第76話 目覚めろ!
「ぐああああっ!!」
レッドに殴られた俺は、基地の壁を突き破って外に飛び出し、地面に叩きつけられた。衝撃でチェンジが解けてしまう。
なんて威力だ……。だがおかげで目が覚めた。俺はケイシセイマンに操られ、仲間を倒そうとしていたんだ。恐ろしい……。
「おい碧! 目覚めたかよ!」
「ああ、効いたよ……。助かった」
「よっしゃー! 目覚めたならこっち来い! 朝飯食うぞ朝飯!」
「睡眠から目覚めたわけじゃないぞ!? なんで朝食が作ってあるんだ!」
「今日のメニューはゴミ箱の包み揚げ〜季節の燃えるゴミを添えて〜だ!」
「何を食わせようとしてるんだお前は! 季節の燃えるゴミとはなんだ!?」
「そりゃーあれだよ、トイレットペーパーの芯」
「季節関係無いじゃないか!」
「んじゃ、ピンクとブラックも殴って来るぜー!」
レッドはそのまま、イエローが拘束していたピンクと青春を探していたブラックを俺と同じところまで吹っ飛ばした。
そして同じくチェンジが解除された鳥羽部長とハシレイのところへ駆け寄って来る。
「おいおめーら! ひでーぞいきなり襲ってくるなんてよー! 俺てっちりしちゃったぜ!」
「びっくりだろう!? フグ鍋を食うな!」
「世話が焼けるにもほどがあるわね。そう言えばゴミ箱もそろそろ焼けるけど食べるかしら?」
「本当にゴミ箱を調理するな! あと包み揚げと聞いていたが!?」
「私は焼きゴミ箱なら上に蓋が付いているタイプがいいぞ! あの蓋が美味いんだ!」
「そんな魚の皮みたいな感覚でゴミ箱食べてるんですか!?」
「ワシはゴミ箱よりゴミ袋の方が好きやな。あれ頭から被って首のところで縛って窒息しかける遊びが癖になるでなあ」
「いつかそのまま死ぬぞ!?」
全員のアホな発言は相変わらずだが、とりあえず元に戻って良かった。レッドとイエローのおかげだ。こいつらには感謝しないとな。
元に戻った俺たちを見て、ケイシセイマンが地団駄を踏む。
「ちょっとー! せっかくあたしの部下にしたのに何してくれちゃってんのー! こーなったらあたし1人で……」
「ていうか司令! チェンジできたのかよ! 黒いハシレンジャーがいるから誰かと思ったぜ!」
「共有不足にもほどがあるわね。チェンジできるなら言っておいて欲しいものだわ」
「いやあすまんすまん。これはほんまに困った時に使おうと思ってた機能でな、自分らにはサプライズでチェンジしたかったんや」
「サプライズと言えば、私は高校生の時誕生日に友達から黒トカゲの蒸し焼きをもらったことがあるぞ!」
「昔めちゃくちゃ嫌われてました!?」
「聞いてー!? 敵だよ!? 敵ここにいんだから聞いてー!?」
ああ、ケイシセイマンの存在を忘れていた。まあ思い出したところで、俺たち全員でこいつを倒すだけの話。もう操られたりはしない。
「部長、ハシレイ、いきますよ!」
「ハシレチェンジ!」
俺たちの周りを青、ピンク、黒のタイヤが回り出し、俺たちはハシレンジャーへと姿を変えた。チェンジを終えた俺たちは、レッドとイエローの横に並ぶ。
「赤い暴走! ハシレッド・リーゼントカスタム!」
「青い突風! ハシレブルー!」
「黄色い光! ハシレイエロー!」
「ピンクに突撃! ハシレピンク!」
「黒い爆風! ハシレブラック!」
「エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
俺たちの背後で大爆発が起こる。ハシレンジャー復活だ。
「よくも俺たちの仲間を操ってくれたなー! 全力で叩き潰して伸ばして発酵させて焼き上げてやるぜ!」
「余計な工程を増やすな! パン作りか!」
「やれるならやってみてよ! あたし、強いよ?」
「いくぜおめーら!」
レッドの声を合図に、ケイシセイマンへ向かって走り出す。するとブラックが1人抜け出した。
「ワシの釘を爆発させて煙幕を作る! その隙に一斉攻撃や! ピコピコにしたるで!」
「ボコボコだろう! なんだその赤いハンマーで叩いてそうな擬音は!」
ブラックが釘バットを取り出して振ると、ケイシセイマンの前に大量の釘が飛んで行く。
そして釘は全て爆発。煙で視界が埋まるが、その瞬間ヘルメットから光が放たれる。
こんな地味な機能があったのか……。まだまだハシレンジャーについても知らないことがあるな。
「何これー! 見えないんだけどー!」
ヘルメットから出る光でケイシセイマンのシルエットが浮かび上がる。俺とレッド、イエロー、ピンクはそれぞれの武器を合体させ、暴走バスターを完成させた。
「よっしゃいくぜー! 暴走バスター! ハシレボンバー!」
レッドが暴走バスターの引き金を引くと、4色のタイヤに押し出された爆弾がケイシセイマンに向かって飛んで行く。
ケイシセイマンに爆弾が当たる瞬間はスローモーションに見えた。ゆっくりと爆発に巻き込まれていくケイシセイマンは、そのまま上空へと吹き飛ばされて行った。
「きゃああああああああ!! 紙相撲はほんとごめーーーーーん!!」
「なんでまだ紙相撲のことを謝るんだ! 気にすることじゃないだろう!?」
だんだんと煙が晴れてきて、視界がクリアになってくる。基地はレッドが俺たちを殴り飛ばした時に大穴ができ、俺たちの名乗り爆破で天井も無くなってしまっている。
……なんか基地がボロボロになったのは単純に俺たちのせいだな。頑張って修繕しないと……。だが今はとにかく休みたい。体力が限界だ。
チェンジを解除した俺たちは、その場にへたりこんだ。
「疲労が溜まるにもほどがあるわね……。なんで味方と戦って疲れなきゃいけないのかしら」
「それはなんと言うか……すまなかった。だがそう言えば、ケイシカンマンはどうしたんだ?」
「……そのことで話があるの」
真面目な顔でそう言った黄花は、ゆっくりと基地の方に視線を移した。




