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美人ギャングに育てられてたら強くなりすぎた  作者: F.R


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第9話 トラブル鎮圧 裏の番長

 教室に戻ると、さっきの女子が心配そうな顔で立ち上がった。


「だ、大丈夫だった!? ケガとか……!」


「ああ。ちょっと話してきただけ」


「……ほんと?」


「ほんと」


 できるだけ自然に微笑んでみせる。


 彼女はほっと息をついた。


「助けてくれてありがとう。あ、でも……私が余計なこと言ったから……」


「いや、ありがとう。助かった」


 軽く頭を下げる。


 女子が頬を赤くし、小さく目をそらす。


 その表情に、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった。


(守るって……こういう感じだったっけ)


 ジージや茜に守られてばかりだった俺が、初めて“誰かを守った”瞬間だった。


 すると遠くからサイレンが聞こえた。


 キィィィィーーー……


 次第に大きくなり、校門のほうで止まる。


 教室がざわついた。


「また救急車?」


「最近多いよなーこの学校」


「だれだろ?」


 数分後、教師が慌てて教室に入ってきた。


「おい、お前ら! 一階のトイレで五人倒れてた! 歩ける状態じゃない! 」


 教室がさらにざわつく。


「五人!?」


「誰とケンカしたんだよ……」


「やべぇな……」


 女子が俺を見る。


 じっと、目を細めて。


「……ねぇ」


「ん?」


「さっきの五人……戻ってきてないんだけど」


「そうみたいだな」


「……まさか、あんた……」


 鋭い問い。


 だが俺は肩をすくめた。


「俺がどうやって五人を倒すんだよ。転校早々そんなことしないよ」


 わざと“高校生らしい反応”を混ぜる。


 彼女は少し考えたあと、小さく首を振った。


「……そっか。だよね」


 でも、その顔にはまだ“疑念”が残っていた。


(……まぁ、そりゃそうか)


 俺自身も、こんなに早く喧嘩すると思わなかった


 だけど。


 “弱いものに手を出した”


 この一点だけは、どうしても許せなかった。


(俺の普通の生活……こんなんで大丈夫かね)


 窓の外を見ながら小さくため息をつく。


 空は晴れていた。


 青い空が、どこか懐かしくて、でも少しだけ寂しく見えた。


  救急車が校庭から出ていくと、学校全体のざわつきはさらに広がっていった。


 俺のクラス、1年3組も例外じゃない。


「五人ってヤバすぎだろ」


「誰だよやったの……」


「警察くんのかな?」


 生徒たちが不安そうに騒ぎ合う。


 だが、ひとつだけ異常なほど冷静な場所があった。


――俺の周りだ。


 さっきまで調子に乗って絡んできていた不良たちの仲間が、俺の周囲を避けるように席を取っている。


 人間は本能的に、危険な生き物を避ける。


 それはギャングの世界だけじゃなく、普通の高校でも同じだ。


 ただ……それは本当に望んだ結果じゃなかった。


(俺、普通にしたかっただけなんだけどな)


 少し肩を落としたとき。


 隣の席から小さな声がする。


「……ねぇ」


 さっき助けてくれた黒髪の女子だ。


 彼女はノートを開きながら、ちらっと俺を見上げた。


「さっきの……ほんとに、関係ないの?」


 声は小さいのに、その目はごまかしを許さない。


 じっと見つめてくる。


 嘘を見抜く目。


 ただの心配ではなく、観察の目。


(……この子、鋭いな)


 俺は笑って肩をすくめる。


「偶然だよ」


 どう言っても怪しまれるのは分かっていた。


 だが――


「俺、ケンカとか得意じゃないし」


 “ごく普通の男の子”の振る舞い。


 これは演技じゃなく、俺が望む“普通の生活”のための言葉だ。


 女子は少しだけ息を呑んだ。


「……そっか」


 そして、ほんの少しだけ笑った。


「ごめんね。変なこと聞いて」


「いや、大丈夫。気にしてないよ」


「うん」


 彼女はまたノートに視線を戻す。


 その横顔はどこか柔らかかった。


 休み時間になると、クラスの男子が俺の席にやってきた。


 さっきの不良たちをとは別の、普通の男子だ。


「なぁ遥希くん」


「ん?」


「……おまえ、強いの?」


「は?」


 俺はわざとらしく引きつった笑いを浮かべる。


「なんでそうなるんだよ」


「だって五人消えてんだぜ? 遥希くん戻ってきて普通に座ってたし」


「いやいや、俺はただの転校生だよ」


「でもさぁ……」


 男子二人が俺の机に寄りかかり、声をひそめた。


 俺は心の中で頭を抱える。


 だが、次の言葉が引っかかった。


「ああ。なんか、裏の連中の“ボス”が言ってたって」


「裏?」


「一年の裏グループのトップ。

 名前は……えっと……誰だっけ」


 もう一人の男子が言う。


「“柏木かしわぎ”だろ」


 その名前を聞いた瞬間、クラスの女子たちがざわっとした。


「柏木って、あの……?」


「あの人、なんかバスケ部の問題にも絡んでたって……」


 男子のひとりが俺を見る。


「遥希くん、あいつの縄張りに正面から入ってきたんだよ」


「……」


(いや、入学しただけなんだけど?)


「で? その“柏木”ってどういう奴なんだよ」


 質問すると、男子は腕を組んで言う。


「喧嘩も強いけど……どっちかっていうと頭が回るタイプ。裏では上級生と繋がってるとか、なんとか」


「要するに“面倒な奴”だってことだな」


「まぁ、そうだな」


(厄介だな……)


 俺は心の中でため息をついた。


 日本に戻ってまで、ギャングみたいな構造に巻き込まれるとは思わなかった。

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