまり私達の家に帰れなくなったのを先頭にして、イロイロと差し支えることとかたくさんあるでしょうに。

 問題にすらしないとか、安定のぶん投げ方ですね、お母さん。逆にいっそ、ものすごく納得しましたよ。

 そして、着の身着のままでこっちに来ちゃったためにどうしても必要になるであろうこれからの衣食住も、いざとなったらお父さんがどうにかしてくれるそうで。……なんだその甲斐性。こぇーよ。


 ・お母さん曰くの「ママの立ち位置」的なナニかのお話。

 →説明がないのでわかりませんが…、お父さんたちの態度からしてあんまり愉快なものではなさそうです。そして同じく二人の態度から読み取るに、この問題は優先度的には後に回しても大丈夫そう。


 ・シェパードそっくりの容姿をした、お父さんよりも背の高い金目ケモノ耳が、私のことを、つがいとして欲しがってるっぽい……、のでしょうか?

 →推測もできないほど情報がありません。事実かどうかも未確認。私のことなのに。

 ですが弟いわく、『私とペットみたいに一緒に暮らしたい。そのためなら私の家族まで面倒をみたい』と言ってたようで。そんな言葉を昨日のジャッドさんは使ってなかったと思いますし、ということはかなりの意訳でしょうけど、お母さんが頷いていた以上、大方はそのラインなのでしょう。


 うん。衣食住の問題がきっと一番の大きさでしょうし、それが解決してるっぽいし。さしあたって私が騒げるのって今のところはこれくらいのようです。だから現状把握した後は、私は心の赴くままに弟に八つ当たりしたいと思います。心鎮めて平穏に暮らしたい、なんて決意は遠くのどこかへ放り投げますとも。パパーンっとな!てなもんですよ。よく考えたらお母さんの単なるわがままでこっちに飛ばされてることとか、どこに行こうがこれからも勉強は絶対についてくるんだろうとか、いいからこの部屋から早く出たいとか。…人数が部屋の広さに対して多すぎなんですよぅ。いいや、もう。


 もう。


 呆然としたままのケモノ耳なんか知ったことか。一人だけ別次元の穏やかさでお茶を淹れてくれてるメリッサさんも、今は無関係ですよね。

 大体、『つまり月としては、おねぇちゃんをこの犬の人に売ればいいと思ったんだ』とは何事ですか。あぁん?



「アンタは姉を売り飛ばすわけか?月」

「い、いや、だって、おねぇちゃん。おねぇちゃん一人と、月たち四人が同じ価値だって言うなら、トントンじゃないの?」

「こらこら。売り飛ばすにしたって、安全確認と、何をさせられるかのチェック、ゆきの、そうだな、この犬に対する強さを見てから言いなさい、月」

「アンタはまだ黙ってろ、あきらさん」

「お、私が、ゆき殿を買う?!そ、………そうさせて、いただけるのですか?」

「いや、釣り合わないでしょ、一人と四人って」

「…はな、それ、フォローのつもりなの?」

「ん。おねぇちゃんか、家族か、なんて、選べないよ。だから、売らない。大体、おねぇちゃんも揃ってないとヤダ。家族なんだし」

「それよりジャッドさんは本音が出すぎだから。たとえ母の私といえどもだね、子供の意思を無視して行き先を決める、なんて、無理だから。はなも言ってるように、売らないから。あ、こら、ゆき、月を殴るのはダメだよ」

「だ、だって売られたよ?!私!悔しいじゃん!!」

「うん。だからアンタ、この先一度だけ月を売り飛ばしていい。ママが許すよ」

「お茶が入りましたので、こちらに置かせていただきますね」

「あ、おねぇさん、はなはお外に探検しに行きたいんだけど、いいですか?」

「探検、ですか。少々お待ちください」

「月は売られちゃうの?……いつ?」

「ばーか、ばーか、ばーか!!そんな、シュンとした顔してもダメだし!絶対、『こんな時に?!』って時に今の言葉持ち出して、問答無用で売り払ってやるから!」

「ゆきちゃん…普通に怖いよ、その報復の言葉」

「攻撃的なところとか、お母さんによく似てきたね」

「棘を入れる場所をわきまえるその賢さ…その声の甘さ…ああ、早く俺と目を合わせて下さい、ゆき殿」



「…おはようございます、異世界からお越しの皆様方。どうやら正しく、全員で混乱中なようですね」



 不意に涼しい声が後ろから聞こえて、危ないところでひゃっていう声を飲み込みました。

 誰ですか…って、昨日のおじさんたちですね。えーと、これで昨日に会ったことのある人全員がまたこの部屋に来たことになります。基本的にはこの人たちの代表として上司が口を利いてくれるみたいですね。

 …ん、このおじさんは王様って最後に呼ばれてたような、………王、さま?

「陛下」

 メリッサさんとケモノ耳が慌てて頭を下げました。お母さんはきっちりとした会釈、お父さんは頷いただけです。

「「…「おはようございます」」」

 私たち子供三人はキッチリと頭を下げます。はなが一人だけ心持ち動作が遅かったのは、私が強引に手を回して頭を下げさせたせいです。あいさつは基本事項、っていつもお母さんが言ってるでしょうに。

 ほらごらん、きちんと挨拶できたからお母さんが大きく頷いてくれたでしょう?にっこりの笑顔付きだよ?。

 王様は……私の知ってる王様という意味でいいんでしょうか。ゲームとか映画の中でならぼんやりと見たことはありますが。でもみんな、こんなに若くなかったですよ?

 若くても王様になれるものなの?

 っていうか、王様って結局のところ何する人なんでしょうか?


「探索につきましては、ジャッドをつけますので散策という形でお願いします。入ってはならぬところはジャッドがわきまえておりますので、指示には従ってくださいますよう」

「…そう、ですか。できればジャッドさんではなく、他の方が良かったのですが…」

 王様は昨夜と同じように淡々と問題を処理していくタイプの人のようです。はなが騒いでいた探索の件をあっさりと許可してくれました。が、わーい、と両手を上げるはなの頭を撫でつつ、お母さんが困ったように首をかしげて、反論します。

「ふむ。では、カイエとターシェをつけましょう。…ああ、近衛と宰相補佐の第一位です。昨日あの部屋にいた者たちのうち、幾人か倒れたましたでしょう?あれらはまだ、だれ一人として回復しておらんのですよ」

 メリッサ、カイエとターシェを呼んでくれるか、と王様が言うと、メリッサさんが会釈をして部屋を出ていきました。

 すげぇ。王様なのに偉そうじゃないですよ。一般市民であるはずのお母さんのいうことなんかを受け入れてくれるなんて。すごく寛容な人なんですね。

「道案内の方が二人ならば、こちらも安心です。なにぶん小さな子供ですので聞き分けが良くなくて」

「おや、どちらでもその事情は変わらないようですな」

 我が子も出来が良くないのですよ、と笑ったのは部下の人です。なんだか昨日とうって変わって愛想がいいんですけど。

「お恥ずかしい話ですが、私が行き届きませんで」

「子供は元気なくらいがいいと申しますし、それにしても、お子さん達はいくつくらいなのですかな?」

「上から順に、十二、十一、七歳です」

「じゅ、じゅうにっっ?!」

「あ、悪いけどそれ以上は近づかないでください」

 お母さんと部下の人が楽しそうに会話してると、いきなりジャッドさんが叫んでのけぞりました。?…なんですかね?




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