第74話 ハシレイの変身
ハシレイのヘルメットからタイヤが飛び出し、上からハシレイの体の周りを回っていく。
タイヤが消えると、ハシレイの姿は真っ黒なハシレンジャーに変わっていた。
こいつ、チェンジできるのか!? 何故今までチェンジしなかった? 何故隠していた? 何故俺たちと一緒に戦うことをしてこなかった?
様々な疑問が湧いてくる中、ハシレイが名乗り始める。
「非道な悪を迎え撃ち、地球の平和を守るため! 日々身体の鍛錬と高校野球観戦に時間を費やし! 正義の組織を束ねる者! 黒い姿で闇を駆け、人知れず悪に立ち向かう! 黒い太陽と呼ばれし男! 暴走魂を胸に秘め、黒い折り紙で鶴を折る! 暇があったら黒鶴を折り、いつの間にやら千羽鶴! 誰の見舞いに行くわけでもなく、淡々と黒鶴を量産! はあー羊羹! キャビア! 黒糖! 黒糖ロール! イカ墨パスタ!」
「いつまで名乗る気だお前は! ところどころ意味が分からないし、最後の方は黒い食べものを言っているだけだった気がするが!?」
「折り鶴のくだりにも言及してくれや! ワシいっつも暇な時折ってんねん!」
「折らなくていいそんなもの! 誰の見舞いにも行かないんだろう!?」
「黒豆! 黒ごま! 海苔!」
「続けるな! その食べものの羅列は要るのか!?」
「いやだって黒いということを文章で分からせなあかんやんか」
「メタすぎる発言は差し控えてもらいたいが!?」
なんでチェンジして初っ端からこんなことをやってるんだこいつは……。ついさっきまで故郷を滅ぼされた経緯を聞いて絶望していたやつとは思えないな。
「な!? あんた、ハシレンジャーになれたの!? あたし聞いてないんだけど! 寝膀胱に水!」
「『寝耳に水』だろう!? なんだその強制トイレ行きことわざは!?」
「まー何人に増えたところであたしにはカンケーないもんね! サクッと料理しちゃうよ! 揚げ浸しでいい?」
「なんでそうなる! 俺たちはナスか!」
「橋田! 私たちもチェンジだ! 揚げ浸しより煮込みの方が助かるぞ! さっぱりしたい」
「料理されようとしないでください! 煮込みを風呂と間違えてます!?」
ツッコミながらも俺と部長はハシレイの横に並び、ハシレチェンジャーに手をかける。
「ハシレチェンジ!」
俺たちの周りを青とピンクのタイヤが回り出し、俺たちはハシレンジャーへと姿を変える。
「青い突風! ハシレブルー!」
「ピンクに突撃! ハシレピンク!」
「非道な悪を迎え撃ち、地球の平和を守るため! 日々身体の鍛錬と高校野球観戦に時間を費やし!」
「もう1回やるな! 短縮版は無いのか!?」
「ええもうしゃーないな。黒い爆風! ハシレブラック!」
「今はレッドがいないから代理で俺がやらせてもらう! エンジン全開、突っ走れ! 暴走戦隊!」
「ハシレンジャー!」
俺たちの背後で大爆発が起きる。その爆発を合図に、ケイシセイマンと俺たちは互いの方に向かって走り出した。
「行くでー! ワシの故郷を滅ぼしてくれたお返しや! よくもワシの紙相撲コレクションを燃やしてくれたな!」
「もっと恨みは無いのか!? 紙相撲が1番なのか!?」
「紙相撲に関しては申し訳ないと思ってるし!」
「なんで思ってるんだ! 星を滅ぼした方を償え!」
俺たちはそれぞれヘルメットの右側にあタイヤを押して武器を取り出し、ケイシセイマンに向ける。同じくハシレイ/ブラックがヘルメットの右側にあるタイヤを押すと、釘バットが出現した。古いヤンキー像だな。
「やっちゃって! 戦闘員たち!」
ケイシセイマンは白い全身タイツのような戦闘員たちを呼び出した。
すかさずブラックが戦闘員たちに向けて釘バットを振る。するとバットから釘が飛んで行き、戦闘員たちに刺さって大爆発を起こした。
「ぎゃあああああああ!!!!」
「やっばーい! 凄い威力! あたしの戦闘員たちが一瞬でやられちゃった! 楽しーからもう1回やってもらっていい?」
「もうちょっと部下を大事にしろ! 人の心が無いのかお前は!」
「仕方ないなー、ならあたしが直接相手してあげる! まずはー、敬礼!」
ケイシセイマンがそう言うと、俺たちの体は勝手に敬礼のポーズを取る。
体が言うことを聞かない……。こいつの能力は、俺たちの体を操ることなのか? トレーナーマンとかと同じ能力な気がするが……。
「そのままこっちに来て! あたしの横に並んで10万1から順番に番号!!」
「1からでいいだろう!? なんだその悪魔の年齢を数えるときの番号は!」
ピンクとブラックがふらふらとケイシセイマンの方に歩いて行く。俺の足も勝手にケイシセイマンの方に向き、気づけば他のメンバーと共に並んでいた。
そうだ、俺はこの人に従わなければ……。頭が朦朧とする。俺たちはケイシセイマンの隣で再び敬礼のポーズを取った。
「よーしいい子! じゃ、あんたたちの基地に戻るよー!」
ケイシセイマンの後ろについて基地への道を辿る。ケイシセイマン様が前を歩いていると、なんだか安心するな。これも人望がなせる技なのだろう。
俺たちはただ、前を歩くケイシセイマン様に付き従って行った。




