第73話 ホーテーソク団の目的
「あーもう最悪ー! なんであたしがこんなゴミ山に……」
俺の背後から現れたのは、ケイシセイマン……らしき女の形をしたロボットのような怪人。まだ姿を見たことが無いから分からないが、恐らく話し方からしてケイシセイマンで間違い無いだろう。
俺はハシレチェンジャーに手をかけ、いつでもチェンジできるような体勢を取る。
「あー! ハシレンジャーじゃーん! 何してんのこんなとこで! 生活?」
「そんなわけあるか! なんでこんなゴミ山で生活しないといけないんだ!」
「橋田! こっちにまだ使えるベッドがあるぞ! 試しに寝てみよう!」
「生活しようとしないでください! なんで乗っちゃうんですか!」
「おお、これはなかなかの寝心地やな。でも北枕ちゃうか?」
「お前のさじ加減だろう!? 寝る向きを変えろ向きを!」
ゴミ山で生活しようとし始めた部長とハシレイを止めながら、俺はケイシセイマンに向き直る。
「おいケイシセイマン。何故お前たちは地球を征服しようとする? 他にも星はたくさんあるだろう。地球に拘る理由はなんだ?」
「そんなのあんたたちが抵抗してくるからじゃーん? 大人しくホーテーソク団の領土になっちゃえばいいのに!」
「なるわけがない。そもそも、お前たちの目的はなんだ? 宇宙を支配することか?」
「うーん、そーいうわけじゃないんだよねー。あたしたちは星々をちゃんと整備してあげて、秩序を作り出したいだけ!」
「秩序……?」
何を言っているんだこいつは。他の星のことは知らないが、少なくとも地球には秩序がある。こんな荒っぽいやり方で征服してくるホーテーソク団よりは治安が良いところに住んでいるつもりだが……。
「やっぱどの星でもルール守んないやつとかいるじゃん? ドロボーしたりスピード違反したり、人を殺したり。そーいうのを無くすのが、あたしたちの目的! 結局自分より強大な力を目の前にしたら、人は従うもんだからねー!」
……なるほど。犯罪やルール違反を無くすために、力で押さえつけるという考えか。
確かに、法を整備しても守らないやつはいる。それはどの世界でもそうだ。そういうやつらを取り締まるために警察という組織が存在しているが、ルールを守らない人間は後を絶たない。
だが、それを力で押さえつけることが果たして正解なのだろうか。人間にはある程度自由があり、その自由の領域からはみ出ることは確かに間違いと言える。ただ、人間とは間違いを犯すもの。間違いから学び、罰を受けることで人間的に成長していくものだ。
ある意味罪を犯すこともその人の人生にとっては必要なことなんじゃないかと俺は思う。
「とにかくー、あたしたちに従っときなよ! 安全と秩序は保証するよ! あと毎朝ネイルオイルを支給するよ!」
「なんで全員ネイルをしてる前提なんだ! 毎日使い切るものなのか!?」
「ネイルオイルはありがたい! 私はすぐ卵を焼くので使い切ってしまうからな!」
「爪に使ってもらえます!? なんでネイルオイルで料理してるんですか!」
「卵のホイル焼きだ!」
「ホイルで包む意味ありますか!? ……いやもしかして殻のまま焼いてます!?」
「ええやんか! ワシも桃子ちゃんの作ったカモノハシの玉子焼き食べたいなあ」
「いつ誰がカモノハシだと言った!?」
「そうだぞ司令! 私が使う卵はスピノサウルスの卵だ!」
「どの時代のスーパー行ってるかだけ教えてもらえますか!?」
全く……。真面目な話をしていると言うのに、何故この人たちはここまで脱線できるのだろうか。危機感というものを覚えて欲しい。もう危機感という概念から教える必要があるのではないだろうか。
「ほら、そこのピンクちゃんは乗り気みたいだよ? ブルーくんはどーなの?」
「生憎だが、俺は間違いを犯すのも人間の美しさだと思っている。もちろん罰を与えても懲りないやつもいるが、そういうやつは死んで気づく。とりあえず他所の星から来た得体の知れない組織に征服されるのはお断りだ」
「そっかー、なら潰すしかないね!」
「ちょっと待ってくれ!」
ハシレイが突然会話に割って入る。ヘルメットのバイザーから覗く目は、珍しく不安そうな表情をしていた。
「なあケイシセイマン、自分らの目的は星を整備して秩序を作り出すことや言うてたやろ? ほななんでワシの故郷を滅ぼしたんや?」
「あんたの故郷? どこそれ?」
「ボーソー星や! ホーテーソク団に滅ぼされたんや!」
「あー! ボーソー星ね! あそこはほんっとに言うこと聞かなかったから、武力で制圧しようとしたらうっかり滅ぼしちゃった感じ! ごめんねてへぺろ!」
「……そうか」
ハシレイの目は1度悲しそうなものになり、そこから表情が消えた。
こんなハシレイは初めて見た。流石に故郷が滅ぼされた理由が「うっかり」だったなんて聞かされたら、怒りや悲しみを通り越して無表情になるものなのか。俺はまだ地球が滅ぼされていないから気持ちが分かるとは言えないが、多少想像はできる。今のハシレイは、絶望に包まれていることだろう。
するとハシレイは不意にヘルメットのバイザーを下げ、信じられない言葉を口にした。
「ハシレチェンジ」




