第75話 ケイシセイマン様のために
「よーし! 着いたよー! じゃ、あんたたちはレッドとイエローをやっつけちゃってー!」
既に夜は更けている。真っ暗で電気も点いていない中で俺たちは基地の中に入り、紅希と黄花を探す。
……いた。紅希はソファに寝転がってスマホを眺めている。スマホから漏れる光が微かに紅希の顔を照らし、ヨダレを垂らす紅希の顔が見えた。
あいつは何を見ているんだ? こっそり覗いてみるか。
紅希の後ろに回り込んでスマホを覗いてみると、唐揚げにシルクハットを被って髭を生やした謎のキャラクターが、じゃがいもと会話しているシュールすぎるアニメを見ていた。
なんだこれは……。見るアニメまで肉関連とは徹底しているが、意味が分からなすぎる。
まあそんなことはどうでもいい。今の俺の使命は、ケイシセイマン様のために紅希と黄花を倒すことだ。
気づかれないようにゆっくりと銃を構え、紅希の後頭部を狙う。
「んー? なんか頭の後ろがツルツルするぞー?」
「ハゲてるのか!? ムズムズとかじゃなくてか!?」
「あれー? 碧じゃんか! 何してんだよ! 1人カバディかー?」
「そんなちゃんと人数がいても何をするか分からないことをするか! お前を倒しに来たんだ!」
「はー? 何言ってんだよ碧! 俺たち仲間だろー?」
仲間……? そう言えばそうだ。紅希と黄花は俺の仲間。なら何故俺は紅希を倒そうとしている……?
「ちょっとブルー、何やってんの? さっさとそこのレッドやっちゃってよ!」
ケイシセイマン様がイラついている。早く紅希を倒さないと。
俺は改めて銃口を紅希の頭に向ける。
……が、紅希がいない。
どこに行った? 今さっきまでここにいたはずだが……。
するとどこからか黄花の声が聞こえてくる。
「碧、仲間を狙うなんて気でも狂ったのかしら。そのうち大福を被ってソーセージ伯爵とか名乗り出すわよ」
「そこまで狂ってはない! というか狂ってないぞ俺は! 正気だ!」
「正気とは思えないわね。いつもなら碧はプラスチックのフォークを曲げて『イリュージョン!』とか言ってるのに、今はタピオカストローで前髪を巻いてるじゃない」
「ずっと何を言ってるんだお前は! ひとつもそんなことしてないぞ!」
「好物を食べれば元に戻るんじゃないかしら。ほら、碧の好きなトートバッグの天ぷらよ」
「揚げるなそんなもの! 何を付けて食べればいいんだ!」
「そんなの決まってるじゃない。化粧水よ」
「お前は俺を何だと思ってるんだ!?」
全く、今から倒されようとしているというのに呑気なものだ。まあどうせこいつらは今から俺たちに倒される。そうすればこのうるさい声からも解放される。早くケイシセイマン様にこいつらの首を持って行かないと……。
「ピンク、ブラック、ケイシセイマン様のために紅希と黄花を倒さないと……」
「そうだなブルー! 私も早く紅希くんと黄花くんを見つけ出して、正々堂々お地蔵さんのモノマネで倒してみせるぞ!」
「どうやったら勝ちなんですかそれは! 動かないだけじゃないんですか!?」
「何を言うんだ! ちゃんとお供えもされるぞ!」
「誰に何をお供えされるんですか!」
「そりゃあ道行く人がビリヤニとか」
「なんでインドに立ってる前提なのか教えてもらえます!? 滅多にビリヤニ持ち歩いてる人いないですよ!?」
「失礼だなブルー! ビリヤニと言えばバングラデシュもあるだろ!」
「そこまでビリヤニに詳しくないです! なんでビリヤニの知識量でグローバルスタンダードを求めるんですか!」
鳥羽部長/ピンクはいつも通りのペースだ。対してハシレイ/ブラックは既に紅希と黄花を探し、基地の中を歩き回っている。
「どうだブラック? 見つかりそうか?」
「そろそろ見つかるで! ワシの失われた青春!」
「何を探してるんだお前は! 真面目にやれ!」
「ワシかて美少女の幼なじみがおって、高校生になってから距離感が微妙になったと思ったら幼なじみがクラスメイトに告白されて焦って、でも幼なじみはワシだけを見てるのに気づいてなくて、お互い両思いなんに気づかんまま一緒に帰って、寄り道でタージ・マハルに行く青春が欲しかったんや!」
「だからなんでインドにいる前提なんだ! 青春から一気にカレーの匂いがしてきたぞ!?」
「何言うてるんや。ビリヤニの匂いやろ?」
「どっちでもいい! インドから離れろ!」
「じゃあ司令とブルーも一緒にバングラデシュに……」
「バングラデシュからも離れてください!」
とんでもないマイペースコンビだな……。だがそんなことを言っている場合ではない。俺たちは紅希と黄花を見つけ出し、ケイシセイマン様にその首を持って行かないといけないのだ。ケイシセイマン様の命令は絶対。ケイシセイマン様の命令は絶対。ケイシセイマン様のビリヤニ……じゃない。ケイシセイマン様の命令は……。
「目覚ませバカヤロー!!」
突然上から紅希の声が響き、俺たちの頭に何かが落ちてくる。ヘルメットの上に何か硬いものが落ちて来た。
頭に乗った硬いものは、何か動いているようだ。これは……足か?
そう思った瞬間、頭の上のものがけたたましい音を出した。
「ケーーーーーン! ケーーーーーン!」
「キジ!? なんでキジなんだ!?」
「いやだってよー、おめーらの目を覚まさせたくてニワトリを探してたんだけどよー。いなかったからキジにしたぜ!」
「何故キジはいる!? どう考えたってキジの方が珍しいだろう!?」
「うるせー! いたんだから仕方ねーだろ! 黄花、行くぜ! ハシレチェンジ!」
紅希の声と共に、天井から2つの影が落ちて来る。俺たちの目の前に降り立ったのは、ハシレッドとハシレイエローだった。
「いくぜ! ハシレッド! リーゼントカスタム!」
レッドはハシレイお手製のリーゼントカツラを被り、リーゼントカスタムへと変身した。
レッドのリーゼントカスタムへの変身を認識した瞬間、俺は後ろに吹っ飛ばされていた。




