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2-2

 これで何度目でしょうか。そろそろ脳内実況も終わりにした方がいいのでしょうか、御園ゆきです。こんにちは。

 現在はえーと、私たちが最初からお邪魔してる部屋に家族全員が揃い、敷物の上に円陣を組んで座ってます。嘘です。お母さんにいつもどおりべったりとくっついて座った月が珍しいことにお父さんに首根っこを掴んで遠くに追いやられ、今まで見たこともなかったのですがお母さんがお父さんの膝の上に抱き込まれてます。


 大事なことなので、もう一度。


 どこかに消えていたお父さんが唐突に現れたうえ、お母さんを、自分の膝の上に、抱き込んでます。


 ……私とお母さんのどちらがショックだったのか、ちょっと甲乙つけがたいですね。お母さんなんてまだびっくりした顔で座りっぱなしですから。

 うーん、そんなふうにお母さんに触る人じゃなかったんですけどね、お父さん。



「…あーーー。現状の整理と行こうか」

 あ、お母さんがフリーズからようやく復活しました。自分の位置については無視する方向みたいです。ナチュラルにお父さんの膝の上から降りようとして当然のごとくできなかったみたいだし、賢明でしょう。

「今の問題点を上げようか。まず、異世界だってことはスルー」

「うん」

 え?!お父さん、そこはスルーなの?!

「ゆきちゃん、だってみんなこっちにいるんだったら、ここがどこかなんてわりとどうでもいいでしょ?」

 …そ、そうかな?

「俺は仕事に戻りたいんだけどね…。キミに昨日、こっちに定着されたからさ…」

「あーー。うん。ごめんね、あきらさん。そこは素直に土下座する」

「土下座よりもっと、あとで、話がしたいかな」

「っ!?」

 ん?お父さん?お母さんの唇をそんなふうになぞっても、はなじゃあるまいし。今はパンくずもお茶もついてないよ?

「キ、キキ」

「キキ?誰かの名前のつもりなの?」

 俺以外の名前とか、呼んじゃうの、キミ?

 かぷ、とお父さんがお母さんの耳を後ろから噛みました。お母さんが奇声を上げて飛び上がって逃げようとして、やっぱり膝の上に引き戻されてます。

 子供たちは正しく、唖然茫然の状態です。


 さっきから何回も同じ言葉の繰り返しで申し訳ないのですが………今まで、見たことがない光景なんですけど。



「なんなんだ、さっきから、アンタ!そんな、こんな、こんな真似、する人じゃなかっただろ?!」

 おおおおぅ、首筋まで真っ赤になってるお母さんの壊れっぷりは初めて見るレベルです。

「…ちょっと、素直になろうと」

 そして、あははは、お父さんの照れたように目じりが下がる、ふふって笑い方も初めて見ます。

「素直?!アンタ素直って、っあ、ああ、いや、…っでもっっ!!」

 お母さんはうろたえまくって何やら肯定してますけどね。ぐしゃって自分の髪に手を突っ込んではお父さんに梳き直されて、それでまた軽いパニックを起こしてます。


 なんつーか、意味が、まったく分かりません。正しくカオス。ピンクのオーラが漂ってますよ。なんですかこりゃ。


「お母さん、お父さん」

 そんな中、呆れたように二人を呼んだのは弟です。ですよね、なんですかこの絵面、って感じですよね。

「話を進めてよ。こっちでなんか問題点とかあるなら、知りたい」

 って!アンタがまさか、ここでのスルースキル取得なのっ!!?

 おっと、つい脳内絶叫してしまいました。なるほど弟も学習する人なのか……いや、もともと頭のいい子ですけど。空気読むとかできない子なんですよね。

 あ、違うか。空気読まないから、だから逆にお父さんのコレに突っ込まないのか。

「…だね。おねぇちゃんがすごく困ってるし。お母さん、お父さん。はなはとりあえず、どっちかに抱っこしてほしい」

 そして妹からのフォローにもなってない単なる要求が、ここで、華麗に到着と来ましたよっ!?

「……あきらさん。話はちょっと、あとにしようか。ゆきちゃんがマジで混乱中だわ」

「ふむ。仕方ないかな」

 ほら、とお父さんがお母さんから離れて妹を抱き上げて長椅子に座りました。おたおたとお母さんが私の方に手を伸ばしてきて、何をするつもりだったのかは知りませんがお父さんから名前を呼ばれてびくぅっとその姿勢で固まります。

 へらりと私とお父さんに笑いかけながら床に投げ出されていた、枕代わりに使ったクッションをみぞおちに抱き込み、それが一瞬にして部屋の隅にぶん投げられたことに……とうとう、ぽかんと口をあけました。

 いやいやいやいや、私もですけど。

 誰も手を出してないのにいきなりクッションだけが宙を舞うとか、なにそのマジック。

 お母さんは姿勢を崩すリアクションすら取れてません。

 …ぼすりと音を立てて壁にクッションが叩きつけられた後は沈黙が下りる中、ふふ、ともう一度お父さんの含み笑いが聞こえました。と、いうことは、マジックの仕掛け人はお父さんでしょうか。何がしたいの?

「…………よし」

 お母さんが、あとだ、あと、とブツブツ呟いてから何度か首を横に振り、深呼吸をして、指だけをワキワキさせました。ねぇ、何の意味があるんですかそれ。

「問題はアレだ、衣食住の確保」

「そこは心配しなくてよくなったよ。アンタたちがこの国から出ていくとしても、俺にあてができたから」

 気を取り直して、わかりやすいように指を折るお母さんに間髪入れずにお父さんが真顔に戻りました。が。…あて?お父さんもこっちに来てから何時間かしか過ごししてないのに、もう伝手とかできちゃったんですか?

「そっか。よかった、のかな。じゃあ次は私の就職先とか」

「それはないね」

 同じように間髪入れず、というかお母さんの言葉をぶった切ったお父さんはにっこりと笑います。目の奥がちらちら怒ってるみたいに揺れてますけど。

「…あ、ああ、そう。なら、それなら、問題点のほとんどがなくなったってこと、かな?あとはアンタたちの教育か」

「そこら辺りはあとで昨日の人たちに確認してくれる?あ、教育方針にしてもね、気に食わなかったらなんとかするから」

「うん。…ん、他に何かあるかな?問題点のほとんどが解決したっぽいし、…うーん、お母さんの立ち位置の説明でもしようか?」

「じゃあ、俺の膝に座ってくれる?」

「……じゃあ、の意味が分かんないから、遠慮しとくね。ええと、昨日からの説明って……っうわぁっっ!!…………ああああ、うん。どこまでいったっけ」

「月は、ママの立ち位置と、おねぇちゃんに手を伸ばしてた犬の格好した人の話を確認したいかな」

 お父さんたらそんなにお母さんを自分の膝に置きたかったんでしょうか。いつの間にか妹を背中に回して膝をあけて、ひょいって感じでお母さんを抱き寄せてしまいました。お母さんがもう疲れちゃったみたいにそのことを無視して話を続けようとします。

 あ、でも、弟の言葉で思い出しました。聞きたいことを聞いていいなら。

「ゆきも、ジャッドさんのことは聞きたい」

「はなはねぇ、いつ探検に行っていいのか、ママの作るご飯がいつになるか知りたいな!」

「…お母さんは、どうしてお父さんがこうなっちゃったのか、いつ、この熱が冷めるのか知りたいな、なんて…あはは」

「そう?俺はね、いつになったら君がこの場所に愛想を尽かして、事態の解決のために俺に手を出させてくれるのか知りたいな」

「アンタにゃ聞いてねぇよ!!」

「んー。吐き捨てる声もかわいいとか、その年で反則だよね。とりあえず、俺ともっとお話しして?むしろもっと俺を頼って?おぼれ」

「おっとそこまでだ!」

 あ。お母さんがとうとう切れたようです。ぺいっと、自分のおへそに回っていたお父さんの腕を振りほどいて立ち上がると、うっすらと笑ってる顔の近くに指を突き付け…かけて慌てたように肩の辺りに下げました。だ、ま、れ、の言葉に合わせて軽く上下する人差し指。…まぁ、叫ぶ気持ちは、わかります。

「いいか、私はアンタが好きだ。だから、いいっていうまで、黙ってろ!」

「仕方ないなぁ」

 くすりと笑ったお父さんが肩をすくめて、背中に回していたはなをもう一度、膝に抱き込みました。隣で弟が、好きだと黙ってろのギャップがひでぇと呟いてますが。いやいや、お母さんが正しいから。


「…良し。あきらさんは、はなと探検に行っておいで。どこまでなら出てもいいか聞くから、それに従ってね」

「っあ、外に出ていいなら、月も行きたい!」

「…うん?ママの立ち位置とか、ゆきのことはいいのかな?」

 ちりんちりんと机の上にあった鈴を鳴らしたお母さんが困ったように月に確認します。月はこてんと首をかしげてから一拍してうなずきました。

「あのね、おねぇちゃんが、あの犬の人に欲しいって言われたんだよね?ペットみたいに一緒に暮らしたいって。そのためにあの人、おねぇちゃんに傍にいて欲しいから、月たち家族まで面倒をみたい、んだよね?あってる?」

「…大体は」

 お母さんが呆然と伝えました。悲しそうにうつむいて、

「聞いてたのか…。そして、理解しちゃったのか…。そうか、頭が悪いわけじゃないもんな、アンタもな…」

 と、首を振ります。

 月は子供っぽいですけど。私よりも頭はいいのです。だから状況把握は私よりも……っえ、えええっっ?!じ、ジャッドさん、そんなこと言ってたっけ?!

「ん、だったら、おねぇちゃんにイケニエになってもらえばいいと月は思います。おねぇちゃん一人で月たち四人が平和に暮らせるなら、それはそれで、いいかな?って」

「はあぁぁぁぁっっ??」

 私が大声を出すのと、ジャッドさんと昨日のメイドさんがドアから入ってくるのが同時でした。三人で驚いたように凍り付いて顔を見合わせます。

「あ、ノックはしてもらってたよ、ゆきちゃん。アンタが気が付いてないだけ。…おはようございます、ジャッドさん、メリッサさん」

 メリッサ誰やん、と私が突っ込む前にメイドさんが膝を折っておはようございます、と挨拶してくれました。…うん。ノックを無視してごめんなさい。

「メリッサさん、申し訳ないけどお茶をお願いしていいかな?私じゃ上手く淹れられないと思うんですよ」

「かしこまりました」

「お、おおおはようございます、「つまり月としては、おねぇちゃんをこの犬の人に売ればいいと思ったんだ」…ゆき、殿」

 そしてジャッドさんは、どうしてそんなに気合を入れたいのか不明なまま、両手を握りしめて私に挨拶をしようとして、

「はあぁぁぁぁっっ??」

 さっきと同じような私の呆れた悲鳴に叩き落されました。かわいそうに。



 …いや、いやいやいやいや。かわいそうなのは、私じゃないですか?!

 つまり私はたった今。



 弟から、売り飛ばされた、ようです。



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