少年の絵
少年は絵を描くのが趣味だった。
ある時絵を描いていた少年は絵の具が足りないことに気づいた。
時を同じくして祖母が死んだ。障害を持って生まれた妹をよく罵倒する祖母だった。
少年はまた絵を描き始めた。
しかし再び絵の具が足りなくなった。
今度は祖父が死んだ。妹を存在しないかのように扱う祖父だった。
少年はまた絵を描き始めた。
今度もまた絵の具が足りなくなった。
次に死んだのは父だった。酒に溺れ子供によく暴力を振るう父だった。
少年はまた絵を描き始めた。
もう何度目か分からないがまた絵の具が足りなくなった。
次に死んだのは母だった。子供をほったらかして愛人の家で寝泊りするような母だった。
少年はまた絵を描き始めた。
何度も、何度も、何度も、キャンパスに一つの色の絵の具を塗りたくった。
その表情は笑っているようでありながら、頬には一筋の水滴が滴っていた。
最後に死んだのは少年だった。少年は家に篭り一つの絵を描き続けていたという。外部との接触を完全に絶った少年の死因は不審な点一つ見当たらない餓死だった。
手に絵の具を付けながら倒れるようにキャンバスに寄りかかっていた。
少年が描き続けていたのは真っ赤なリンゴ。
少年の妹が大好きなリンゴの絵だった。