ひまわりの骨
東京は、知らない人たちで満ちていた。
朝も昼も夜も、無数の足音がすれ違い、誰もが誰かでないふりをしていた。
彼女は今日も一人で歩いていた。
新宿の裏路地、高層ビルの影が落ちる場所。
コンクリートの隙間に、枯れたひまわりが一本、首を垂れていた。
まるで死神のようだった。
黒ずんだ茎、ねじれた葉、種のない花芯。
誰かが植えたのか、風に運ばれたのか、それさえ分からない。
彼女は立ち止まり、しゃがみ込んだ。
ひまわりの骨を見つめながら、東京の音を遠ざけた。
タクシーのクラクション、スマホの通知音、誰かの笑い声。
それらすべてが、彼女には関係なかった。
「ここは、いやな場所だなあ」
誰も答えない。
でも、ひまわりは黙ってそこにいた。
枯れてなお、立っていた。
ポケットから小さな水筒を取り出し、数滴だけ根元に垂らした。
それだけが、今日の彼女の東京だった。