第83話 怪人の善意
「で? 話って何だよ碧ー?」
俺はハシレンジャーのメンバーを全員基地へ集め、ケイシチョウマンについての話をしようとしていた。
今まで共に怪人を倒してきた仲間たちに、怪人を倒さないでおこうと言うのは少し勇気がいるな。何を言われるか分からないが、とにかくケイシチョウマンについての話はしなければならない。
でないと俺がケイシチョウマンを庇い、裏切ったと思われるのがオチだ。それは避けておきたい。
「お前たちに聞きたいこと……というか、相談があるんだ」
「珍しいわね。何の相談かしら。物件探し?」
「そんなことでわざわざ仲間を集めるか! なんでそうなる!?」
「私的には碧は1CKNぐらいで十分だと思うわよ。それぐらいあれば困らないでしょう?」
「LDKとかじゃないのか!? なんだCKNとは!?」
「チキンよ」
「チキンじゃないか! なんだチキンに住むって!」
「きちんと生活しなさいという意味よ」
「チキンと生活してどうする! ……くだらないぞ!」
全く、何故こいつらはここまで話を脱線させられるんだ。今から大真面目な話をしようとしているのに、こんなコトをされたらぶち壊しだ。
「黄花、真面目に聞いたってくれや。碧は今からワシらに大事な話をしようとしてるんやで」
「ハシレイ……珍しいな、お前がそんなに理解があるなんて」
「当たり前やろ! ワシは自分らの司令官やで! 碧の恋愛対象が男子児童やって告白したいことぐらい分かるわ!」
「とんでもない決めつけだな!? いつ俺がショタコンだと言った!?」
「まだ言うてへんやん。やから今から言うねやろ?」
「言わない! そもそも俺はショタコンじゃない!」
「あれそうなんか。かいわれ大根か?」
「くだらないぞ!」
なんでこいつらはまともに話が聞けないんだ……。ケイシチョウマンの方がよっぽどまともだった気がするぞ。
まあいい。俺がさっさと話せばいいだけだ。このままだらだらしてしまうと、よりこいつらが調子に乗ってしまう。
「とりあえず本題に入ろう。ケイシチョウマンのことについてだ」
「ケイシチョウマン……? 誰だそいつー?」
「なんで覚えてないんだ! お前たちも蕎麦屋で会っただろう!?」
俺がそう言うと、紅希たちは考え込むような仕草を見せる。本当に覚えていないのか? どう見てもホーテーソク団の怪人だったが……。
「橋田、ちゃんと説明してあげた方がいいんじゃないのか? なんなら私から説明しようか?」
「部長が説明って大丈夫なんですか……? 不安しか無いんですが」
「まあ任せろ! ケイシチョウマンは、時給850円だ!」
「だから言ったじゃないですか! 誰が時給の話してくれって頼んだんです!?」
「違うのか? でも本人は安い時給でもしっかり働くというプロ意識を持っていたぞ?」
「どうでもいいんですそんなことは! そもそもいつケイシチョウマンの時給を聞いたんですか!」
「蕎麦を食べた後お手洗いに行っただろ? その時に親父さんと仲良くなって聞いたんだ! ちゃんともっと時給を下げるように頼んでおいたぞ!」
「なんで嫌がらせするんですか! 頑張って働いてるでしょうあいつ!」
やはり鳥羽部長に説明を任せるのは間違いだったな……。そろそろちゃんと説明したいところだから、俺が全部話すしか無いだろう。
そう思っていた時、紅希が大きな声を上げた。
「あー! あの蕎麦屋のバイトかー! 俺が面接落ちたのにあいつは受かっててズリーと思ったんだよなー!」
「なんでお前もバイトしようとしてるんだ! 敵と一緒に働くな!」
「で、そのケイシチョウマンがどーしたんだよ?」
紅希が1番まともに見えるのが不思議だ。まあ一応リーダーは紅希だから、こうやってちゃんと話を本筋に戻してくれるのはありがたい。
「お前たちも見たと思うが、ケイシチョウマンは真面目に蕎麦屋で働いていた。以前ハシレチェンジャーの通信を乗っ取った時は何かと論破しようとしていたが、今はそれも無い。なんでも、ゴミ山に吹っ飛ばされた時に拾ってくれたのが蕎麦屋の親父さんで、恩返しと生活のために働いているそうだ」
「そうなんか……。そんなこと知らんとみんなで焼きビーフン食べてしもたな」
「なんで焼きビーフンなんだ! 部長も頼もうとしてたが名物なのか!?」
「それはどうでもいいわ碧。それで、何が言いたいの?」
「ああ。俺はケイシチョウマンを倒す必要は無いんじゃないかと思っている。人間のために真面目に働くような怪人を倒すのは、本当に俺たちがやるべきことなのか?」
俺が質問を投げかけると、全員がまた考え込む。それはそうだろうな。怪人を倒さないなんて、ヒーローとしてはあるまじき行為だ。
「碧、ワシはホーテーソク団をほんまに許せへんねや。故郷を滅ぼされた恨みもあるし、怪人は全員倒してやりたい。ケイシチョウマンが真面目に働いとるんかって、今だけかもしれんやろ?」
「それも一理ある。だが、俺はケイシチョウマンが今も地球を征服したいと考えているとは思えないんだ」
「うーん……」
ハシレイは納得していなさそうだ。そもそもハシレイはホーテーソク団を倒すためにハシレンジャーを組織した。怪人を倒さない選択肢を提示されても、飲み込めないのは当たり前だろう。
「私も司令に同意ね。怪人を信じるなんて、愚かにもほどがあるわね。いつうどん派に寝返るか分からないじゃない」
「そう裏切るのか!? お世話になった人をホーテーソク団に引き入れるとかじゃなくてか!?」
「そもそもケイシチョウマンは蕎麦派でいいのか? 私は個人的にケイシチョウマンはフォー派だと思うぞ!」
「なんですかその派閥知りませんよ!?」
ハシレイと黄花が渋い顔をする中、紅希はまだ考え込んでいる。
「紅希はどう思う? 俺はケイシチョウマンを倒すのは気が引けるんだが……」
「俺はよー、怪人にも色々いると思うんだよ! そもそもホーテーソク団って悪意はねーわけだろ? だから本当に人の心の温かさに気づいたやつは、もう悪さしねーと思うんだよなー」
確かにホーテーソク団は世界に秩序をもたらすために活動している。そこに明確な悪意は無いのかもしれない。実際怪人に嫌なやつはほとんどいなかったし、もしかしたらやつらは根はいいやつらなのかもしれないな。
「とりあえずよー、ケイシチョウマンと話をしてみねーか? 本当におめーは蕎麦派なのかって」
「そこはどうでもいい! なんで今麺類の派閥が問題に挙がるんだ!」
「ちなみに俺は肉うどんのうどん抜き派だぜ!」
「じゃあ肉じゃないか! うどんを食えうどんを!」
結局紅希の言ったことが採用され、俺たちは再びケイシチョウマンが働く蕎麦屋へと向かうことにした。




