異世界に転生……させられた
女神メティスはため息をついていた。眼前に佇む少女が、女神の思い通りに動かないからだ。
「ねぇ、分かってる?私は破格の提案をしてあげてるの。最上級スキル『魔力無限』に、使い切れない富、王侯貴族の地位。これ以上何を望むというのかしら?、そろそろ転生してくれない?」
選んだのは、前世で何一つ持たなかった哀れな少女だ。この手のタイプは、神の慈悲を与えれば涙を流して縋り付くのが常。それなのに、眼前の少女は虚空を見つめたまま、人形のように動かない。
「お願いだから、ハイと言って頂戴」
「いいえ、断ります」
女神は困惑した表情のまま、次にどう出るべきか考えていた。すると、目の前にもう一人、人間が現れた。「二人目」である。
彼は女神の提案を聞くや否や、目を輝かせてこう答えた。
「『無限魔力』を頂けるのですか!?ありがとうございます。さっき別の場所で手に入れた『超再生』と組み合わせれば、見事この世界を救って見せましょう!女神様、感謝致します」
男は品良く一礼し、異世界を救うべく、光の渦の中に飛び込んで行った。
女神は気分を良くしつつも、少女を睨みつけた。
「見なさい。先ほどの彼は実に賢明でしたよ。優秀なスキルを手に異世界に旅立てば、何の心配も無く世界を救え、英雄として永遠の誉れを手に入れることができるのですよ。まぁ、彼は所詮ニ人目ですから、一人目のサポート役にすぎませんが」
と、そこまで話したところで、女神は自身の思考にふとした違和感が混じる。
(……さっきの男、『別の場所で手に入れた』と言っていたけれど、それはどこのこと?一体何のことを話していたの?)
――二つの世界を超える魂は一度だけ神域の間を通過することになる。そこがこの玉座の間である。世界の管理者である神は、この玉座の間で魂に対してスキルを付与するなど、好条件を提示して異世界の橋渡しをするのだ。もちろん、自分が管理する世界の人類の救い手としてメリットがあるからそんな事をしているだけなのだが……。
少女の表情が変わった。
「あらぁ。もしかして気づいちゃったのかしら?さっきの彼、余計な事を口走って行ったものね。私たち、あんたの前に、もう一人、別の神様のところを通ってきたの。あんたより上位の神様だそうよ」
そこまで聞き、逡巡した後、女神の顔から血の気が引いた。最初は無表情で、今しがた砕けた表情となり、こんどは冷笑を浮かべた少女は続ける。
「そこで上位の神様は、あんたがくれるようなスキルより、もっと魅力的なスキルをくれたの。『役割交代』っていうの」
気付くと、少女の右手に手のサイズ程の鍵が現れていた。女神の表情が凍り付く。
「なぜお前如きがマスターキーを持っている!調子に乗るなぁ、小娘が!」
女神メティスが右手をかざすと、金色に輝く拘束具が少女の周囲に生じ、生きた蛇のような動きで少女に襲いかかる。が、少女がマスターキーを軽く回すと、それらの拘束具は虚空へと消え去った。と同時に、女がみメティスはある感覚に戦慄する。
(神威が……無くなっていく……)
メティスは表情を急変させ、少女へと襲いかかる。
「ここは私の世界なの!私の物なの!返しなさい!返しなさいよ!」
メティスが少女の腕を掴もうとしたその瞬間、少女の姿はメティスの目前から消えた。そして、地べたに座り込むメティスの背後、玉座に深く鎮座したついさっきまで少女であった女神はメティスにこう告げた。
「あんたはここまで。今日からアタシが女神よ。どうも、この世界が大好きみたいだから、あんたをあの世界に送ってあげるわ。大好きな世界の大好きな人類を、魔王の手から救って見せなさいよ。あんたの手でね!」
メティスは光の渦に吸い込まれ、地上へと転送されていった。そう、『2人目』として。




