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美人ギャングに育てられてたら強くなりすぎた  作者: F.R


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第21話 いじめられっ子


昼休み、


俺は自分の弁当を片手に、二組の教室に顔を出していた。


 目的はひとつ。


 篝亜蓮に、放課後の部活の確認をするためだ。


「でさー、今日の練習メニューさ、走り込み増えたんだよね」


 亜蓮は自分の机に弁当を広げながら、いつもの調子で喋っていた。


「明日練習試合なんだから、軽めでよくね?」


「顧問の辞書に“軽め”って単語ないんだよね〜」


「ですよね」


 他クラスの教室というだけで、空気は少し違う。


 知らない顔。


知らないグループ。



 その中で、俺と亜蓮だけがぽつんと“こっち側”にいる感じだった。


 ふと、その視界の端で違和感が動いた。


 教室後方。


 窓際のほうで、数人の不良が輪になっている。


 中心にいるのは、痩せ型で背の曲がった男子生徒。


 手にはペットボトルやら購買のパンやら持たされている。


 笑い声。

 軽い突き飛ばし。

 机を蹴る音。


(……ああ、どこにでもいるタイプだな)


 “パシリ”。


 いじられ役、じゃない。


 これはもう、普通にいじめの範囲だ。


 俺は、無意識にそっちを見ていた。


 亜蓮も視線に気づき、そちらを見て小さくため息をつく。


「……あの子、気になる?」


「まぁ、」


 亜蓮は苦い顔で言った。


「ほんとは止めたいんだけどさ」


「止めないのか?」


「“止められない”って言うほうが近いかな」


 そう言って、前の列のほうを顎でしゃくる。


 ヤンキーっぽい金髪の男子が、椅子の背にもたれながらパンを頬張っていた。


 ピアス。


 ネクタイはゆるゆる。


 目つきだけは笑っていない。


「あいつ、“デクの棒”って呼ばれてる」


「ひどいあだ名だな」


「家、ヤクザなんだよ」


 亜蓮の声が、少しだけ低くなった。


「前ね、別の先生が止めたことあるの。

 “やめなさい”って本気で怒鳴って止めてくれたのに……」


「……そっからどうなった?」


「しばらくして、その先生いなくなった。

 地方の中学に飛ばされた、って噂」


 さらっと言うには、重すぎる話だった。


 亜蓮は拳を握りしめる。


「先生たち、あの子を見て見ぬふりしてる。

 “やばい筋とつながってる”って分かってるから」


「……なるほど」


「だからね」


 亜蓮は、いじめられている男子を見ながら、唇を噛んだ。


「私、何もできない自分に……ちょっと嫌気がさす」


 その横顔は、いつの亜蓮とも違って見えた。


 バスケのときみたいな強さでもなく、

 ふざけて笑っているときとも違う。


 ただただ、“悔しそう”だった。


(ヤクザ、ね)


 心のどこかで、懐かしさがじわりと広がる。


(俺の世界じゃ、マフィアだったな)


 血と殺気の匂い。

 銃と酒と、汗と煙草の匂い。

 あの頃のことが、少しだけ脳裏をかすめる。


 ぼうっとしていると――


「ねぇ、聞いてる?」


 亜蓮がじっと俺を見ていた。


「変なこと考えないでよ?」


「……何もしないって」


 苦笑いで返す。


 口ではそう言った。


 でも、あの猫背の男子の姿は、頭から離れなかった。


 自分のクラスに戻ってから、


 俺は机に突っ伏していた五人組に声をかけた。


「ねね、二組の“ヤクザの息子”について教えてくれる?」


 五人組は、あからさまに顔を引きつらせた。


「兄貴、あいつはマジで関わんないほうがいいっす」


「親父がガチの組の幹部で……」


「ちょっと前まで、中学生ボコった動画まわってきてたやつっすよ」


 口々に“相当やばい”情報をくれる。


 教師が飛ばされた話も、彼らからも聞いた。


(まぁ、表向きはそんなもんだろうな)


 俺の中で、ひとつの可能性が形になり始めていた。


 

 部活が終わり、汗を拭いてから帰路についた。


 一人で歩いていると、小さな公園の前を通りかかる。


 ブランコと、古い滑り台があるだけの、寂れた公園だ。


 そこで


「だ、大丈夫ですか!」


 聞き覚えのない男子の声が聞こえた。


 見ると、公園のベンチの前で、おばあちゃんが転んでいた。


 近くに落ちている買い物袋から、ネギやら豆腐やらが転がっている。


 そのすぐ側で、あの“いじめられっ子”が必死におばあちゃんを起こそうとしていた。


「す、すみません、動けますか……? 足、痛いですか?」


「おお……ちょっと膝がねぇ……」


 おばあちゃんの荷物を慌てて拾い集め、


 彼は躊躇なく背中を向けた。


「じゃ、じゃあ……おんぶします」


「そんな悪いよぉ」


「家どこですか?」


 ぐいっとおばあちゃんを背負う。


 両手は細いのに、支え方は安定していた。


(……力はあるじゃねぇか)


 真面目そうで、気弱そうで。

 でも、反射的に身体が動く


 弱いくせに、いい子だな


 おばあちゃんを背負って歩き出すその背中を、

 俺は少しだけ見送ってから、その後を追った。


 おばあちゃんの家に着くまで付き添い、

 玄関先で「本当にありがとうねぇ」と頭を下げられているのを見届ける。


 その帰り道、


「おーい」


「えっ!?」


 振り向いた彼は、本気で驚いていた。


 教室で見たときと同じメガネ。


 だが近くで見ると、目つきは優しい。


「転校生。隣のクラスの」


「あ、ああ……」


 どこか戸惑いながら、彼は頭を下げた。


「さっきの、見てた」


「えっ、えっ……」


「優しいんだね」


「い、いえ……あの……たまたま近くにいただけで……」


 慌てて手を振る。


 その動きが、なんか小動物っぽくて少し笑えた。


「俺、この辺詳しくなくてさ。

 最近転校してきたばっかで」


「あ、そうなんですか」


「だから、色々教えてくれると助かるんだが」


「ぼ、僕でよければ……」


 そこからは、他愛もない話だった。


 駅前のコンビニが安いとか。

 この公園は夜はちょっと怖いとか。

 食堂のC定食は地雷だとか。


 話してみて分かった。


(やっぱり、優しいな)


「名前は?」


「あ、えっと……早瀬 はやせ・みなとです」


「宜しくね」


 彼は、最初こそ緊張していたが、

 最後には少しだけ笑っていた。


「じゃ、また学校で」


「……はい!」


 その返事が、妙に嬉しそうに聞こえたのは、

 多分、気のせいじゃない。

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