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0-1 事の起こり

初めまして、恭子です。

家人からの鬱憤晴らしのため、かなりのご都合主義と超展開と思われます。

誤字脱字等ございましたらどうぞ、お手柔らかにお願いします。

 

『   』

 魔術師たちが力ある言葉を言い終わったと同時、ぼんやりとその構成線が浮かび上がっていた程度だった魔法陣の内側からまばゆい光が一気にあふれた。

 一瞬だが目を焼かれ、その場にいた全員が私も含めて反射的に魔法陣から顔をそらす。

 息をひそめたまま、なんとはなしに数を数えた。

 しゅうぅぅぅぅと水蒸気が空気に収束していく音を耳が拾い、その場にいる誰とも違う呼吸音を確認する。それから、これから見るであろう光景がどれだけ予想外であっても驚かないよう、あらゆる事態を思い浮かべて、目を上げた。


 そこには、なんとも珍妙で今まで見たことも無いような下着めいた格好をした……少女、いや、女性が存在していて、椅子に座るような形で『床下に膝を沈めたまま』座り込んでいた。その体からは目に見えるような濃さで覇気というか魔力があふれだしているのが、魔力を欠片ぐらいしか持たない私にも分かる。


 召喚は、成功した。ことは、成された。


 ぜいぜいと肩を上下させるその女性を見ながら、ぼんやりとそう思った。

 本来ならもう少し、高らかに魔術師たちの成功を喜ぶべきなんだろう。が、どうしても両手を突き上げたりとか大声を上げたりなどの、どこからどう見ても喜びであるポーズをする気が起きない。

 かといって、ひそかに恐れていたように罪悪感や憐みなどの感情も沸いてはこなかった。きっと、顔を上げた『彼女』の目がぎらぎらと、それはもう私の背筋を久しぶりに震えあがらせるほどの強い感情でぎらついていたからだろうと思う。

 ぐるりを見回した彼女が目を座らせたまま音高らかに舌打ちをした。ぴくりと指が動き、いっそ、のろのろと、と表現していいような速さで顔よりも上へと両の手の平が突き出される。ゆったりとしていながら確信を持っているようにためらわず、彼女が口を開いた。


「これより、私がいた場所からの仮召喚を行う。人数は四人。代償は…、この陣を発動させたる力を仮に魔力と呼ぶ場合、この陣を描いた責任者、召喚の責任者から総魔力の九割を使え。次に、この国の上位魔力保持者のうち上位の存在十人から八割、この国に敵対している組織の上位十人から同じく八割、さらにまだ足りなければ私の髪を通し、世界の陰の気を代償として力とせよ。召喚対象者の名前は」


 一気に言い放つ言葉に、私を含めその場がぽかんとしているのを見て取ったのか、口角をついっと吊り上げる。


「御園、ゆき!」


 そうしてその表情のまま両手を下げ、自身の膝下がまだ溶け込んでいる陣の中に躊躇なく片手を肘下まで突っ込んだ。誰かの名前(だろう、たぶん)を叫び、来い!と全身で振り絞るように叫ぶ。

 一瞬ののち、手ごたえがあったのか鼻を鳴らしてグッと全身に力を入れた。どういう仕掛けなのか左手は床の上で力を込めても沈まないようだ。爪の先が白くなっているところを見ると、彼女の全力が右側にかかってるらしい。


 ずるぅぅ、という音がふさわしい速さでじりじりと、彼女の手が誰かの手首を掴み、持ち上げていく。

 床下に沈められていた右手が上がり、彼女の手の太さの半分しかないような細さの腕が見えた。伸ばされた状態で持ち上げられていく手は色白で、じきに見えてきた肩も体もどうみても子供のようにしか見えない。

 ふふ、とかすかに彼女が笑い、その笑いにその場にいる全員が戦慄した。

 どうであれ笑えない状況の中なのに、なぜ笑えるのか、あまつさえ楽しそうなのか全く意味が分からない。

 その間も止まることなく彼女の手は子供を床から引きずりあげ、ついにその子の姿が全部こちらへと引き寄せられた。ぎゅっと女性が子供を抱きしめたあと、椅子に座るかのように陣に腰掛けさせる。子供はよほどつらかったのか、膝から下を陣の下に沈ませたまま無言でぜえはぁと息を弾ませていた。

「動くな。後で私が問うまで喋るな。いいな?」

 そうして、思わず背を正してしまうその口調で伝えられる、まさしくの命令形に、この場で観客と化した私たちは吐く息すらも止める。彼女から発せられる気に耐えきれなくなったのか意識を失い、私の斜め後ろで音を立てて床に転がったのは魔法省の幹部だろう。

 …本当にどうでもいいのだが、彼女の口からこぼれる声は柔らかかった。家族に話しかける言語すらこちらにも意味の分かるモノであることに心底から安堵したのはもう少したってからだ。このときはともかく、戦うことくらいしか能のない武骨な人間である私ですら甘いと形容したくなるような彼女の声質と、それとは真逆なまでに硬質な命令に、思わず聞き惚れていた。

「次、御園、月」

 一人目と全く同じ手順を持ち、彼女が陣の中から子供をまた引き上げた。今度の子は息を荒げてはないようだが今にも絶叫しそうな顔で…彼女の顔を見ると沈黙した。笑みを浮かべたまま彼女が人差し指を唇につけたからかもしれない。

「…しぃ。ね?」

 ね、と言いざま首をかしげた女性に何を見たのか二番目の子供がぐったりと一番目の子供に体を預けようとして…重たかったらしく一緒に崩れそうになった。二人してなんとも言いがたい顔でお互いの脇腹を突つきあい、口を開き…彼女にたしなめられたようだ。どんよりとうつむき、黙りこむ。

 子供たちが子供なのに混乱した様子を見せないことで私の不安をゆっくりと高めていることも知らず、二人は続けられた彼女の言葉にびくりと背を正した。

「次、御園、はな」

 声を荒げることなく静かな声量で、続いて三番目を、彼女は陣から引き上げる。

 三番目はそれまでの二人と違いあからさまにもっと小さかった。子供というより乳児に近く、は?!だの、意味が分かんない!だのと叫ぶ。こんなに小さいのに喋ることができるらしい。今までの子たちと同じく、人差し指を唇の前に置いたまま、うっすらとほほ笑む彼女の顔を見るまで。


 そうして子供たちが全員黙ったところで、彼女がまたもやデフォルトとも言える笑みを浮かべた。


「さて、状況を説明する暇はない。お前たちが出すのは答えのみ。私を選ぶか、今までの生活と世界を選ぶのか、今、この場で決めなさい」


 …私の背中を、冷や汗が伝っていくのがはっきりとわかった。今までもじっとりと服が湿っていたのだが、玉のような冷や汗なんぞかくのは久しぶりで驚く。

 というか、正直、この状況を説明してもらいたいのはむしろ、私たちだが。

 私の横で一人、いや、三人ほど新たにまとめて倒れた。さすがというべきか、魔法省零位と宰相、国王はとどまっているらしい。それでも、まっすぐに背を伸ばしてないこの方など、初めて見た気がする。

 子供に何を言ってるのか、無茶ぶりにしてもひどすぎやしないだろうか、の言葉はどうしても口に出せなかった。『何』を選ばせているのかという非難も。


「ゆき」

「…今までの生活を選べば、ママに会えなくなる?本は?」

 一番目が問いを返す。…なるほど、名前を呼んだのは答えが聞きたかったのか。

「そうね、そうなります。本については……これは、どうにかしましょう。質は約束できないけど。次、月」

「……僕は、ママのそばを選びます」

「ふむ。では後で詳細を詰めます。次、はな」

「パパは?!ご飯はどーなるの?!」

「……ん、良し。あなたたちがあちらを選ぶのなら当然、向こうにあの人を残します。あなたたちの生活は今まで通り。ただ、私がいなくなるだけ」

「はぁっ!?…………おねぇちゃんは?!」

 幼い子特有の甲高い声がゆらぐように叫んだあと、多少の沈黙を経て、三番目が視線をぐらぐらと動かしながら一番目のほうを見やる。

 そうか、一番目が三番目の姉か。男の子と女の子であからさまに服装が違うのでそうとわかったが、彼女も含めて全員の髪が恐ろしく短いことからして、女性と男性で髪の長さを分ける風習は、彼女たちのいたところにはないのかもしれない。

 確かにこうやって見ると、子供たちは三人とも非常に似ているな、とやや現実逃避気味に観察した。

 事ここに至ってようやく、彼女が何をしようとしてるのか理解して、何度目かになる驚愕を何とか声に出さないレベルまで押し込む。



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