第85話 出動!ハシレンジャーロボ!
爽やかな朝だ。歩いているとそよ風が吹き、どこからか小鳥の声が聞こえてくる。
少しずつ涼しくなってきて、ようやくスーツのジャケットを羽織れるようになった。
たまに紅くなった落ち葉が道を転がって行き、秋の訪れを感じさせる。最近は秋なんて無いようなものだったが、僅かでもこういう時期があるのは良いものだ。過ごしやすく、通勤が苦でない。今日も気持ち良く仕事ができるというものだ。
少しばかりいつもより高いテンションで通勤していると、ハシレチェンジャーに通信が入った。
「碧、ワシや! 自分が子どもの頃帰り道で『おかえり』って声かけてたおっちゃんや!」
「お前か! どう返せばいいか分からなくて子どもながらに気まずかったぞ!」
「そんなもん『ただいま』言うといたらええねん。どうせそれ以上何言われるわけでもないねんから」
「意外とそっち側の心理は冷めてるんだな!? ……いやそんなことはどうでもいい! ハシレイ、何があった?」
「なんやバレとったんかいな。おもんないなあ」
何回こいつの声を聞いていると思ってるんだ。今更聞き間違えたりはしない。
そもそもハシレチェンジャーで通信してくる時点でほぼハシレイだ。黄花はテレパシーが使えるし、紅希はハシレチェンジャーが使えない。いや、紅希がチェンジャーを使えないのも意味が分からないが。
そして鳥羽部長は今同じ道のどこかを歩いているはず。わざわざチェンジャーで通信してくるのは、ハシレイしかいないはずだ。
「実は今大変なことになっとるんや! 場所を送るから至急向かってくれ!」
「大変なこと……? それは具体的にどうなっているんだ?」
「説明しとる暇は無い! とにかく早く向かわんと、水枕の特売が始まってまうんや!」
「我慢しろそれぐらい! なんだそのどうでもいい理由は!?」
「ええからはよ向かってくれ! 頼んだで!」
ハシレイはそう言うと通信を切ってしまった。ほどなくしてチェンジャーに地図が送られてくる。
俺は小さくため息をつき、地図が示す場所に向かって走り出した。
「……なんだこれは」
地図が示す場所に辿り着く前に、俺はその場に立ち尽くしてしまった。
巨大なロボットが何体もずんずんと行進しているのだ。それも街を破壊しながら。
何が起こっている? ホーテーソク団の怪人にしてはデカすぎるぞ。
「碧! やっと来たかよ! 見てみろよあれー! 特製コロッケのゲリラ販売だぜ!」
「そこより見るところがあるだろう!? 後で買えそんなもの!」
「碧、どうしたのそんなに大きくなって。見た目もロボットみたいになってるじゃない」
「おいそれは俺じゃないぞ! どこを見てるんだ黄花!」
「あら碧、いたのね。気づかなかったわ」
「じゃあさっきは誰に話しかけてるつもりだったんだ!?」
「友達の小林碧ちゃんよ」
「ああそういう名前の友達がいるんだな!? ややこしいことこの上ないな!」
紅希と黄花のバカコンビに付き合っている暇は無い。なんとかしてあのロボット軍団を止めなければ……。
だがどうやって? 俺たちがいくら常人より強いとは言っても、あの大きさのものに立ち向かうのには無理がある。
「とにかくいくぜおめーら! ハシレチェンジ!」
「ハシレチェンジ!」
紅希と黄花はチェンジしてロボットに向かって行く。まずい、あのままでは……。
そんな時、後ろから大きな声が聞こえた。いつの間にかやって来ていたハシレイだ。右手に大きなリモコンのようなものを持っている。あれはなんだ?
「待ってくれ自分ら! ワシらには秘密兵器があるやろ!」
「司令? 何を言っているの。期日定期なんて聞いたこと無いわよ」
「秘密兵器だ! 定期に期日があるのは普通じゃないか!?」
「ええから見てみい自分ら! ポチッと!」
ハシレイはリモコンのボタンを勢い良く押した。すると突然ゴゴゴゴと地鳴りが始まり、俺たちはふらついてしまう。
「なんだー? 司令何したんだよー?」
「まあええから見ててみい! さっぱりすんで!」
「びっくりだろう!? なんで風呂上がりみたいになるんだ!」
そんなことを言っていると、何か大きなものが地面からせり上がってくるのが見えた。
なんだ……? いや待て、少しずつ見えてきたが、かなり見覚えがあるぞ。
大きく真っ黒なフルフェイスのヘルメットを被ったそれは、今行進をしているロボット軍団とそっくりの体をしていた。
だが胸に付いた勲章が、そのロボット——いや、ロボットになる前のそいつがいかに強かったかを示している。
地鳴りが終わり、ロボット軍団の前に立ったそれは、頭にハシレイのヘルメットを被せられたケイシカンマンそのものだった。
「……いやなんでヘルメットは外さなかった!? 改造の過程で脱がせられなかったのか!?」
「いやあ、あれだけは脱がせられんかったな。それにほら、ヘルメット被ってた方がハシレンジャーっぽいやろ?」
それは確かにそうだが……。ずっとヘルメットを被せられているケイシカンマンの身にもなれと思ってしまうぞ。
「ハシレンジャー! あのロボット、『ハシレンジャーロボ』に乗ってくれ! ほんであのデカブツを倒すんや!」
「了解だ。ハシレチェンジ!」
俺もチェンジし、レッドとイエローと一緒に跳び上がる。すると俺たちはコックピットのようなところに立っていた。
しかし戦隊ものでよくある、跳び上がってロボに乗るシーンは一体どうなっているのだろうか。仕組みが知りたいものだが、どうやらそこはそういうものとして割り切るしか無いようだ。実際俺たちも跳び乗っているわけだからな。
「司令ー! これどーやって動かすんだー? ペダルもベルもねーぞ?」
「なんで自転車と同じ仕組みだと思ったんだ! だが確かにレバーなんかも無いな。おいハシレイ、どうすればいいんだ!」
「3人で同時に動くんや! そしたらハシレンジャーロボはそれに応えてくれる! 自分らがラジオ体操第二をしたら、ちゃんとロボも同じ動きをするで!」
「第一じゃダメだったのか!? ……いやそもそもラジオ体操をするな!」
「しゃー! おめーら、いくぜ!」
俺たちは敵のロボットに向かって、ハシレンジャーロボを走らせた。




