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美人ギャングに育てられてたら強くなりすぎた  作者: F.R


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第20話 こはるという少女

こけた瞬間、世界が崩れた


 走っていた。


 150メートルの三走。


 全員の声が背中を押してくれて、


 私、がんばれてた。


 いつもの“作り笑い”じゃなくて、

 本気で、走るのが楽しいと思えた。


 抜ける。


 いける。


 まだいける。


 そう思った瞬間


 


「きゃっ!」


 


 地面がいきなり近くなった。


 手のひらが焼けるように痛い。


 膝に砂がめり込む。


(やだ……)


 その瞬間、頭の奥のどこかが、プツンと切れたように真っ白になった。


(また……やっちゃった……)


 転んだだけ。


 それだけのことなのに、


胸がズキズキして、息が苦しくなった。


 周りの目線が痛い。


 あの日と同じ。


 中学の頃。


 私は、バレー部でそこそこ頑張っていた。


 同じポジションの親友。


 ずっと一緒にいた子。


 家に行って遊んだり、勉強したり、


 部活帰りにコンビニ寄ったり。


 親友だと思っていた。


 大事な大会の日。


 試合の大事な場面で、私がレシーブをミスした。


 そのボールは床に落ちた。


 試合は、そのミスが原因で負けた。


 最初に親友が無言になった。


 次に、チームの子が距離を置いた。


「ごめんね」


「私のせいで負けちゃってごめん」


 何度言っても、誰も私を見なかった。


 次の日から、話しかけても返事は来なくなった。


 親友に呼んでもらえなくなった。


 一緒に帰ることもなくなった。


「なんで来るの?」


「あの試合思い出すから、近寄らないで」


 そんな言葉を直接言われた日、


 私は初めて、学校のトイレで泣いた。


 嫌われるって、


 こんなに簡単なんだって、


 そのとき知った。


(失敗しちゃダメなんだ)


 あの日から、

 人と距離を置くようになった。


 人に合わせて、嫌なことも断らず、

 ただただ“空気みたいな存在”でいようとした。


 目立たなければ、嫌われない。


 そう思って生きてきた。


 高校は、誰も知り合いがいない場所がよかった。


 地元から遠い、縁のない場所。


 そして


 ヤンキー校は、ある意味、私にとって都合がよかった。


 “強い子が多い場所なら、自分なんか誰も気にしない”


 バレーは好きだった。


 だから続けたかったけど、


 友達を作る気はなかった。


 会話は浅く。

 愛想笑いだけで済ませればいい。


 そのつもりだったのに――


転校生が来た


 ある日。


 知らない男の子が隣の席に座った。


 見た目は、地味。


 印象は、普通。


 でも、どこか“影”みたいな空気をまとっていた。


 最初は少し怖かった。


「よろしくね」


 小さく挨拶してみた。


 返ってきた声は、普通だった。


 だけど、なんだか安心した。


(……この人、壁つくらないんだ)


 だから、話してみた。


 ちょっとずつ、ちょっとずつ。


不良事件の日


 私は見ていた。


 何も言わなければよかったのに。


 “余計なこと言わないように”って、

自分に言い聞かせていたのに。


「やめなよ!」


 気づいたら言っていた。


(あ……やっちゃった)


 不良が睨んできて、

 私の胸がギュッとなった。


(嫌われる……怒られる……)


 ぐいっと押されて、私は転びそうになった。


(まただ……また、余計なことして……)


 叫びたくなる。


 なのに。


「大丈夫だよ。ありがとう」


 彼がそう言った。


 怒ってない声だった。


(え……?)


 私のせいで絡まれたのに。

 迷惑をかけたのに。


 なんで……?


 


 私は、150メートルを本気で走っていた。


 いつもは、頑張りすぎると嫌われる。


 だから控えめにしていた。


 でも今日は


 本気で頑張ってもいい気がした。


(遥希くんが……見てるから)


 そんな気がして。


 転んだ瞬間、


 あの日の中学の記憶が全部戻ってきた。


(また嫌われる)

(クラスの人、無視するかも)

(遥希くんも……離れていくかも)


 頭がぐちゃぐちゃで、

 膝の痛みより、胸が痛かった。


 涙が出そうになって、

 何が起きているのか分からなくなって。


 立ち上がれなかった。


 こわい。


 こわい。


 こわい……。



だけど、その声は、私を裏切らなかった


 


「こはる!!」


 


 聞き慣れた声。


 大きくて、まっすぐで、

 迷いのない声だった。


 


「諦めるな!!」


 


 なんで……?


(私、失敗したのに)

(迷惑かけたのに)

(裏切られるのが普通なのに)


 なのに、あの人は。


 私の名前を、ちゃんと呼んだ。


 私を、まだ見てくれていた。


(……バカじゃん)


 期待しちゃうじゃん。


 “この人なら、仲良くできるかな”って、

 思っちゃうじゃん。


 失敗しても、

 見捨てられないのかなって……


 そんなこと思ってしまうじゃん。


 もう、胸がいっぱいで息ができなかった。


 手が震えた。


 泣きそうだった。


「ごめ……」


 本当はもっと言いたいことがあったけど、

 声が全部喉でつまった。


 でも。


 それでも。


 私は最後の力を振り絞って――

 バトンを伸ばした。


 彼は、まっすぐ私を見て、言った。


 


「――任せろ」


 


 その言葉が。


 その一言が。


 私の心のどこかをぎゅっと掴んで、

 なにか大事なものが震えた。


 バトンは、確かに彼の手に渡った。


 

 走り出す彼の背中は、

 あっという間に誰よりも前に駆け抜けていった。


 風みたいだった。


 強くて、

 速くて、

 でも優しい風だった。


 気づけば、

 涙がこぼれていた。


(勝ってほしい)


 そう思った自分に驚いた。


(……勝って!)


 心の何かが叫んだ。


 次の瞬間。


「三組優勝だーーー!!」


 そんな叫び声が響いた。


 胸がぎゅっと熱くなった。


 悔しさでも、恐怖でもなく。


 ただ嬉しかった。


(ありがとう……)


 心の中でそっと呟いた。


(……ありがとう)


 この気持ちが何なのかはわからない。


 ただ。


 今日のことは、きっとずっと忘れない。


 



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