【超超短編小説】毛
労働はクソだが、賃労働にもひとつだけ良いところがある。
それはクソをしている時にも賃金が発生していると言う点だ。
その日もおれは仕事に飽きた段階で立ち上がり便所に向かった。
やたらヒーターの効いた便座に腰を下ろしてクソをする。
賃労働で唯一と言って良いほど素晴らしい時間だ。
そして自分の逸物を見て、若い時分に除去し損ねた余分な包皮を剥いた時、そこに一本の長い毛があるのに気づいた。
定期的に短く剃っているものの、往生際の悪い陰毛が本尊と皮の間に入り込んでしまう事は少なくない。
いや、もしかしたら昨晩の女の毛かも知れない。
とにかくおれはその毛に指を伸ばして摘んだその瞬間、幼い頃に聞いた怪談をふと思い出した。
怪談と言うよりは都市伝説の様なものだが、それは簡単に言うと「耳から出ている白い糸を引っ張り続けたら失明した」と言うものだ。
耳のそんな位置に視神経が通っているはずが無いのだから笑い話だ。
しかしあの頃はそれを信じていたし、耳から白い糸が出るのが怖かった時期がある。
もしそれをこの本尊、つまり陰茎に置き換えるとこの毛を引いたら勃起不全になったり、または陰茎そのものが取れたりするのでは無いか?
と言うような事を思った。
そんな馬鹿な事があってたまるか。
やはり賃労働は精神にも悪い影響を与えるのだ。
しかし都市伝説にだって何か切っ掛けがあるのだし、絶対に無いとは言い切れない。
薄っぺらい恐怖がひとしずくの汗となって背中を落ちて行った。
「馬鹿馬鹿しい」
おれがわざと声に出して毛を引くと、陰茎に対して螺旋状に絡みついていた長い毛はおれの陰茎を輪切りにした。
驚いて立ち上がると、自動水洗の便器はおれの陰茎本尊をクソと共に綺麗さっぱりと流していった。




