第90話 敵の親玉、出現!
特訓を終えた俺たちは、再びハシレンジャーロボの中で足踏みをしていた。帰る時もこれなんだな……。
「よっしゃー! エンジン全開だー!」
「なんでお前は行きも帰りも元気なんだ! 今特訓してきたところだぞ!?」
「ぜえ……ぜえ……ワシはもう限界や……。税……消費税……消化税……」
「だんだん税金になっていくな! なんだ最後の消化税とは!?」
「なんか食べもんを消化する時にかかる税や」
「そんなことで税を取られてたまるか! どういう税率計算なんだ!」
「そらあれや、胃液1ミリリットルに対して5万円とか」
「ヤミ金か! 払えるかそんなもの!」
荒い息をしている割に余裕そうなハシレイを横目に、俺も足踏みを続ける。紅希ほど元気なわけではないが、俺もまだまだ余裕だ。まだ若いということでいいのだろうか。
「3人とも頑張ってくれ! 疲れてきたらスムージーも用意してあるから、給水してくれ!」
「なんでそんなドロっとしたものを用意してるんですか! 水でいいです水で!」
「なら私が用意してあげるわ。ヨーロッパから取り寄せた硬水よ」
「できれば軟水だとありがたいんだが!?」
水分補給をさせる気があるのかこいつらは……。まあそれはいい。スムージーをがぶ飲みしているハシレイを見ながら、俺は改めて前を見る。
ずっと気になっているのだ。俺たちが走っているからかもしれないが、景色が大きく揺れている。
走っているだけなら横には揺れないはずだ。だが見えている景色は横にも揺れている。これはどういうことだ? 何かが起こっている気がする。
「みんな、1度止まってくれ! 何かがおかしい!」
「どーしたんだよ碧ー? ピエロのメイクをした清少納言がチートもののラノベを書いてたのかー?」
「そこまでおかしくはない! 見ろ、景色が揺れているだろう!」
俺の言葉で全員が前を見て立ち止まる。ハシレンジャーロボが止まっても、景色の揺れは止まらない。やはり、何かが起こっているようだ。
「何かしら。飢饉?」
「言うとしても地震だろう! なんで飢饉でこんなに揺れるんだ!」
「しかし揺れているとテンションが上がるものだな! ミラーボールでも出すか?」
「出さないでくださいクラブじゃないんですから! 何が起こってるかちゃんと見ましょう!」
揺れはどんどん大きくなり、黒い影が広がっていく。何かが降ってきているのか……?
ドォーン! とんでもない音がして、巨大な物体が落ちてきた。これは……建物か? 日本の警視庁にそっくりな建物だ。
すると警視庁のような建物の中から人影が現れる。ロボットのような見た目のそれは、普通の怪人とは違って花びらのような勲章をいくつも付けていた。
ゆっくりとハシレンジャーロボの方に近づいて来た怪人は、大きな声を張り上げた。
「こんちゃああああす!!」
「なんでちゃんと挨拶してるんだ! 運動部か!」
「自分、ケイシソウカンマンって言います! よろしくおなしゃぁぁあああす!」
「だから運動部か! コーチじゃないぞ俺たちは!」
「我々ホーテーソク団は! 正々堂々! スポーツマンシップに則り! ハシレンジャーと戦うことを! 誓います!」
「体育祭の開会宣言か! そんな感じなのかお前!?」
まさかのキャラに驚きながら呆れてしまったが、そんなことを言っている場合ではない。
敵のボスが現れたのだ。しかも俺たちに堂々と宣戦布告してきた。ちょっと堂々としすぎているが。なんであんなスポーツマンみたいなキャラなんだあいつは。
「あんたらがハシレンジャーっすね! よくもうちのかわいい部下たちをやってくれたっすね! 容赦しないんで、よろしくおなしゃぁぁあああす!」
「キャラが運動部すぎて内容が入って来ないぞ! なんとかしろそのキャラを!」
「遂に現れやがったなケイシソウカンマン! 俺たちが深江振ってやるぜ!」
「深江を振るな! 迎え撃て! そもそも誰だ深江とは!?」
「深江は俺の高校の時の担任だぜ!」
「禁断の恋じゃないか! ……いやそんなことはどうでもいい! ケイシソウカンマン、地球に何をするつもりだ?」
「深江を振らないで欲しいっす! 深江はあんたのことをずっと一途に想ってたんすよ!」
「深江から離れろ! なんでお前が乗ってくるんだ!」
全く緊張感の無い空気の中、俺だけがケイシソウカンマンの登場に焦っているようだ。なんで紅希のやつは敵のボスが現れたのにボケる余裕があるんだ?
「地球は自分たちが正しく仕切り直すっす! 今のままじゃ、どの道地球は滅びるっす!」
「今のままだと滅びる……? どういう意味だ!」
「こんなにしょうもないことで争いが起こる星は初めて見たっす! すーぐタンクトップ派かキャミソール派かで喧嘩するじゃないっすか!」
「見たことないぞそんな喧嘩! お前地球のどこを見てきたんだ!?」
「こんなくだらない星は、ちゃんと自分たちが正してあげないといけないっす! その邪魔をするなら容赦しないっすよ! ただし! これ以上自分たちの邪魔をしないって言うなら、こちらも手を出さないでいてあげるっす!」
ふざけたことを……。意味の分からない喧嘩を見ただけで、この星を征服しようとする? あり得ない考えだ。紅希の言うように迎え撃つ……いや紅希は迎え撃つとは言っていないが、とにかく真っ向から戦うしかない。
「悪いけどよー、ホーテーソク団は俺たちが潰すって決めてんだよ! おめーは俺たちが倒して、この地球を守ってやるぜ!」
「なら仕方ないっすね! 自分はあんたらを潰すって決めたっす! さあ! 今すぐそこの居酒屋に行くっす!」
「なんで酔い潰すつもりなんだ! 戦って潰せばいいだろう!?」
「まあいいっすよ! これでも食らうっす!」
ケイシソウカンマンがそう言うと、やつの周りに大量の戦闘員が現れた。ただし、今までのような白い全身タイツだけではない。機動隊のように武装した戦闘員だ。
戦闘員たちはこちらに銃を向け、一斉に引き金を引いた。
すると大量の光弾がこちらに向かって飛んで来る。光弾が掠った木や建物は、一瞬で焼け焦げてしまっていた。
「まずい! みんな、避けるぞ!」
「分かったわ。サングラスと日傘を出すわね」
「日をよけてどうする! 攻撃を避けろ!」
アホなことを言っている間に、大量の光弾はハシレンジャーロボに命中してしまった。




