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加護なき少年、絶望より始まる救世の旅  作者: 灯花
第一章『内に秘めた思い千里を超えて』
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1.3 共同生活

 俺は生活スペースには人一倍気を遣っている。

 雨風防げるボロ屋を選び、その中には平民が捨てた家具をコレクションしている。

 椅子や、テーブルなんかも忍びながら持ち運び、充実した内装を実現している。

 そしてこのボロ屋の一押しポイントは()()だ。

 この都市を象徴しているイリアス教の教会は夜なのに明るくライトアップされ、空に輝く星空とよく合っている。

 一日の終わりとしてこの光景を見る。

 まさに最高の生活だ――俺一人なら。


「今まで行けなかった分、今日こそは食料調達に行ってもらうからな!」

「う、うん、わかったから落ち着いて、カルランさん!」

「その呼び方やめないか? なんか肌が痒い……」


 呼ぶならいっその事、「さん」を捨てて欲しいな。

 そこで止められるとどうにも気持ち悪さが残るな。

 嫌味か、俺に対する当てつけかな!?


「そんなに不服な顔してどうしたの? あっ、もしかして本当は恩を返せない奴じゃないかって疑ってたりする?」

「違うわッ!」


 このやり取り合計四回目だ、もうやめてくれよ。

 ……でもそうか、あれこれフレニアを助けてから五日が経過するのか。

 俺はその間、いじめ抜かれてた記憶しかないけどな。

 「週に一度も水風呂できないのは嫌だ」とか、「ご飯は最低でも一日二食が当然だ」だとか、「水は井戸から汲み上げればいつでも飲めるものだ」とか抜かしてきやがって……平民の常識が抜けきれてない。


「よく堪忍袋の緒が切れずに今まで匿っていられたもんだ。よく頑張った俺……」

 

 とはいえ、その我儘のせいでかき集めた食料は、あっという間に食糧不足に陥っている。

 だから、俺は元凶であるフレニアに食料集めの付き添いの任務を与えた。

 フレニアには貧民として生活を逸早く順応してもらい、自分が食べる分は自分で集めてもらわなければ。

 

「えーカルランさんって結構可愛いと思うんだけど……。それにしてもカルランさんは鬼畜だね」

「……」


 おっと、心が乱れてそうになってしまった。

 だが、良いだろう……そこまでご所望なら骨の髄まで貧民の流儀を叩き込んでやろう。

 気がつけばお前も立派な貧民になってるはずだ。

 ……っていう建前はここまでにしようか。

 本心ではもっと時間が欲しいって思ってる。

 まだフレニアと言葉を交わした時間が短いからわかっている気でいるのは気が引けるけど――多分嘘をついている。

 ……そんな気がした。

 そして、そう思うようになったのは三日前のことだ。

 

  ―――――― < 三日前、隠れ家> ――――

 

『大丈夫だよ、だって私も()()になったんだし』


 その言葉がずっと引っかかっていた。

 てっきり平民は裕福だとばかり思っていた。

 でも、思っているより単純ではないようだ。

 そこで、ソファーに横たわって療養中のフレニアに思い切って話を切り出してみることにした。


「前々から思ってたんだけど、どうして貧民になっちゃったんだ?」


 フレニアは口に含んだ空気を吐き捨てた。

 

「……やっぱり知りたいよね」

 

 数秒の沈黙が流れフレニアは、か弱いランプの光に照らされつつ苦笑いした。

 

「隠すことでもないから言っちゃっても良いかな。……私の家は一般人向けの服を仕立てて販売する事で生計を立てたの」

「一般人向けか、変わってるなお前の家族」

「それ、私の友達にも言われたよ。お父さんお母さんはすごく器用で、その気になったら貴族の人が気にいる服を仕立てられたと思う。それでも一般向けに服を作ってるのは私たちのためだって知ってる。たくさん服を着させてあげたいって、たくさん色を知って欲しいって……」


 しかしそこで、フレニアの声が震え始める。

 一筋の涙が頬から溢れ落ち、ソファーに染みができた。


「でも……もう……パパとママの服を着れない……」


 拭っても拭っても払拭されない嗚咽は全部吐き出させないと壊れてしまうんじゃないかと思うほどだった。

 俺は出来るだけ彼女を見ないように背を向け、その場に腰を下ろし、少しの間一生分の後悔に耳を傾けた。


「もう平気……気を遣ってくれてありがとう」


 平気と言いつつ映った彼女の目元はまだ濡れていた。

 今初めて人の地雷を踏んでしまうことに怖気づいている。

 貧民って階級は人の関わりが薄い。

 一人一人が距離を取り、現状に対する不満を己の胸の内からさらけ出さないように隠す。

 だからこそ、貧民はほとんどが感応性に欠けているのだ。

 それは俺も例外ではない。


「そこまで神経質にならなくて良いよ。私も心の整理つけたかったから……泣いたのはさっきの一回だけ、もう十分」

「なら言葉に甘えさせてくれ。つまりは店がうまく経営できなかったからか?」

「違うよ、お父さんお母さんを死に追い込んだのは全部が全部この国の王と貴族の無能さが招いたんだ」


 フレニアはランプの光から目を逸らすように寝返り、天井を仰いだ。

 

「上納金って知ってる?」

「上納金……?」

「簡単に言えば、国を運営するために各家庭からお金を回収しますって制度なんだ。でもね、その割合が稼ぎの半分だよ……とてもじゃないけど暮らせるはずないよ」


 あぁ……なるほど、なんとなく読めてきた。

 この国は上納金を払う能力がそもそもない貧民が5割、上納義務が免除されている貴族が2割、そして、唯一上納金を払う必要がある平民が3割で構成されている。

 その唯一の上納金を納める人達に、収入の半分が重くのしかかっていると……。


「もうわかっちゃったかもしれないけど、私の家は多額の上納金に押しつぶされて、家計破綻しちゃったんだ」

「……聞いてる感じ、その上納金が国民に使われてはなさそうだな」


 フレニアは顔を落としながら頷いた。


「……私腹を肥やすために使われてるのは見てれば分かる。だって、日に日に城が拡張されていってるの眺めてたから」

「えーと、それは他国を寄せ付けないためとも考えられると思うんだけど?」

「うーん……守ることが目的なら、城の拡張は()()()必要ないよ」


 城の拡張についてはアメリア様から聞いた事があった。

 城の拡張は権力の誇示を表していると。

 数ある国の一つであるザザヴァージュでは、『ダンジョン』から無限に生み出される特産品の流通が盛んだ。

 それによって生み出された莫大な財力を持って、広大な領地の内に遠距離からでも見えるような城塞が造ったのだとか。

 ただ、底なしの財力は城の拡張だけに使われているはずもないと他の各国では噂されているようだ。

 そして、出どころの分からない噂が現在もザザヴァージュに近づけない心理的な障壁となっているらしい。

 つまり、城の拡張が必要だって言いたいんだけど……フレニアは「絶対に」と言い切ったな。

 

「城の拡張が必要ない……その心は?」

「だって――第三の英雄『光輝様』がクレオシスにいるから」

 

 一瞬、その名前を聞いて心臓が伸縮した。

 ここで光輝の名前が出てくるのかよ。

 思い出すだけで手の震えが止まらない。


「顔色が悪いみたいだけど大丈夫?」

「あっ……だ、大丈夫だ。そ、それでその『光輝様』ってのは一体全体誰なんだ?」


 フレニアは少しだけ驚いているように口を開き、眉を吊り上げた。


「えっ……あの有名な『光輝様』だよ?」

「いや、みんなご存知の、みたいな雰囲気醸し出されても知らないんだが?」


 俺は首を傾げると同時に彼女もまた首を傾げた。

 『光輝』が有名だとは一切聞いたことがない。

 光輝について詳しく知るには絶好の機会かもしれないな。


「そんなに凄い人なのか?」

「逆にクレオシスで『光輝様』の英雄譚を知らない人の方が珍しいと思うなぁ」

「それじゃ、その英雄譚をかいつんで教えてくれよ」

「いいよ〜。英雄譚で有名なお話といえば、四千もの魔物の軍勢に一人で立ち向かって無傷の勝利を収めたり、万病をその身に宿す厄災と呼ばれるまでに至った疫病宿竜(ポイズン・ドラゴン)を一振りで切り伏せたり、十歳の頃には騎士団の団長に圧勝したりとかが伝記の中では有名だよ」

「それはまた、本格的に人間やめてるな……」


 光輝が強い事は身を持って体験してなかったら、俄かに信じられない伝記しかないな。

 というか、世の中俺知らないものばかりだな。

 ポイズン・ドラゴン、魔物……勇者。


「なぁ、『()()』っていう言葉に聞き覚えあるか?」

「ユウシャ……何それ?」


 フレニアの反応は火を見るより明らかだった。

 平民であるフレニアが知らないんだ、この世界に『勇者』という概念が、もしかしたらないのかもしれない。

 だとするなら、前世で俺を助けたのは……一体誰だ。


「……カルランさん、急に難しそうな顔してどうしたの?」

「いや……俺の勘違いだったみたいだ。ところで話が変わるけど、あの太った貴族はフレニアを諦めると思うか?」

「きっと大丈夫だよ……」


 俺の質問に返されたのは、無理矢理だと側から見てもわかるような不恰好な笑みと震えた声。

 だろうな、俺は貴族から反感を買う行為をした。

 

「いつ何が起こったって不思議じゃない、何かしら対抗策を考えておかなとな……」

 

 と、フレニアに聞かれないように静かに決意するのだった。

 

  ――――――――――――――――――――


「カルランさん、リボン……変じゃないかな?」


 俺が過去を振り返っている最中、突然声が聞こえて現実に引き戻された。

 彼女に視線を向けると、少し泥臭そうな服を着てても打ち消せない美少女がいた。


「あの、そんなに見つめられると恥ずかしい……。やっぱりここにリボン付ける目立つよね」

 

 慌てた様子で髪に結ばれている蝶々型のリボンを調整しようとして、フワリと左右へと流れる。

 

「いや、位置は悪くないけど……そのリボンは?」


 そう聞くと、彼女は少し嬉しそうに、そして懐かしそうにそのリボンをそっと触れた。

 

「服に使う素材の一部だよ。お父さんお母さんに何回もおねだりしてたら頭につけてくれたんだ。今になっては形見同然だけどね」

「…………」


 形見と言ってるぐらいだ、もう両親は……。

 そりゃ一度も外してる所見たことがないはずだ。


「それなら、なくさなようにしないとな」

「もちろん!」


 ニコッと心に響くような笑顔を向けられて、俺は思わず笑みを溢した。


読んでいたただきまして有難うございます。

誤字・脱字等があった場合は教えてくれるとありがたいです。

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