第94話 みんなでリーゼント!
「よっしゃー! じゃあ思考暴走でヴィンセントを出すぜ!」
「誰だそれは! リーゼントを出せ! 変な外国人を出すな!」
「じゃあ私は地井健人を出すわ」
「だから誰だそれは! 日本人にしたらいいってもんじゃないぞ!」
「なら私がティーセットを出そう!」
「そのボケはやるとしたら黄花でしょう! なんで部長なんですか!」
「茶々っとやっちゃって桃子さん」
「やかましいぞ! 上手いこと言うな!」
「ほなワシがリーゼントを出すで」
「なんでお前は時々ボケないんだ! ボケるターンだろう!?」
「碧、それはツッコミとして成立してるのかしら……?」
ああしまった。またユーモラスな方向に思考が働いてしまっていた。俺はあくまでクールでいるんだ。笑いを取るために会話をするのが目的じゃない。
いやそんなことはどうでもいい。とりあえず思考暴走でリーゼントのカツラを増やし、紅希意外のメンバーでもリーゼントカスタムになれるか試さないとな。本来の目的を忘れるところだったぞ全く。
「よっしゃおめーら、いくぜ!」
「ハシレチェンジ!」
俺たちはハシレンジャーにチェンジし、ヘルメットの左側にあるタイヤを押す。
「思考暴走!」
俺は目を瞑り、紅希が使っていたリーゼントを強くイメージする。
俺もパワーアップして、ケイシソウカンマンに勝つ。そして地球の平和を取り戻す。そのためにリーゼントは必要なんだ。頼む、ちゃんと実体化してくれ!
すると俺の目の前に、見事な散切り頭のカツラが出現した。
「おいなんで散切り頭なんだ! 開国直後か!」
「何やってんだよブルー! それじゃ文系怠惰の音がすんだろ!」
「文明開化だ! なんだその私立で大学デビューしたみたいなやつは!」
「リーゼントを出そうとして散切り頭を出すなんて、酷いにもほどがあるわね。見てみなさい。私はちゃんと地井健人を出したわよ」
「おい本当に出すな! 誰なんだそいつは!」
「あれ? ここはさっき郵便配達に来た場所じゃ……」
「郵便屋じゃないか! さっきのやつか! あいつそんな名前だったのか!?」
「私はティーセットを出したぞ! ほら、お抹茶に茶菓子だ!」
「それをティーセットと呼ぶんですか!? なんだか物凄く和風な気がしますが!?」
「ふう。結構なお手前にもほどがあるわね」
「飲むな! お前はせめて紅茶キャラを最後まで守れ!」
俺たちがアホなものを出している間も、ハシレイ/ブラックは集中しているようだ。こいつならリーゼントができる過程までイメージできるから、本当に出せるんじゃないか?
そんなことを考えていると、ハシレイの目の前にリーゼントのカツラが出現した。紅希が使っていたのと見た目は同じものだ。
「おー! 司令やったじゃねーか! これでリーゼントカスタムになれるやつが増えたぜ!」
「いや、まだ分からんで。1回誰か試してみんとな。やってみたいやつはおるか? おらんかったらこっちから指名するで。今日は16日やから……16番の武田!」
「学校の先生か! 誰だ武田とは!?」
「あれ、武田おらんか。ほなしゃーない。ブルー、やってみい」
そう言ってブラックは俺にリーゼントのカツラを手渡す。俺が使うのか……。遂に俺もパワーアップできるかもしれない。ワクワクもするが、少し緊張するな。
早鐘を打つ心臓の音を感じながら、俺はリーゼントを持ち上げた。そしてヘルメットにリーゼントを装着する。青い光が溢れ出し、スーツの裾が長く伸びていく。
「ハシレブルー! リーゼントカスタム!」
「よっしゃー! 成功だぜ司令! この調子でどんどんリーゼントを出してこーぜ!」
「ちょっと待ってな。頭使いすぎて疲れとるんや。鱗粉補給さしてくれ」
「蝶々か! 摂るなら糖分だろう!?」
「司令、ここに茶菓子があるわよ。食べる?」
「遠慮しとくわ。できればストロベリーサンデーがええ」
「贅沢を言うな! 茶菓子で我慢しておけ!」
「俺が出してやるぜ! ドクロ出るーサンデーだったよな?」
「ストロベリーサンデーだ! なんだその地獄みたいな日曜日は!」
レッドがカレンダーの日曜日にドクロの絵を描いていると、イエローがふと疑問を口にした。
「思ったのだけれど、リーゼントのカツラならリーゼントカスタムとしてパワーアップできるのよね。なら他の髪型でもできないかしら」
「他の髪型でパワーアップ? できるのかそんなこと?」
「リーゼントでパワーアップできるんと同じ作りならできるわな。別にカツラを被っただけでパワーアップしとるわけやない。あれはワシが作り出したパワーアップ装置やからな」
「だができないとも限らない! やってみようじゃないか! ほらブルー、これを被るんだ!」
「なんでまた俺なんですか!」
部長/ピンクが投げ渡してきたのは、先ほど俺が出した散切り頭のカツラ。せっかくリーゼントでパワーアップできたのに、なんで散切り頭にならないといけないんだ……。
「なんだ、乗り気じゃなさそうだな! なら私が海苔がなる木を出してやるぞ!」
「そんな強引な乗り気あります!? ああいや海苔木なのか……。ややこしいこと言わないでください!」
「ほらいいから被るんだ! そーれ!」
ピンクは俺のリーゼントをスポッと取り、代わりに散切り頭のカツラを被せた。
青い光が溢れ出し、スーツは和服のような形に変わっていく。
「ハシレブルー! 散切り頭カスタム! ……じゃないんですよ! なんですかこれは!」
「ねえレッド、ブルーの頭を叩いてみて」
「よっしゃー! えいっ!」
『授業だりーからサボってカラオケでも行こーぜ。どうせレポート出しときゃ単位取れんだろ』
「散切り頭を叩いてみれば文系怠惰の音がしたぞ! ……いやなんだこのしょうもないオチは!」
こんなことをしている場合ではないと言うのに……。呆れているとハシレイが休憩を終えて戻って来た。よし、リーゼント製造再開だ。
俺たちはハシレイの負担を少しでも減らすべく、自分たちでもリーゼントを出せるよう思考暴走に集中した。
そして全員分のリーゼントができたのは、時刻が0時を回った頃だった。




